クッキングとお裁縫。
マキシマスには100を超えるスキルがあります。
今日はその中のひとつ、クッキングをやります。
やる前の段階で野営術や魔法を使うことになりましたがやりたいのはクッキングです。
なんかもう手に力が入りません。なぜでしょうねー?動かしてるつもりはないのにプルプルしてます。
クッキングの上げ方としてはまず、小麦粉を水と合わせてパン種を作り、それを焼く事でパンにするのが定番です。
それを繰り返すことで比較的簡単に100まで上がります。数千個のパンとともに。
はい、それではね。今日はね。パンは作りません。
なぜならもう手に力が入らないからです。
あと数千個のパンが既にあるからです。倉庫にね。
ゲームの中ではスタックされて2つ分のグラフィックだったんですが、先生びっくりしました。
ある一角の箱は開けても開けてもパンです。パンパンパンパン、パンパパン。
わたくし、常日頃からパンが三度の食事より好きだと口癖のように言ってましたが、こんなには食べられません。
あと普段は三度の食事の中にパン食は含めてます。すみません。
さて、今日はあえてゲーム内になかった料理を作ってみようと思います。その理由を説明します。
ここまで色々と生活する上でスキルが上がるような行動がいくつかありましたが「スキルが上がったぞ!」なんて瞬間はありませんでした。
この家の前に飛ばされた?飛んできた?時の服装はいわゆる初期装備で、作りたてのキャラが着てる服でした。あ、男性だと下はハーフパンツになります。
スキルというものがあると仮定するとその状態では0なので、例えばスタミナが少しでも減ると息遣いのスキルがバンバン上がります。
息遣いは上がれば上がるほどスタミナやマナの自然回復速度が上がるというスキルです。上昇判定はどちらかが最大値から減っていて、自然回復する時にあります。
ゲームと同じようにスキルが上がるとしたら、この息遣いが上がらないわけがないのです。
それでは逆に、テストプレイ時のスキル値が残っていて、既にマックスかそれに近い値だから上がり難いのではないか、という可能性があります。
ですがそれは、火熾しが全く成功しなかった事で否定されるでしょう。
野営術はスキル値が10なら10%、50なら50%、100なら100%で火が点きます。
絶対に腕がプルプルするまで点かないということはないのです。
これらの現象から仮定すると、私がスキルというものの外にいるか、ゲームに入ることでスキルの概念が変わったか、ということになります。
それを検証するために、これからゲームに無いポトフを作ることにします。
ゲームでは火を使う料理に失敗すると「焼け焦げてしまった」というメッセージとともに使った食材が消滅します。
消滅はゲーム的表現として処理してるということで無視して、重要なのは失敗するかどうかです。
スキル値によって成否が決まるならゲームに無い料理は必ず失敗するでしょう。
そうでないなら普通に出来上がるはずです。
ポトフ自体はそれほど難しい料理ではありません。
そして私が今日食べたい。
それでは調理を開始します。
用意したのは人参、ジャガイモ、キャベツ、玉ねぎといった野菜、そしてソーセージと干し肉。
ソーセージと干し肉、片方でいいんじゃない?と思いましたが、ダシが無いので2種類入れてみます。
この干し肉、恐ろしく硬い。
ジャーキーのようなものを想像してたらとんでもない。噛んだら歯が欠けそう。
焼いたり煮込んだりしたら何とか食べられそうなのでその実験でもあります。良いダシ出ろよ。
下ごしらえを済ませた材料と水を鍋に入れ、しばらく煮込む。
窯の一枚岩の上に鍋を置いて、火の当たる部分の直上が強火、それより離していくと弱火に、という使い分けが出来そう。本来の使い方としてあってるか知らないけど。
煮込んでる間に生ごみを屋上に持っていく。
空はまだ明るい。昼を過ぎたぐらいだろうか。
この家にある時計は全て古いねじ巻き式で、全てが止まっていたので正確な時間がわからない。
空を見ながら今が昼辺りだな!と思った所で12時に合わせた。
ここでは私が時間を決める。
ここでは私が時間を支配するのだ。はっはっはっはっは。
はぁ。
生ごみは畑の隅に積んでおき、肥料にしようと思う。
既にジャガイモや人参を植えてみた。
ジャガイモは種芋?などよくわからないけど、とりあえず植えて増えればめっけ物だと思いそのまま。
人参は4本ほどそのまま植えてみた。葉っぱの部分が成長したらいつか種が取れるかもしれない。
食糧貯蔵庫の仕様がわからないので、あくまで畑は保険程度である。
野菜どころか植物を育てた経験が無いので手探り状態だ。
食料を切らすような事態だけは避けたい。
貯蔵庫に入れていたら腐らない、なんて都合のいい事、あるかな?
