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第百十三話 隠蔽色

 膝をつき、嗤うカルミナを見て確信する。この不快感はカルミナが何かしたものだと。


 俺の体に外傷はない。そして加速して成長しているのに不快感は治まらずに増すばかりだ。だとすれば、おそらくこれは――



「毒か」


「ふふふ、さすがに気づきましたか。でも気づいたところでどうしようもありません。これで形勢逆転。そして終わりです」



 毒は魔王さんのときにも使っていた。そのため警戒はしていたが、色も匂いもない毒では気づきようがない。魔王さんのときに色がついていたのは毒は色で判断できるという先入観を持たせるためだったのだろう。


 再度、口から血を吐き出す。


 腕で血を拭うと、指先が変色していることに気づく。



 ……ダメだ。成長しても毒は抜けるようすがない。耐性もできないようだ。普通の毒ではないのだろう。毒を破壊すれば解毒できるだろうが……



 毒の破壊自体は可能だった。だが、毒は全身に回っている。破壊するには全身を破壊属性のオーラで包まなくてはいけない。そして、それを実行した場合、成長の加速は無効化されてしまう。


 今まで腕や足のみで破壊の力を使っていたこと。全身に破壊の力を纏えば防げた攻撃をわざわざ回避したという事実。それらの事柄から、カルミナは俺が全身に破壊の力が纏えないことに気づいたのだろう。


 せめて毒が全身に回る前に気づければ局所の破壊で解毒できた。そう思うものの、ほぼ痛みを感じない体では不可能だろうとも思う。いきなり死んでいてもおかしくはなかった。不快感があっただけでもマシというものだ。



「思ったよりも派手にやられてしまいました。この体は頑丈ですが直しづらいのが難点ですね」



 カルミナの足のひびは完全に無くなっていた。そして右腕も元に戻っている。幸い左腕と胸に開いた穴はそのままだが、時間がたてば直ってしまうというのは容易に想像できる。



 このままではまずい。とはいえ成長の加速は必要不可欠だ。解毒はできない。だとすればこの状態で戦闘を続けるしかないだろう。幸いまだ体は動くが、問題はいつまで動くかだ。……もう、後のことを考えてる余裕はなさそうだな。



 膝をついた状態のまま、両手を地面につける。軽く腰を上げ、足で魔法を放つ。


 クラウチングスタートの要領で飛び出した俺は一歩で音の壁を突破する。


 破壊の力を込めた拳を額目掛けて振り抜く。


 予想に反して防御もされずにカルミナへと当たるが、手ごたえを感じなかった。それどころか、何故か俺の視界が回転していく。


 投げられた。空に浮かぶ黒点が見えたとき、それを理解する。そのときにはすでに地面へ叩きつけれており。衝撃で肺からは空気が漏れていく。


 呼吸が乱され、一瞬、行動不能になる。


 その一瞬で両手両足が拘束された。すぐさま破壊の力で拘束を解くが、その一手のせいで完全に後手に回ってしまう。


 目の前には足が見えていた。


 顔面を踏みつぶそうとしている。


 そしてその足はもう躱すことができない位置であった。




 大地を割る轟音。ぐしゃりという不快な音。地中深くへ沈んでいく体。俺の視界は赤く染まっていた。



 ……なぜ? なぜ俺は投げられた?



 今も体は地中を削りながら下へと進んでいる。額も割れ、視界も赤いままだ。ただ、やはり痛みは感じていない。だからこそ、この時間で考えていく。


 体の調子はたしかに悪い。しかし、速度も破壊の力も落ちてはいないはず。現に防御もされずにカルミナの額に当たっていた。



 いや、違う。防御しなかったんじゃない。する必要がなかったんだ。



 おそらく、カルミナは俺が頭部を狙ってくることを読んでいた。そして頭部に変化の力を集中させ、破壊の力を無効化させたうえで俺に変化をかけたのだろう。


 今までは変化の力を体全体に纏っていた。それを他の防御を捨てて一点集中させれば不可能ではない。

 ……けど、正気じゃないな。もし頭以外なら完全に壊れてた。分の悪い賭けだ。いや、それだけ読みに自信があったということか。俺も少し焦っていた。一直線に核を狙えばさすがにバレるか……



 いつの間にか体は地中を削るのを止めていた。遠い地上を見上げれば、飽きるほど見ている次々に色を変えていく光が見える。カルミナの魔法が地中へと侵入してきていた。


 相殺はできる。ただ、相殺しただけでは次を叩きこまれて魔力を失っていくだけになるだろう。ここは打ち勝たないといけない。そのために今度は俺が賭けにでることを決めた。


 体中から絞り出すようにして魔力を集めていく。

 限界を超えた体からさらに抽出し、何かがが壊れた。同時に破壊の力が強くなる。


 目の前まで迫ってきたカルミナの魔法に極大の破壊の矢を放つ。それはまるでレーザーのようであり、カルミナの魔法を呑み込んで破壊していく。


 俺は炎の魔法を使い、レーザーを追うようにして地上を目指す。そして賭けに勝ったことに胸をなでおろしていた。


 破壊の力は使えば使うほど体を壊していく。ただ、今まで使っていて完全に壊れたのは味覚だけだ。その味覚が壊れたのも限界を超えて魔法を使ったせいである。そのことから限界を超えたときだけ完全に壊れるということが分かっていた。そして、壊れるのは五感のうちのどれかだろうという予想もしていたのだ。


