お米と生産と、サービスサービス!
後頭部がじんわり痛い。
本当にダメージ軽減効いてる?これ。
まあ効いてるか。無かったらきっと、あまりの痛さに3分ぐらい動けないやつだと思う。
ありますよね。あ、これ死んじゃうやつ?それとも動くと死んじゃうやつ?って様子を見る時。
それぐらいの勢いはありましたね。完全に調子に乗りました。
大丈夫。私は元気です。
昼食はお米だ。今日はお米を食べると朝から決めていた。
人はパンのみに生きるにあらず。やっぱり日本人の食事はお米が基本だ。
思えばスーパーで重い思いをしてお米を買ったんだ。火が使えるようになった今、すぐ食べたい。今食べたい。
まずは一合かな?勢いで二合炊いちゃおうかな?下がったテンションがまた上がってワクワクしてきたぞ。
手ごろなお鍋を手に貯蔵庫へ降りて始めて気付く。
計量カップがない。一合や二合なんて単位は、この場には存在しなかったのだ。
はい、気を取り直してまいりましょう。
要は毎回同じ量のお米が計れればいいので、適当なコップを持って来ました。
これからはこのコップがうちのお米の基準です。私がルールです。よそはよそ、うちはうち。
炊けるとどれぐらい増えるかわからないので、とりあえずコップ1杯分を鍋に入れる。コップはお米の麻袋に入れておく。どのコップを使ったかわからないと次困るからね。
キッチンに戻り、お米を研ぐ。
さて次のハードルだ。水加減がわからない。
幼い頃の飯ごう炊さんの記憶では確か、指を入れて第一関節までお水を入れる…?多い気がする。これはもっと多いお米を炊く時の基準かも。
キッチンを見回すと空の水差しがあったので、その上にザルを乗せて一旦お米と水を分ける。
水差しの水を少し減らすと窯の燃え残った薪木を一本取り、水差しの外側から水面に炭で印をつける。
今回はこの量で炊いてみて、その炊き加減からまた水の量を調整したらいいはずだ。
よーし炊くぞー。火加減は始めチョロチョロ中パッパ、焼肉焼いても家焼くなだっけ?後半絶対違うよね。
お米を火にかける間、貯蔵庫でおかずを考える。
せっかくのご飯だ。ご飯をガツガツ食べられるものがいい。
食料貯蔵庫は一階広間のちょうど半分ほどの広さの部屋に私の背丈ぐらいの三段の棚が壁一面に置かれ、その間にも三列ほど棚が並んでいる。
その棚全てに置かれた木箱には食材が無秩序に入れられてるので、まだまだ全ての中身は把握出来てない。隣の部屋の資材倉庫も似たようなものである。
せっかくなので今日は素敵な出会いを求めて、部屋の一番奥の棚から箱を開けてみよう。
入り口近くはパンハムソーセージや干し肉にチーズだったが、奥はまた趣向が違って野菜やフルーツが多い。葉物野菜はまだパリッとしている。
ただご飯のおかずとはちょっと違うな。
十個ほど開けた頃には野菜の顔に見慣れ、次は何の野菜かなと開けた箱に一瞬たじろぐ。……卵か。箱いっぱいの卵は案外気持ち悪い。
妙な生物の卵とかではなく、恐らく鶏卵。ゲーム内の食料品店で売ってる物だ。恐らくというのは単純に、卵としか書いてなかったから。火を加えると目玉焼きが作れる。
卵を境に傾向が変わり、お肉屋さんゾーンになる。生肉だ。これらも新鮮その物に見える。
自炊をしてたので、たぶん牛肉、たぶん豚肉、たぶん鳥肉、たぶん羊肉といった比較的メジャーな肉はなんとかわかる。
わからない肉がいっぱいある。鶏肉と牛肉を合わせたような肉や、魚肉っぽいけど明らかに魚肉じゃない肉だ。
そういえば、ドラゴンに刃物を使うと皮と鱗と肉が取れたよなぁ。……どれかがドラゴンの肉なのは間違いないね。
はい、謎肉は無視して、今日は鳥肉を使いまーす。あと卵と玉ねぎも忘れずにね。
キッチンに戻ると、火にかけていた鍋からチリチリと水分が飛んだ音がしていたので強火の位置に置き換えて、30秒ほど数えた後に火から下ろす。
鳥肉を一口サイズに切って、少し塩を振る。玉ねぎを切り水と醤油とほんの少しの砂糖をフライパンに入れ、火にかける。醤油はスーパーで買っていたもの。
煮立ったら火から下ろし、鳥肉を加えてフタをして少し待ち、火にかける。再度煮立ったら軽く溶いた卵をのの字に入れて少し卵が固まったところでフタをして火から下ろす。
さあこっちはどうかな?
お米を炊いた鍋のフタを開けるとふわっと湯気が立ち上る。
よしよしちゃんと炊けてるぞ。しゃもじがないので大きめのスプーンでお米を混ぜる。少し柔らかかったかな。でも初めてにしては上出来上出来。
深めのお皿にご飯を軽く盛り、フライパンの中身を乗せる。
親子丼の完成だ。スプーンで召し上がれ。はい、いただきます。
ふわふわの玉子とご飯をすくい取り、口に入れる。
ほふほふ熱い。…うん、うん。
ダシが無いので少し物足りないが、鳥肉からも味が出ていてちゃんとしっかり親子丼だ。
慣れ親しんだ鶏肉より弾力があってプリプリ。玉子は小ぶりだけど濃厚。さすが地物は違うね。
うーん、おいしい。もう一杯!
