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第百四話 魔王その弐

 ロイドさんの拳が魔王さんに突き刺さる。俺は唖然としてしまい動くことが出来なかった。それは俺を見て突然怒り出したロイドさんのこともそうだが、驚異的な速さの魔王さんに攻撃が当たったことに驚きを隠せなかっためだ。



「痛ってぇ!!」



 ロイドさんが拳を押さえながら飛び退く。魔王さんのほうは微動だにしていない。痛みすら感じていないようだった。



「どうなってやがんだ。銅像でも殴ったみたいだったぜ」


「大丈夫ですか……っていうか、いきなりどうしたんです? そっちでは話し合いとかは出来なかったんですか?」


「いえ、私たちのほうでも話は聞けたわ。ロイドさんが飛び出したのは無事だと聞いてたツカサくんが変わってたからよ」



 あとから駆けて来ていたフルールさんが合流し、ロイドさんの突然行動を説明してくれる。


 最初は俺の怪我で怒ったのだと思った。しかし、怪我は大体治っている。話を聞きくとほかに理由があるようだった。二人は俺が変わってしまったという。


 フルールさんに自分の顔を確認するよう促され、剣の腹で顔を映す。


 髪色、輪郭、どれも変わっていない。ただ、瞳の色だけが違う。赤く染まっていた。



「これって、魔族?」


「そうだ。魔族となった。原因はわかるな?」



 魔王さんの言葉で思い出す。俺はカルミナが魔族や魔王を作り出していることを知り、魔力が暴走した。そして、気づいたらこの状態だ。原因はカルミナについて知ったことだろう。



「ちなみに気絶してたら魔物になってたからネ。それと発動条件だケド、一定期間以上疑っているコト、確たる証拠を見つけるコト、本人や魔族から真実を聞いて納得するコト、ってのがあるヨ。他にもあるみたいだケド、そこの二人はたぶんギリギリだネ」



 つまり、ロイドさんたちには詳しい事情を話せないってことか。痛みに鈍い俺でも意識を失いかけたんだ。二人に危ないことはさせられない。それに……



「……以前、カルミナが魔族の寿命は短いと言ってました。それは本当ですか?」


「本当だ。だが、解決方法がある。もっとも一時的なものだが……動くなよ?」



 魔王さんは俺に手のひらを向けた。手の中には紫色の球体、時間の魔法らしきものが見える。静観してたロイドさんたちが動こうとしたが、手で制す。


 寿命の話のあとだ。時間属性のことも合わせれば、あの魔法が解決方法だと推察できた。


 紫の光が俺を包む。特に変わったところはないが、魔法が体に残っているのはわかる。



「老化を停止した。ただ、今回の場合は一回限りの防御膜だと思っておけ」


「えっと……?」


「魔王が言いたいのはカルミナと戦えばどうせ無効化されるかラ、変化の魔法に対するお守りぐらいに思っておけってことだヨ。ちなみにキミの破壊の力でも何回か使えば無効化されるからネ」



 ドルミールさんが補足してくれてようやく理解する。たしかに一時的だ。とはいえ特殊属性を使ったり受けたりしない人にはかなり有効だろう。



 ……まてよ……たしかカルミナは魔族の寿命が延びてるって言ってなかったか? まさかとは思うけど、魔族全員に魔法をかけてるってことはないよな?

 受けてみた感じでは効果は二、三日ぐらいで消えると思う。一度に複数人へ魔法をかけられるとしても、ほぼ毎日魔法をかけ続ける日々になるはずだ。



「魔王さん、もしかしてですけど……魔族全員に魔法をかけてるってことはないですよね?」


「……? 当然だろう」



 魔王さんは不思議そうな顔をしている。さすがに全員にかけてはいないようだ。仕方がない。魔力や体が持つはずが――



「平等に魔法をかけなければ不公平だからな。全員にかけている」



 開いた口が塞がらなかった。魔族が全体で何人いるかはわからないが、その数は百や二百ではないはずだ。どれほどの魔力があればそんなことができるのか想像もつかない。



「……さっき隣でヴァンハルトから聞いたんだがよ。魔王、あんたが世界の崩壊を止めてるってのは本当なのか? 本当だとしたら、今の話と合わせるとおかしいだろ……いくら魔族、魔王だってそんな魔力量あるわけがねぇ」


「事実だ。おかげで魔力はほぼ残っていない」


「待って。魔族のほかに捕虜にも拘束のために魔法をかけてるって聞いたわ。さすがにあり得ない。純粋な魔族はそこまでの魔力があるっていうの……」



 捕虜にも魔法をかけているというのはこちらでは聞いていない。ドルミールさんも情報に差があることに気づいたらしく、少しだけ情報を補足すると言って話をしてくれた。


 その結果、嬉しい情報が手に入る。それはブークリエ将軍や教皇様、そしてエクレールさんが捕虜となっているという話だ。魔王さんの魔法で停止状態らしいが、間違いなく生きているとのことだった。


