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クッキング!その前に

マキシマスには100を超えるスキルがある。

スキルは0から始まり上昇判定のある行動をとると0.1ずつ上がって100が最大値。条件付で120まで上がる熟練度のようなものだ。

総スキル値は700で、自ずと1人でやれる事は7種類か6種類という事になる。

本来は対人戦のあるゲーム故に上限が設けられているが、私が作った一人用では上限を取っ払ってある。

スキルが高くなるにつれて上がる確率も低くなるので上限がないといっても極端な数値にはならないはず。

今日はその中のひとつ、クッキングをやろう。

クッキングは生産スキルに分類され、簡単なものだとパンやクッキー、高難度になるとピザや寿司が作れる。

マキシマスのキャラクターは空腹度があるにはあるが、別に空腹状態でもデメリットはないので生産スキルとしての需要はほぼない。

ロールプレイ派で食事と飲み物を常に持ち歩くような人がたまにいる程度だ。そういう人でもNPCのショップで買える食事で済ませることがほとんどだ。

ゲームではそうだった。しかし今の私には当てはまらない。

とにかく温かい物が食べたい。

パンにハムやチーズを挟んで食べ、ワインで流し込むのをテレビで見ておいしそうだと憧れてる人も少なくないはず。

私もそうだった。

しかし現実はどうだ。

最初はおいしかった。二度目もまあまあ。三度目にはハムのしょっぱさに飽き飽きである。

ワインもあんまり得意じゃない。牛乳をください。

マキシマスの世界にコーヒーや紅茶の類はない。まだ伝来されてない頃のヨーロッパをモデルにしたのだろう。

そう言えば日本茶はあったな。

大型アップデートで日本風の世界が出来た時に、侍や忍者のキャラクターと共に日本刀や甲冑はもちろん、日本茶やお寿司といったものが追加されたのだ。

貯蔵庫を探せばお茶っ葉は見つかるかも。探しておこう。


生きる原動力は食事が8割を占めるだろう。少なくとも私は。

なのでまず料理をしなければいけない。

今のところまだ火を使ったことはない。お風呂は水の沐浴で済ませた。

そういえば初めて髪を石鹸だけで洗った。

髪が痛んでゴワゴワしたりするようなら何か対策を取らないといけないと思っていたけれど、特に問題はなかった。石鹸が自然由来のものだから?

余裕が出来たら髪にも何かしてみよう。お酢で洗ったりオリーブオイルを塗ったりするんだっけ。オイルはあるけどお酢なんてあったかな。


さて、火だ。

キッチンに電気コンロやガスコンロの類はない。

あるのは立派な窯だけだ。

フライパンも大小の鍋も包丁もフライ返しやお玉、ナイフとフォークに小皿や大皿と何でも揃ってる。麺棒やブリキ?の粉ふるいまである。

これだけあってコンロはない。魔法で点くコンロみたいな便利アイテムがあってもバチは当たらないよ!

はい、冷静になろう。

窯を調べてみると、意外と高機能そうなのがわかる。

下の空間に薪をくべてその上の一枚岩を暖め、そこにフライパンを置けばコンロのように使えそうだ。

一枚岩の奥には大きなスペースが空いていて、左右で薪を燃やすことでピザを焼いたりしているのを何かで見たことがある。

夢が広がるね。

火さえあれば。

ゲームの中で火を用意するのは簡単だった。

薪は買うか、手持ちのナイフをその辺に生えてる木に使って集めることが出来、薪をダブルクリックすることで野営術というスキルの判定で一定確率で火が点いた。

薪は地下倉庫に沢山あった。

野営スキルを上げるにはひたすらこの薪をクリックするしかないので、大量の薪が必要となるのだ。

まあ、野営スキルが100になっても単に薪をダブルクリックした時に100%の確率で火が点くという使い道しかないのだが。素晴らしい死にスキル。最高。

さて、薪を窯にセットして、火をつけましょう。

誰か!マウス持ってきてマウス!あとカーソルどこいった?