キッチンへ戻って鍋の様子を見ると、干し肉はかなり柔らかくなっていた。これは期待出来そうだ。
浮いた灰汁を取ってスープの味見をする。ソーセージや干し肉から出る塩の加減がわからなかったので塩は入れてなかったが、少し薄い。一つまみほど塩を入れる。
本来はハーブなんかも入れたいところだけど、見当たらなかった。
干し肉に香辛料らしきものが摺りこんであったのでそれに期待する。
煮込んでる間に読もうと持ってきた裁縫のスキル書を開く。
衣食住の食と住がクリア出来たのだから次は衣だろう。
マキシマスの防具の基本は裁縫から作られる服や皮装備である。
服自体に防具性能はないが、マジックアイテムと組み合わせることで特殊な効果を持たせることが出来る。
皮の装備は金属製の鎧より軽く、扱い易い物が多い。
皮の装備には女性専用鎧が数多くあり、テストをする際は女性キャラを選ぶ必要があった。
ちなみに男性専用は存在しない。女性専用以外は全て男女兼用だ。
スキル書の始めの方は針に糸を通してみようという家庭科の教科書で読んだような内容から始まり、様々な縫い方の後に各種裁縫で作れるレシピになる。
最初に作るものは既に決まっている。が、レシピにはなかった。
仕方がないので実際に使っていたものを思い出しながら縫ってみよう。
生地は倉庫から伸縮性があり、一番肌触りが良さそうな物を選ぶ。
服自体はクローゼットにいくらかあるのだが、下着がないのだ。いや無いわけではないがアイテムとしては存在してなかった。
ゲームでの下着は付け替えたりすることは出来ず、男女ともに何か長い布のようなものをふんどしのように着用していた。女性の上も同様に。
つまり最初に着用していたものしかない。
下着の製作は急務である。
今は緊急措置としてショートパンツを下着代わりにしてその上にスカートを履いている。
スカートは既に慣れたものだけど、ショートパンツは下着の上に履く物を直に履いてるのでどうも着心地がいまいち。そわそわとしてしまう。
とりあえずショートパンツのレシピから丈を短く、ピッタリめに縫ってみる。トランクスやボクサーパンツのようなものになるだろう。
上は女性鎧で皮のブラがあったので、それを参考にした。
完成だ!
ポトフと下着が完成したぞ!