お代わりはご飯におこげが入ってて、それがアクセントになって新鮮な気持ちで完食しました。
昨日と今日、ちょっと食べ過ぎかも。
お米はやっぱり満足感が違う。洗い物を済ませたら今日は作業部屋に篭ることにする。
弓の練習用に胸当てと手袋、それに矢筒を作ってみる。
皮を縫うこと自体が初めてなので、種類はわからないがしっかりとなめされた動物の皮を使う。
ベーシックなこれで慣れておいてからドラゴンなどの特殊な素材に手を出してみようと思う。
スキル書にあったレシピとにらめっこしながら慎重に縫う。調理以外の生産系スキル書は全て作業場に運んだ。生産道具が揃ってるここで使うのが主になるだろう。調理だけはキッチンに。
まずは矢筒からだ。
大きく三角形に皮を切り取る。開け口は覆いを作ってフタにするため余分に残す。
底になる方はこんなに細くていいだろうかと思ったが、一度折り返して底を厚く作るらしい。矢じりがあるので一段丈夫にするためだろう。
初めは布との違いに手間取ったが、すぐに慣れた。アクセサリーのおかげで力が要る作業も苦じゃなくなってるみたい。
ほぼ完成というところで一旦眺めてみる。うーん、何か物足りない。
倉庫へ行って小さな渦巻き貝を取ってくる。ゲームの中では家の中の飾りでしか使い道が無かったものだ。
貝の口の方に穴を開け、皮ひもを通して、本体の覆いが重なるところに縫い付ける。ひもには余裕を持たせるのを忘れずに。
覆いには貝よりも少し大きく切れ目を入れてそこを普通の糸で滑りが良くなるように加工する。可愛い貝のボタンが出来た。
矢筒を体にかける部分も工夫してみる。本体の裏から見て右端に幅3センチに細く長く切った皮の端5センチを上が長くなるようにしっかり縫いつける。
縫いつけた箇所からまっすぐ下25センチほどのところに、長方形に切った皮の端と端だけ縫い付ける。その少し上に穴を開けて皮ひもを通して、細長く切った皮をくるりと回し、端と端だけ縫った皮の中を通して、ひもを通せる穴を左右に二箇所ずついくつか作れば完成だ。
簡単なベルトのようになるので、任意の長さで穴に皮ひもを通して結べば肩から袈裟懸けにすることも、腰に巻いて使用することも出来るはずだ。
うんうん、我ながら良い物が出来たぞ。
次は手袋を作る。
手袋は手を守る用途以外にも、指輪を隠す意図がある。
6つも指輪をしてるのはこの世界では不自然かもしれない。日本ならお金持ちのマダムかロックな人だと思われるだけで済むのに。
手袋自体はすぐに出来たが、手首の部分が少々心もとなかったので、紐を通してみる。
キュッと絞って結び目を中で作るようにすると、何かで引っ掛けたり結び目が解けたりする事故も減るだろう。ただし、片手で結ぶ練習の必要アリ。
最後に皮の胸当てだ。
なるべくピッタリした物を作るために体のサイズを測る。自分の胸のトップとアンダーを測るなんて変な気分。数字は秘密です。
これは特に工夫の余地も無く、レシピ通り作る。
ピッタリとしたベストのような形に縫う。ただし左脇は縫わずに皮ひもを通す。
シャツのように着た後、左脇の皮ひもを結んで固定する。
カチッとしているので背筋が伸びて気持ちがいい。これはいい。
思っていたより軽く、邪魔にもならないのでこの上から上着を着たり、鎧を着けてもいいかもしれない。
さーて、ここからが肝心要の本番だ。
用意いたしましたのは、私がスッポリ入っちゃうような、大きな、たーるぅ!樽です。中身は空です。この家は何でもありますからね。空の樽ぐらいあります。
この樽の、底付近の板に2センチほどの穴を開けちゃいます。はい、空きました。そこに、本来はポーションを保存するための樽につける蛇口を付けます。
はい!完成!え?何がって?まあまあそう慌てずに。
さあこれを屋上に持って行きますよ。よいしょっと。
はい、屋上です。蛇口の先を排水溝に流れるように向けて、樽の中に水を入れて、オッケー水漏れなし。
もうお分かりですよね。お風呂の完成でーす。
え?お水だよって?気が早いなぁ。
さあここに取り出したるは、お昼からずっとキッチンの窯の薪で焼いていた石を鉄のバケツに入れたものでございます。あっついあっつい。
これをバケツごと樽の水の中に入れます。
するとジュワーッという大きな音を立ててお水が一気にお湯になった!すごーい!
さあさあお湯が冷めない内に入りますよ。
はー。何度目かのため息をついた。
やっぱりお風呂はいいですね。人が生んだ文化の極みです。
お風呂についてはずっと考えていて、キッチンの大鍋を五右衛門風呂のようにして入るか、屋上の水桶を湯船にしようかなどと思っていたのですが、どちらも水を抜いて洗うのには手間がすごくかかります。
このポーション樽方式なら排水も簡単だし、中はきっちり洗えるし、水を抜けば比較的軽いので場所を移すのも簡単だし、最善のアイデアだと思います。
ああ、お湯に今日の疲れが全て溶けていくようです。
お風呂、サイッコー。