はい。

火といえば魔法だろう。

マキシマスの魔法は基本的に使い捨てのスクロールを使うか、魔法書に書かれた魔法を触媒と呼ばれるアイテムと自分のマナを使って発動する。

マナは他で言うMPで、消費されても時間経過で回復していく。

その魔法の中で火といえばファイアボール、ファイアアロー、ファイアウォール、ファイアストライクがある。

ファイアボールは小さな火球が飛んでいき、ダメージは3とか4とか。ゲーム内では小動物のウサギや小鳥が何とか倒せる。

ファイアアローはその名の通り火の矢が飛ぶのだろう。ゲームでのグラフィックはファイアボールと大差はなかったが、ダメージは10ほど。モンスターでは最弱のジャイアントラットなどが倒せる。

ファイアウォールはその名の通り広範囲に火の壁が出来る。こう書くとすごそうだが、実際はその場に立たせて継続ダメージ1なのでファイアボールより弱い。魔法耐性スキルを上げるために使う事がある。

ファイアストライクは攻撃魔法の中でも最強レベルで対象が足元から火柱に包まれる。ダメージは60から80。動物最強のグリズリーぐらいなら倒せる。

この中ではファイアボールが着火に適していそう。


3階の本棚にスキル書が並んでいるのを昨日見つけたので、魔法のスキル書を探してみる。

スキル書は読むだけでスキルを上げる事が出来るはずだ。一体どういう仕組みなのか。

えーと、一番上は剣術棒術弓術拳術、戦闘スキルか。興味深いが今はまだいい。

2段目は戦術解剖学治癒術知性判定に動物学獣医、色々あるが魔法関係ではないらしい。

3段目が鍛治木工細工裁縫練金調薬調理、生産スキルだ。

調理のスキル書を見てみよう。

良かった日本語だ。えーと、まず手を洗いましょう。指の股や爪の間も忘れずに、肘まで石鹸で洗いましょう。清潔は料理の基本です…?

飲食店のマニュアルみたいだ。

その先も包丁の持ち方やフライパンの手入れの仕方などが書いてある。

途中からはレシピになっていた。全てゲーム内で作ることが出来るものだった。

ゲームでは調理器具を使う事で自動でリストが表示され、選択するとワンクリックで料理が出来た。

それを現実で再現するとレシピになるのか。まあ今は助かるので持っていこう。

うーん。スキル書、思ってたのとかなり違うぞ。

もっと本を開くとパーっと光って「料理の腕が上がったぞ!」テーテレッテレーみたいなのを想像してたんだけどな。

気を取り直し、4段目が魔法関連だったので魔法のスキル書を開いてみる。

まず体内のマナを意識します。マナは生き物なら誰にでもあります。個人差はありますが鍛えることも可能です。

ゲームではステータスの知性を鍛える事でマナの上限も上がっていた。

腕力やすばやさはなんとなく、鍛えられそうな気がするけど、知性ってどうしたら上がるんだろう。実感も薄そう。

続きを読もう。

魔法は触媒の持つマナを抽出し自分のマナで増幅させ、目的に沿った形成を経て発動する。大事なのはイメージ。イメージを補強するために形を口に出すのも良いでしょう。

そのイメージを式にしたものが魔法陣です。魔法陣は先人の研究により最適化されたイメージを記号化したもので、魔法とは別の進化を遂げた神聖魔法や死霊魔法、自然魔法や忍術も同様です。

