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第十六話:魔王様のギルド初体験

 翌日の日が暮れるころ、俺たちは地上に戻ってきた。


「今日は大収穫でしたね!」


 キーアは上機嫌だ。

 背負っているリュックはパンパンになっている。

 あれから、なんとか第三階層への入り口を見つけて引き返してきた。


 さすがにこれ以上潜ると、きつね亭の営業日までに帰ってくるのが難しい。

 それに荷物がいっぱいになっておりこれ以上は成果を持ち帰れないという問題もあった。

 三人で話し合い、今日はこれぐらいにして、来週に第四階層の入り口を探すことにした。

 次の探索では三階層までは最短距離でいけることを考えると、無茶ではないだろう。


「では、ギルドで換金しましょう。お店で使う分は選り分けましたし」


 肉とハチミツを二瓶。それ以外は売ってしまう。

 今回得たものの中には毒針やら、爪やら、いろいろと物騒なものもあるが、そういうのもギルドが買ってくれるらしい。


「そうだな。今回は俺も行こう。ギルドというのがどうなっているのか見てみたい」

「同行。ルシル様が向かわれるなら、私も行く」

「始めからそのつもりですよ。だって、三人いればパーティ登録できますからね」


 そうして、俺は始めてギルドに足を踏み入れた。


 ◇


 ギルドを一言で表現するなら巨大な商館と言ったところだろう。

 買付の窓口が立ち並んでいるほか、商品を売っているフロアもあり、一般客が買い物をしている。


「ささ、ぼうっとしてないで早く窓口に行きましょう。パーティ登録です」

「それはなんだ?」

「やればわかりますよ。ほらほら」


 よくわからないことをキーアが言って、俺の手を引っ張っていく。

 そして、あっという間に受付にやってきた。


「キーア様、いつもご利用ありがとうございます」


 兎耳の受付嬢が頭を下げる。なかなかの美人だ。

 どうやらキーアとは顔見知りのようだ。


「マリア、今日はいつもよりすごいんですよ。ほら、ルシルさん。荷物を出してください」

「あっ、ああ」


 俺は頷いて、売ると決めた荷物の数々を差し出す。


「すごい、たった三人でこれだけの成果を!? こんなにたくさんのハチミツ!? よく、あれの群れと戦って無事で済みましたね」

「まあ、知恵と工夫だな」


 たいがい力技だった気がしないでもない。


「では、査定をします」

「よろしくおねがいします。あと、冊子の新しいのをください。それとパーティ登録も。三人になったので、念願のパーティ登録ができます!」

「ふふっ、楽しそうですね」

「だって、パーティが組めるんですよ!」

「キーア様は実力があるのにずっとソロでしたからね。かしこまりました。少々お待ちください」


 荷物が奥に運ばれていき、その代りに冊子が渡される。

 それをめくると、ダンジョンで手に入る品々とその買取価格が書かれていた。

 これは便利だな。

 これからは狩りで得たすべてを持ち帰るなんてできない。取捨選択する際に、それぞれの相場を知っておくと損をしないで済む。


「そちらのお二人は始めて見る顔ですね。ソロでやっていたわけじゃなく、新人さんでしょうか?」

「ああ、そうだ。十日ほど前から冒険者を始めた」

「それで第二階層の奥に行くなんて優秀なのですね。ギルドについてはご存知ですか?」

「さわりだけは」

「では、ご説明したほうがいいですね。我らギルドの役割は冒険者の支援です。具体的には、ダンジョン内で冒険者が手に入れた品々を買い取ること。買い取った品はルシル商会が島全体に張り巡らせた流通網を使い、需要があるところに届けます。だからこそ、適正価格での買取が可能なのです」


 世界規模だからこそ、適正価格の買取ができる。

 いくら素晴らしいものを手に入れても、一つ街でさばこうとすれば、どうやったって供給過多になり、あっという間に値下がりする。


 だが、世界を市場にすれば話は違う。

 それぞれのダンジョンで手に入るものを世界各地にばらまき均等化すれば値崩れは起きにくい。

 こういった組織があるからこそ冒険者は生活ができる。


「ここで買い取ってもらえるのはダンジョン産のものだけか」

「そのとおりです。ギルドはルシル商会が冒険者の支援をするために作った施設ですので。また、買取だけじゃなく、魔物の牙や爪といった素材を武器に加工するサービスなどもあります」