ポトフは一旦置いておいて、下着を着る。うん、悪くない。いい感じ。
ただ、下着とスカートだけではなにか防御力が足りないような気がしてショートパンツも履く。
裁縫が思いのほか楽しく、簡単なエプロンも作ってみた。
白地で地味なので何か別の色のポケットでも付けた方がいいかもしれない。胸の辺りはやっぱり定番のヒヨコのアップリケかな。
中学校以来の縫い物としては上出来だろう。
さあ、食事にしよう。温かい食事は久しぶりだ。
パンをスライスし、窯で表面を少し焼く。
乾いて硬くなったような様子はない。貯蔵庫はやはり何か腐らない魔法でもかかってるのだろうか。
ポトフを深めの皿に取る。キャベツと玉ねぎはトロリとして、肉がホロホロだ。ソーセージははちきれんばかりに艶々としている。
今にも崩れそうなジャガイモは形を保ったまま慎重に盛り付ける。人参は赤みを増して食欲を駆り立ててくる。
まずはジャガイモ。
ナイフをそっと添えると何の抵抗もなくナイフの重みでスッと切れていく。
一口サイズにするとスープと一緒にスプーンにとり、口に含む。うん。いいぞ。スープに出た旨み全てが染み込んでるかのようだ。
次は肉だ。
あんなに堅かった干し肉が長時間煮込むことによって箸でも切れそうなぐらい柔らかくなってる。
これはキャベツと一緒に食べてみよう。
最初にキャベツの甘みが口に広がる。見た目はトロリとしていたのに、口に含むと繊維の感触がわずかに残っており、柔らかくもサクリとした歯ごたえが嬉しい。
キャベツのベールを抜けた先には本日の主役、肉である。旨みの全てをスープに解き放つようなことはなく、まだまだ十分に肉の旨みを残している。
繊維の全てが自然とほどけ、舌の上でとろけるようだ。中国では食材を干して戻すと旨みが倍増すると言われていると聞いたことがある。わかる話だ。
ゲーム内の情報では単なる干し肉だったので何の肉なのか心配だったが、杞憂である。ちゃんと親しみのある牛肉の味だ。うまい。
ここで一度口の中をリセットするために人参を食べる。
いい。適度にスープを吸ってもなお、じんわりとした人参本来の甘みが残っている。こういうのが必要だったんだ。今の私には。
おっと、パンを忘れていた。ダメだよ忘れちゃ。
表面に少し焦げ目が付くぐらいにトーストしたパンを一口サイズにちぎる。
表面はパリッとしているのに中はまだふんわりとしていて、一筋の湯気が立ち上る。湯気が消えてしまう前に口に入れる。
最近のパンといえばふんわりモチモチしていて、蜂蜜を入れて甘みを出したようなのが人気だが、私は生地がしっかりしたようなのもおいしいと思う。
このパンはしっかりモッチリした歯ごたえのある生地に小麦の香りが鼻に抜けていく、シンプルなパンだ。ザ・パンだ。最高。
もう一口ちぎり、お下品にポトフのスープに付けて食べる。うーん、旨い!このスープとパンがあれば3日ぐらいは寝ずにマラソンできそうだ。
最後はソーセージだ。
私は今まで日本で売ってる普通のソーセージしか食べたことがない。昔読んだグルメ漫画いわく、あれは偽物らしい。偽物でもいいじゃないか。おいしいんだから。
このソーセージはヨーロッパの映画に出てくるような、まさに本格派ソーセージだ。
パンパンになったところをスプーンで押さえ、ナイフを入れる。軽い抵抗と同時にプツリと皮が切れると、中から透明の肉汁がスープに漏れ出すのがわかる。
ああもったいない、急いで切り終えると、スプーンで周りのスープごと掬い上げて口に入れる。
おお、これが本場のソーセージか。一瞬堅いと思った皮はプツリプツリと心地よい音を立てて噛み切れ、中の挽肉はまだ肉肉しさを保ったままだが柔らかい。
ひと噛みふた噛みとするたびに肉汁が口の中に溢れる。その中にバジルか何かのハーブだろうか、芳醇な香りが口いっぱいに漂い肉の味を引き立てる。
今まで普通に食べていたソーセージもおいしかったが、これはこれ一本がごちそうなのだ。
ふう。
夢中で一皿食べ終えてしまった。
ポトフ自体がおいしいのもさることながら、やっぱり温かい食事は最高だ。火の偉大さを改めて再確認。
そういえば、これは料理スキルの検証でもあった。
でもそんなことはどうでもいい。ただおいしいご飯がある。それでいいじゃないか。
明日は何を作ろう?
お代わりをしながら明日の食事のことを考えていた。