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第百二話 破壊と創造その弐

 破壊の力を込めた蹴りは巨人の腹に当たり、その個所からひび割れが発生していく。


 蹴りには相当な魔力を込めていた。しかも一点集中である。創造の力を纏っていても無効化できなかったに違いない。


 砲撃を暴発させたことによりチラついていた視界も回復し、耳も周囲の音を拾いはじめた。そのころになると、ひび割れは大きくなっており、腹から順にボロボロと崩れ出していく。そして、中からはドルミールさんが現れる。しかし――



「ドルミール……さん……?」


「……フフ、そんな顔ヲされてもネ。別に死ぬわけじゃナイ。元に戻るかはわからないケドネ」



 ドルミールさんの体に機械のコードのようなものが数えきれないほど繋がっていた。体よりはるかに大きい鎧を動かすためだったのだろう。断裂したコードはときおり放電しており、断面からはコールタールのような黒い液体も流れ出ている。



「それにシテモ、キミは痛みヲ感じないヨウダネ。トックニ動けなくなっててモおかしくないハズなんだケド。ハカイの力の特性カナ? ゴサンダッタヨ」



 ドルミールさんの声はだんだんと機械じみたものになっていた。鎧だけを破壊するつもりだったというのに予想よりもダメージが大きい。もしかしたら魔力がそこまで残っていなかった可能性がある。纏っていた創造の力にあまり魔力が込められていなかったのかもしれない。



「……これ以上は攻撃するつもりはありません。治療にも手を貸します。だから、俺たちに協力してもらえないでしょうか?」


「フフ……ソレダト、脅迫に聞こえルヨ」


「あっ、いえ、そういうつもりじゃ……」


「ボク個人トシテハ、協力はシタクナイ。デモ……時間切れミタイダ」



 ドルミールさんの視線が上へと向く。つられるようにして俺も上を向くと、雨粒が頬を濡らした。



 ……雨? 一体どこから……



 壁の向こう側で使った魔法ではないはずだ。水属性を持っている人がいない。ぐったりしてるようすからドルミールさんでもないだろう。他に人が居るのかと辺りを見回す。


 雨は瞬く間に強くなっていた。ザーザーという音を立て、耳からの情報を制限してくる。視界も悪く、他に人が居るのかを確認できない。


 唐突に雨が止む。


 まるで今までのが幻だったかのようだ。だが、幻ではない。足下に残る水溜まりが先ほどの雨は現実だったと証明していた。


 雨が消えたため、再び辺りを見ようとする。しかし、それより早く水が弾けるような音が聞こえてきた。水溜まりを踏んだかのような音に驚き、視線を向ける。


 そこには一人の少女が立っていた。



「……ドルミール、やりすぎ」


「すまないネ。でモ、ルイならわかってくれるだろウ?」



 突然現れた少女はドルミールさんと会話をはじめた。俺は距離を取りつつ、いつでも動けるように構えをとる。



 ……ん? あれ? 何で腕が動いてるんだ? 完全に折れてたはず。どういうことだ?



 気が付けば腕が治っていた。顔のほうも触って確認してみると、傷らしきものは感じられない。



「さっきの雨が回復魔法だヨ。ルイの魔法ダ。ボクの生体部分と一緒にキミの怪我も治ったみたいだネ」


「ん、なおした」


「えっと、ありがとう。……その、俺たちは話し合いに来たんだけど、魔王じゃないよね?」


「……ちがう。ルイは魔王じゃない」



 凄まじい効果の回復魔法だったので念のために聞いてみたが違ったようだ。


 このルイと呼ばれている少女は見たことがある。たしか、三つ目の封印の魔法陣のところにいたはずだ。あのときは遠目で顔もよく見えなかったが、体格からしてきっと同一人物だろう。



「ドルミールさん、それと……ルイさんでいいのかな? 隣の戦闘を止めたいんです。壁を取り除くことはできませんか?」


「壁自体は時間が来れば勝手に壊れル。ただボクはこのありさまダ。喋れるけど動けないヨ。……ルイは何とか出来るかナ?」


「……先にれんらくした。むこうは終わってる」


「だってサ。大人しく待つことだネ」



 向こうの戦闘も止まっているということなのだろう。


 ルイさんはあまり話すのが得意ではないようだ。それに見てると、人見知りの子供っぽいような気もする。


 俺がそう思ったのはルイさんが話しはじめる前に一瞬考えてるような間があったからと、俺が視線を向けるとドルミールさんの鎧に隠れようとするせいだ。堂々と近づいてきた割に見られるのは嫌らしい。