「なぜ、そこまでして冒険者を支援する」

「冒険者の方がダンジョンに潜って、魔物を狩らないと、魔物が溢れ出て、街や村に被害がでます。だからこそ、冒険者様が稼げる仕組みづくりが必要となりました」


 思ったとおりだ。

 こういうのはきっとドルクスの考案だろうな。


「ありがとう。勉強になった。それと、パーティというのは?」

「はい、冒険者で構成されるチームです。そして、パーティを組むとさまざまな恩恵があります。我々は冒険者の支援を行っております。しかし、すべての冒険者に等しく手厚いサポートをするわけには参りません。いくらお金と人手があっても足りなくなりますから。そのため、冒険者の実績ごとにサポートの度合いを変えてます。たとえば、今お渡しした冊子、それは本来ならある程度実績のある方にしか渡せないものです」


 だろうな。

 それなりにこの冊子には金がかかっているだろうし。


「俺がこれをもらえたのはキーアに実績があるからか」

「ご名答です。冒険者の方々はパーティで狩りをすることが多いため、実績を個人ではなくパーティで管理します。そのパーティにいる間はもっとも功績を上げているメンバーと同等のサポートをパーティの全員に行います」

「なら、パーティを組んでからの功績はどうなる」

「パーティでの成果を個人のものとして全員に振り分けます。そのため、パーティでの狩りをしたほうがお得です。パーティを組んでいただいたほうが死亡率が低くなるため、あえてパーテイ優遇措置をとっております」


 これだとパーティを登録しない理由はないな。


「キーア、アロロア、この三人でパーティ登録したいが、いいな?」

「もちろんです」

「肯定。ルシル様がいるなら」

「では、こちらの用紙に記入をお願いいたします」


 俺たちはさらさらと名前を書いていく。

 これで立派な冒険者というわけだ。


「受け付けました。それから、査定も終わったみたいです。査定額は、八十万バルとなっております」

「すごい稼ぎです」

「一人頭三十万バル弱か」


 ハチミツが非常に美味しい商品だった。

 なんでも浅い階層で手に入るが、群れのキラー・ホーネットに手を出す冒険者は少なく、なかなか出回らないので高額だそうだ。

 金稼ぎだけを考えるなら、今日の戦法でがんがん狩るのもいいかもしれない。


「この調子で稼がれると、月間ランキングに載るかもしれませんね」

「なんだそれは」

「パーティごとに、売っていただいた商品の総額をチェックしておりまして、ランキングをつけているのです。ほら、あそこに」


 そう言って指差した先には掲示板があり、ずらっとパーティが並んでいる。

 一位は一月で五千万バル以上稼いでいる。


「買取金額と、冒険者様の貢献度は比例します。なので、月間ランキング十位までには特別なご褒美を用意しております。それに、あそこに載るのは冒険者として一流の証でもあります」


 なるほど、それは面白そうだ。

 同時に少々血が高ぶる。

 少なくともあそこに張られている十位までの冒険者たちはすべて、深い階層まで潜っている。

 一階のイノシシや兎なら、どれだけ狩ろうとあんな額には届きはしない。

 それだけの実力者が十組以上いるという証明。

 ただの人が、それだけの力を身に着けているというのがうれしい。


「キーア、アロロア、俺たちもあれを目指そうか」


 俺たちは、たった三日で八十万バル稼いだ。

 ランキング入りはけっして夢物語じゃない。


「いいですね! やっちゃいましょう」

「了解。ルシル様がいるならサポートする」


 最優先はキーアの母親を治す薬を手に入れることだが、ちょうどいいゲームを見つけた。

 そういう遊びも必要なのだ。

 あれの一位を本気で目指してみよう。

 

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