この世界は
一通りこの世界についての質問をした。
この世界にはどんな国があるのか?
「ビースト種が治めている『獣神国』」
「それはお前と同じ種族なのか?」
「大きく分かればそうだ、ビースト種は『天化』ができる種族のことを言う」
獣と人の姿をとることができる種族と覚えておこう。
身体能力が高く数で言えば2番目に大きいらしい。
「他にはエルフの『世界樹』やドワーフが掘り進めている『地帝国』、多種族国家の『龍華共和国』大きな国はこの4つだ」
「龍華共和国はどの種族が纏めてるんだ?」
「龍族と言われている。龍なんて見たことないがな」
そうか、と一息入れてため息を吐く。
目の前の犬耳少女ことアセナは喋り方と今の姿が全く言っていいほどあっていない。
小学生の見た目に男っぽいハキハキした口調は違和感しか感じない。
「お前の年は?」
「10歳だ」
なるほど年は見た目相応なのか、喋り方は祖母の真似をしてたらこうなったそうなのでまぁ仕方ないだろう。
「地図はないのか?」
「一応あるぞ」
引き出しを開けて一枚の紙を持ってきて机の上に置く。
そこには元の世界の世界地図とは似ても似つかない五つの大陸が描かれている。
「今いる場所はどの大陸だ?」
「北にあるこの大陸のここだ」
北にある大陸のさらに端をアセナは指差した。
地名なのか小さな文字みたいなものが書かれている。
「これはなんて読む...」
読み方を聞こうとしたら目の前に先程アセナの情報を表示したような画面が表示されて『記憶の書庫にビースト古語をインストールします』と書かれている。
するとすぐ頭の中にビースト古語の喋り方や字の書き方の情報が流れ込んできた。
「うわっ、なんか気持ち悪りぃ」
数秒でインストールが終わったのか、表示は消えて地図にある文字が読めるようになっていた。
「便利だけどあまり使いたくねぇな」
「大丈夫か?」
アセナが首を傾げてこちらを見ている。
それはそうか、他人が見れば急に頭をおさえて独り言を呟く怪しい人間だ。
「『大丈夫、それよりビースト古語はこの喋り方でいいのか?』」
アセナが目を丸くして口をぽかんを開けてる。
「いいけど、ビースト語を喋れるのか?」
「ああ、今覚えた」
それから2、3質問してその日は休むことにした。
外も暗くなってソファーに寝転んで充は毛布をかぶって教えてもらったことを復習することにした。
「自己表示」
まず自分の状態を確認する方法。
名前:ミツル
種族:人種 レベル2
称号:最高神オーディニウスの使徒
HP:820 MP:250
体力 205
速力 164
筋力 110
知力 50
パッシブ
危機察知、筋力上昇、記憶の書庫、神域接続
アクティブ
解析
名前が平仮名になっている。
そして気になるのが最高神オーディニウスの使徒と記憶の書庫、そして神域接続だ。
「これが何のスキルなのか分からないことにはなー...ん?」
目の前に表示された『記憶の書庫』の部分を指先で長押しすると別の画面が表示された。
記憶の書庫
『知識と記憶をデータとして永久保存することが可能、肉体が滅んでも魂に保存されたデータは魂の核の中にあるため例え死神にも刈り取ることができない』
神域接続 LV1
『神は全知全能、それは知識という概念自体を取り込んでいるからである。神域とはこの世界の知識全てが保管されたアカシックレコードのこと、知識を求めるものにはここに接続することができる』
長押しすればさらに詳細なスキル内容を確認できるらしい。
それと『記憶の書庫』はそのままで『神域接続』にはレベルがついている。
これは神域接続がまだ限定した知識にしか接続できないのであろう。例えば元の世界でもパソコンに保存されたデータにアクセスするにはゲストと管理者といったアカウントによって閲覧可能な場所が違う、ゲストは許可された場所だけ管理者は全てのデータを閲覧可能だった。
つまりLV1はまだ常識的な情報にしか閲覧する事ができないということである。
「まっ、レベルが上がればもう少し深く潜れるようになるだろう」
ミツルは最低限の確認が終わり、その日は眠りについた。
朝起きると何かを焼く匂いがしてきた。
「何だ?」
キッチンでアセナが背伸びをしてフライパンで肉を焼いていた。
「む...」
しかし、それはお世辞にも慣れたものではない。
昨日聞いた話でも灰狼牙は獣神国を追放されて名を受ける権利を失ったと聞いた。元の世界では名前なんて親が勝手につけるものだがこちらの世界では何らかの法則があるのか追放された灰狼牙の種族に新たな子に名付けをすることができずに『天化』も名付けが必要なので追放された当時の既に名前を持っていた大人ならともかくアセナのような子どもには名付けができずにずっと狼の姿だったそうだ。
だから今フライパンを使っているアセナは初めて使う道具に戸惑っているのだろう。
「貸せ」
「...ん」
横からフライパンで焼くのを代わり棚にあった調味料を使って適当に味付けをしていく。
野菜などはないため、クルミに似た硬い木の実を潰して中の実をスライスして肉と一緒に焼いてアセナが持ってきた皿にのせる。
「....」
「どうした?」
同じように作ったステーキを前にアセナは動かない。
しかしその瞳は少なからず潤んでいた。
「我は狼の姿のままで祖母が亡くなってからは肉を焼くのも一苦労だった」
狼のような四足歩行の生き物にはフライパンを握るための指もない、下手に火を起こして肉を焼こうとしても毛に燃えあってしまうこともあったのでいつも生焼けか生でも食べれる山草や木の実を主食にしていたらしい。
「祖母が生きているときはいつも祖母が焼いた肉を切ってくれたのだ」
「そうか」
それを聞きながらキッチンの引き出しにあったナイフとフォークを使い適当な大きさに切っていく。
アセナはフォークを手に取りぎこちなくステーキに刺すとゆっくりと口にそれを運ぶ。
何度か噛んでそれを飲み込んだ瞬間、何かが溢れたように味の感想を口にした。
「ばーばの味だ」
知っていたわけではない。
ただ同じ調味料を使えば同じような味付けのステーキにはなるだろう。
だがミツルはあえて無粋な言葉は口にしなかった。
ただ、「そうか」といい泣いているアセナが食べ終わるのを待ち自分の分を平らげるとそっとその場を離れて外の空気を吸うことにした。
これからの事を考えながらこの家に残るアセナと祖母の思い出をそっと『記憶の書庫』に保存した。
読んでくれてありがとう。
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