 ルイさんは見た目だと中学生ぐらいに見える。ただ、性格はもっと幼い子供のようにも感じた。とはいえ、魔法の腕は大人以上だ。魔族という点を考えても驚異的な使い手だと思う。



「ルイが来たってことは魔王が起きたんだネ?」


「ん、そう。とめるように言われた」


「……なるほド。じゃあこれ以上戦ってたら怒られそうダ。……フム。どうだロウ? カルミナのことは僕たちが何とかするかラ、キミたちは今からでも引き返さなイ?」



 ドルミールさんは俺のほうへと顔を向けるとそんなことを言ってきた。


 カルミナを何とかしようとしてるのは本当だろう。ただ、俺たちにはアリシアを助けるという目的もある。協力はしてもらいたいが、アリシアのことまで任せて引き返すような気はない。それに、世界の崩壊をやめるように説得する必要もある。ドルミールさんの言葉を受け入れることはできなかった。



「アリシア……仲間のこともありますし、引き返す気はありません。それに魔王とも話をしないと。ちょっとでも協力できれば……少なくとも世界の崩壊はやめてもらうように説得するつもりです」


「世界の崩壊をやめるように説得すル? 何か勘違いしてるようだケド、世界を崩壊させようとしてるのはカルミナのほうだヨ。魔王は時間の特殊属性でそれを止めてるんダ。だから君の言ってることは逆だヨ」


「え……?」



 俺の予想ではカルミナを封印できなくなった魔王が世界を壊そうとしていると思っていた。それはカルミナが崩壊を止めるの見越してのことであり、力を使わせて弱らせようとしているのだと考えていたからだ。


 この考え自体はカルミナが裏切る前のものではある。そのためカルミナの世界の崩壊を止めるという言葉が嘘という可能性にも気づいてはいた。ただそれでも、最初に考えた魔王がカルミナの力を使わせようとしているというのは間違っていないと思っていたのだ。なぜなら、カルミナに世界を壊そうとする理由はないからである。


 世界を壊そうとしているのはカルミナ。そんなドルミールさんの話を信じ切れない。



「カルミナは何で世界を壊そうと? 自分の世界のはず……いったいなんで……」


「理由は単純だヨ。生き物の少ないこの世界がいらなくなったんダ。カルミナは生物、特に人間の感情から力を得てル。だから人間がいっぱいの新しい世界があるなラ、こっちはいらないってわけダ」



 カルミナのエネルギー源が人の感情……? 知らなかった……いや、それよりも人間がいっぱいの世界って、もしかして俺がいた世界のことなのか?



「昔、世界の力を計測したんだケド、世界には何処からか力が流れ込んでいル。それはおそらくカルミナの力だ。たぶん吸収する力よリ、世界に持ってかれる力のほうが大きくなったんだろうネ。だから最後に絶望や恐怖の負の感情で力を手に入れテ、この世界を終わらようとしてるんだヨ」



 ドルミールさんの話は止まらない。その表情は苦々しい。カルミナのことを嫌悪しているのだろう。いらないからこの世界を壊す。それが本当なら当然の感情だ。ただその話も重要だが、どうしても気になることがあった。それを確かめるため、俺は話を遮るのを承知で口を開く。



「待ってください! その新しい世界って地球のことですか?」


「……それはキミが元居た世界かナ? 確証はないケド、そうだと思うヨ。もしキミと魔王が同じ世界の出身なラ、確定だネ」


「魔王が俺と同じ世界……?」


「そこについてはボクじゃ判断つかないかラ、本人に直接聞いてみるといいヨ。丁度来たみたいだしネ」



 ドルミールさんはそう言うと視線をずらした。鎧に隠れていたルイさんも顔をのぞかせている。俺もそちらに目を向けると、ただの壁だった場所にぽっかりと穴が開いていた。


 人が出てくる。白髪の男性だ。髪色こそ老人のようだが、その顔は割と若いように見える。体つきも中肉中背で特徴的なところはない。髪の色を除いて考えれば、年は四十は超えていないと思われる。



 ……あれが魔王……髪と目の色以外は普通だ。でも、なんとなく圧力を感じる。



 目が合う。



「おまえが今回の勇者か……」



 魔王の声に何故か体が震える。



「試させてもらうぞ」



 その言葉とともに魔王の姿が消える。同時に嫌な予感を覚えていた俺は瞬間的に前へと飛び込むのであった。

読んでいただきありがとうございます。

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