 結果、壊れたのは嗅覚であり、懸念していた視覚と聴覚は無事だった。嗅覚ならば戦闘にほぼ支障が出ない。失ったものとしては大きいが、賭けとしては勝ったと言ってもいいだろう。


 地面から飛び出すと、カルミナが宙に浮いているのが見えた。そのため、そのまま魔法で飛び上がる。


 カルミナは傷一つない状態に戻っていた。そのカルミナへボール型にした破壊の力を放つ。


 何の捻りもない単発の魔法は簡単に躱された。だがそれは狙いどおりであり、破壊の魔法はカルミナの背後で爆発を起こす。


 爆発でカルミナにダメージはない。しかし、俺の狙いはダメージを与えることではなく、背後の空間を壊すことにあった。


 氷にひびが入ったときのような音が耳に入る。同時にカルミナの背後の空間はひび割れた。



「くっ! 小癪なことを!」



 ひびの入った空間は元に戻ろうとして近くのものを吸い込んでいる。その吸引力はかなりのものであり、遠くにいる俺の体も引っ張られるほどだ。当然、近くにいるカルミナも吸われ、そのあまりの勢いに体勢を崩していた。


 その隙に一気に近づいていく。カルミナは迷うそぶりを見せたものの、僅かに視線を外した。空間を変化させることを優先したようだ。


 近づく分には吸引力も有利に働き、自らの魔法と相まって一瞬でカルミナのもとまで辿り着く。


 両手を組み、全力で振り下ろす。そのときカルミナは空間を元に戻し、こちらを振り向いたところだった。



 大砲の発射音のような音が響く。砲弾となるのは真下に飛んだカルミナだ。


 鉄球を殴りつけたような感触こそあったが、破壊の力が届いた気はしなかった。物理的な防御は間に合ってなかったが、あのタイミングでも魔法での防御はされたようだ。


 地面にクレータを作ったカルミナを追いかけ、落下の勢いを利用して攻撃を仕掛ける。


 勢いよく振り下ろした拳は受け流され、クレーターを大きくすることしかできなかった。


 カルミナは距離をとろうとするが、無理に体を動かし、猛攻を仕掛けて逃げる隙を与えない。


 よく見ればカルミナの右腕には大きなひびが入っていた。先ほど受け流したときのものだろう。完全には対処できなかったようだ。


 頭を狙う振りをして、右腕を執拗に攻めていく。


 体感で二十秒。繰り出した攻撃の数は百を超える。それだけの攻撃によって、ようやく右腕の破壊に成功した。


 体はすでに限界に近い。攻撃を受けていないというのに何度か血を吐きだしてしまっている。

 カルミナが攻撃を仕掛けてこないのは時間を稼げば勝てるからだろう。俺が血を吐き、カルミナの体を染めるたびに嬉しそうに嗤っている。



 ……そろそろ四十代。毒も回りきった。長くはないな。



 成長による身体能力の向上はすでに終わっている。今は技術だけが伸び、技でカルミナを攻め立てていた。しかし四十代に入ったこと、治らない毒のせいもあって体の動きが鈍りはじめる。


 いまだ攻めているものの、カルミナの顔には余裕があった。攻撃は決まらなくなり、右腕を破壊した以上の成果を得られない。


 体の動きはどんどん鈍くなっている。ただ、瀕死のせいか思考だけは今まで以上に加速し、時間が凝縮されているように感じていた。



 ……死ぬ寸前、ということか。独自魔法でもないのに周りがスローモーションに見えるとはな。



 カルミナの動きがはっきりと見えていた。そのおかげで、カルミナの右手が恐ろしい速度で生えていくのも見える。そして、その手が剣のようになっていくのも目に入っていた。


 一瞬での再生。それに対し驚きはない。魔王さんから特殊属性持ちを殺そうとしなかった理由を聞いていたからだ。


 魔王さん曰く、確証はないものの、カルミナは特殊属性持ちが死ぬと一時的にその力を使える可能性が高いらしい。そして現在持っているとしたら先代の魔王の生命の特殊属性だということも聞いている。そのため、いきなり再生しての攻撃というは頭の片隅には存在していた。


 ゆえに回避はできないが、防御する余裕はある。ただ、そんな状態で俺が選んだのは防御ではなく、攻撃だった。


 ダメージ覚悟で拳を振るう。


 腹には異物が侵入してくる感覚。それを無視して振るった拳は、辺りに鐘を叩いたような音を響かせた。


 拳はカルミナに命中している。ただしそれは狙った場所ではない。突如カルミナの肩から生えてきた盾のようなもので俺の拳は防がれていた。


 一方で俺の腹は貫通し、痛みこそないものの大量の血が流れている。臓器も傷ついているのだろう。こみ上げてくるものがあり、溜まらず口から盛大に血を吐きだしてしまう。


 血はカルミナの顔を真っ赤に染めていく。


 嗤っていたカルミナの表情が止まる。そして、次の瞬間、悲鳴が上がった。


 響く絶叫。それは俺の計画どおりだった。

読んでいただきありがとうございます。

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