特殊な紙に魔方陣を印し、そこにマナを流してキーワードを唱えるだけで発動させる補助具を魔法書と言います。

えー、つまり、本来は暗算でやる事を魔法書を電卓のように使って魔法が出てくる、という事でいいのかな。

読んだだけじゃいまいちわからない。男は度胸、いっちょやってみるか。今は女だけど。


魔法書を探すと寝室にあった。

一応魔法少女という設定でキャラクターを作ったので寝室には魔法関連の物がいくつか置いてある。

単に部屋のデコレーションの方針として魔法的なアイテムを散りばめたと言うだけだ。魔法書も床に開いて置いた物だ。

元は洋ゲーなのであちらのお国柄、なんでもアリのこの世界に子供のキャラクターが作れないのでモミジ自身成人女性である。ただし中身は男。

魔法書にはまだ何も書かれていない。

ゲームの仕様だとスクロールをドロップする事で使える魔法の種類が増えた。

魔法書の上にスクロールを乗せてみる。何も起きない。

魔法書を開いて乗せてみる。何も起きない。

スクロールを挟んでみる。何も起きない。

スクロールを開いて上に乗せてみる。何も起きない。

開いた魔法書に開いたスクロールを乗せてみる。何も起きない。

重ねてバンバン叩いてみる。何も起きない。

はぁ、とため息をついて魔法書を閉じると、パサッと音がして何かが落ちた。スクロールの切れ端だ。

ん?なんで破けたんだ?と魔法書を開いてみると、スクロールに書いてあった魔方陣とキーワードが書のページに記されている。

別の魔法のスクロールを同様に、魔法書のページに魔法陣を合わせて閉じてみる。ページに記された。

なるほど、ページに挟むと移るのか。

さっきはスクロールを閉じたまま挟んだから失敗したんだな。

最初に記された魔法のスクロール、ちなみにファイアボールだが本に対して少し斜めになってしまった。…まあこれも味かな。


魔法を使う準備が整った。

触媒は地下倉庫から持ってきた。ゲーム内でも魔法を使うのに触媒はほぼ必須なので、抜かりなく倉庫に入れておいたのだ。

ファイアボールの触媒は硫黄である。硫黄自体は爆発ポーションの材料にもなる。

左手にファイアボールのページを開いた魔法書を持ち、硫黄の入った小瓶を人差し指と中指に挟んで、右手を標的用の練習人形に向ける。

マナを流すイメージだ。指先に意識を集中して硫黄を介して魔法書へ。イメージ、イメージ、イメージ。

……。

指と魔法書の境界がなくなった気がする。これか?

「ファイア、ボール!」

練習人形をにらみつけ、キーワードを唱えた。

すると、右手の先から魔法陣が現れ、球状に変化し燃え出した。

「行け!」

言うと同時に練習人形へと飛び命中、人形が燃え上がった。

思っていたより大きく燃え上がり、やばいと思った瞬間に火が消えた。

おや?おやおや?

手持ち花火によくあるフェイントかな?終わったと思わせておいてまだ燃えるよーっていう。

1分ほど見つめていただろうか。

火の気配はない。

おっかなびっくり練習人形を調べてみると、全体的に表面が焦げたような痕がある。

これは、もしかして、継続的に燃やすという用途には、使えない、かな?

その後も何度か試してみたが、結果は同じ。焚き付けにも使えなさそうだった。


最終手段だ。

私は作業場に行き、手ごろな大きさのノコギリと1枚の木の板を持ってキッチンに入った。

板の真ん中辺りまで切れ目を入れ、数ミリずらしてまた切れ目を入れる。

ナイフの先を切れ目の中心に当ててトントンと叩いて細く切り取れる。切り取った中心部削ってくぼみを作り、そこに今までの作業で出たおが屑を置く。

さあ、あとは薪の中からいい感じに真っ直ぐな枝を選んで、板の中心に据え、両手をこすり合わせるようにして回す。回す回す回す!


無理。

これで火を熾すなんて絶対無理。

手の皮が剥けただけだよ。もう!

はぁ。

手作りの原始的火熾しセットを投げ出し、床に仰向けになる。

キッチンの床は火を扱う場所なので、レンガである。

運動で火照った体にひんやり気持ちいい。

天井にはランタンが吊るされてる。

この何の変哲もないランタン、実は不滅のランタンというレアアイテムだ。

普通のランタンは使ってるといつか火が消えてしまうのだが、これはいつまでも火が消えないという、ただそれだけのあんまり役に立たない素敵アイテムだ。

ここに来てずっと火が点いてるからきっとこれからも消えないだろう。

フフフ、私グッジョブ。


火?

あっ火だ!

ランタンの明かりは火じゃないか。

なぜ気付かなかったのだろう。

最初から火を熾す必要なんてなかったんだ。

私はすぐに倉庫へ行き、スペアのランタンを持ってくる。

薪をナイフで割り、割り箸ほどの細さにして、キッチンの柱に付けられたランタンのフタを開け、差し込んで火を点ける。

火が消えないように気を付けながら、スペアのランタンを灯した後に窯の薪木へと差し入れる。

ついに薪に火が入った。

スペアのランタンはこれから種火代わりとして持ち歩こう。

これでようやく、料理が出来る。

既に気分は満身創痍だった。

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