 ドルミールさんが話をしてくれているとき、たまに視線が合う。おそらく俺に対しての補足をしているだけで、こちらで話したことは伝えるなという合図だろう。


 ロイドさんたちのほうでは捕虜の情報や協力するにあたっての話までされていたようだ。ただ、それ以外の魔王さんやカルミナについては聞いていないように感じた。魔族化を避けるためだろう。失敗すれば魔物になってしまう以上、そこは仕方ない。


 続いて、これからの行動についても話してくれた。カルミナが特殊属性を使う以上、直接対峙するのは魔王さんと俺だ。ロイドさんたちはヴァンハルトさんたちと一緒に枢機卿の相手をすることとなった。



「準備が整った。そろそろ出るぞ」



 魔王さんの声に振り向く。そこにはいつの間にか姿が消えていたヴァンハルトさんとルイさんもいる。ただ、先ほどとは違い、両手いっぱいに瓶を抱えていた。



「これを飲んでおいてください。即効性の高い魔力活性薬です。ルイのほうは遅効性なので時間を開けて複数本飲んでください」


「ん!」



 近づいてきた二人は抱えている物の説明をすると瓶を、魔力活性薬を突き出してきた。


 思わず受け取ると、二人はロイドさんたちのほうへ向かって行く。それを見ながら、とりあえず即効性と遅効性を一本ずつ飲み干した。残り二本は道中に飲んだほうがいいだろう。


 全員の回復が終わり、魔王さんが口を開く。



「予想より事態は進んでいるようだ。だが、それはカルミナの焦りによるもの。まだ間に合う。準備はいいな?」



 さすがに待ったをかける人はいなかった。全員神妙な顔で頷き、次の言葉を待つ。



「では、女神討伐に向かう。ドルミールはここにいろ。さすがにそれでは連れて行けん」


「仕方ないカ……失敗したナ」


「先陣は……いや、せっかくだ。あとはツカサに任せる。こういうのは勇者の役目だからな」



 全員の視線が俺を貫く。完全に油断していた。とっさに言葉が出てこない。



 勇者って……魔王さんも先代の勇者なのに。いや、ロイドさんたちは知らないけどさ。……魔王さん、もしかして面白がってる?



 無表情に見える魔王さんの顔だが、その目はなんとなく楽しんでいるような気がしてしまった。ただ、その視線の質が変わる。早くしろと言っているようだ。


 気を取り直し、気合を入れて口を開く。



「先陣はロイドさん、ヴァンハルトさん、お願いします」


「任せとけ! ルールライン様の事はよく知ってる。戦い方もな。先に行って道を作っとくぜ!」


「魔王様たちの道は、このヴァンハルトが切り開いてみせましょう!」



 ヴァンハルトさんは魔王さんに一礼し、ロイドさんは俺の肩を叩いた。そして二人で目を合わせると、まるで競争をするかのように駆けだしていく。



「ウーン、相性が悪そうな二人だネ」


「……ロイドさん、丁寧な口調が苦手みたいで。さっき壁の向こうで話してたときから微妙な感じでした」


「……ヴァンハルト、荒いしゃべりかた、嫌い」



 どうやら本当に相性が悪かったようだ。ちらりと魔王さんを見るが、特に気にしたようすはない。たぶん大丈夫なんだと思う。戦闘がはじまれば息が合うと信じたい。

 それにこの二人がサポートにつく。上手くやってくれるだろう。



「……二人が先に行っちゃいましたけど、援護をフルールさん、ルイさん、お願いします」


「任せて、短い時間だけどロイドさんのことは結構わかってきたから。上手くやっとくわ」


「ん! がんばる!」


「じゃあルイちゃん、早速だけど行きましょうか? あの二人、足は速いだろうから追いつけなくなっちゃうわ」


「ん!」



 ルイさんが頷くと二人で走り出す。速度はフルールさんがルイさんに合わせているようだ。ほとんど会話もしてないだろうに、先ほどの二人と違って仲がよさそうに見える。



「キミはまだ気になってることがあるんだロウ? 道中で魔王に聞くとイイ。キミや魔王が普通に走ったら追いついちゃうだろうからネ」



 みんなを見送っていたら、背後からドルミールさんに声をかけられた。その言葉のとおり、まだ気になっていることはいくつかある。魔王さんは無表情だが意外と律儀だ。たぶん質問すれば答えてくれると思う。ただ言葉が少ない。上手く汲み取れるかが心配ではあった。



「そろそろいくぞ。速度はゆっくりでいい。質問は走りながら聞く」


「はい」


「……ドルミール、大人しくしておけよ」


「大丈夫わかってるヨ」



 会話を終え、魔王さんが走り出す。それに続く俺。だったのだが、ここで予想外のことが起きた。なんと魔王さんが消えたのである。


 俺のゆっくりと、魔王さんのゆっくりが違ったのだ。視線を遠くにやれば遥か先にその姿が見える。俺がいないことに気づいたようすはない。思わずドルミールさんのほうを振り返れば、その視線は宙に向かっていた。視線を合わせてくれない。ただ、心なしか顔がさっきより疲れてるように見える。


 追いつくために雷を纏う。魔力を消費してしまうが、ぶっつけ本番で試すよりはいい。練習にもなる。そう自分を納得させて、俺は魔王さんを追うのであった。

読んでいただきありがとうございます。

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