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無人島0ゴールド生活

薄々気付いてはいたけれど、目の当たりにするとショックが大きい。

チラチラと長い髪が視界に入るし、ずっと自分の体が一回り縮んだような違和感があった。

目測で手を伸ばすと少し足りなかったり、カバンがやけに重かったり。

そうだ、尻餅をついた時も、もう少し足が長かったような気がしていた。

「あーあー、アーアー」

声を出してみる。

なるほど。

声は変わっているが、他人の声じゃなく自分の声だ。

いきなり自分の声が変わると戸惑いそうなものだが。

声変わりした時も、周りからはすごく変わったと言われたが、自分で動揺したような記憶はないからそういうものなのかも。

鏡に向かって笑顔を作ってみる。

ふむふむなるほど。

男の笑顔だな。これは。

顔は可愛らしい女の子の顔だが、なんだろう、表情筋の使い方が大変男らしい。

これは鏡でも見ながら練習した方がいいかもしれない。

女性はみんな練習して良い笑顔を見つけるのだろうか。

頑張ろう。その内。


洗面所にあったタオルで顔を拭き、ベッドのある部屋へ戻る。

確かめないといけない事がある。

原因まではわからないが、今私が置かれてる状況はわかるかも知れない。

ドアを開けて部屋に入り、本棚を見る。

本だけではなくアクセサリや宝石、何か粉の入ったビンなどが置かれている。

その中の一冊、無造作に置かれた本を手に取る。

何も書かれていない表紙をめくる。

「よくこの家を見つけたね!おめでとう!BY MOMIJI」

と大きく手描きで書かれていた。


本の内容を要約すると、ここはGMの家で、置いてある物は自由に使っていいし、家自体もプレイヤーの家として機能するといったものである。

MOMIJIは私がテストプレイで作成したキャラクターの名前。

テストプレイでは通常のプレイのようにスキルを上げ、アイテムを集め、拠点を作った。

そのまま消すのももったいないと思い、通常なら立ち寄らない、ダンジョンでもなんでもない鉱山の奥深くに配置した。

建物内に見覚えがあるのも当然だ。

家具の配置から紙切れ一枚まで、この建物ある物は全て私が作ったのだから。

すぐに気付けなかったのは「マキシマス オンライン」がオンラインゲーム黎明期のものであり、VRや一人称プレイのゲームではなく、斜め上見下ろし方のレトロゲームだったからだ。

違いがあるとしたらこの本は私がゲーム内の本にタイピングして作ったものにもかかわらず、実物は明らかに私の手書きの字だったことぐらいだろう。


さて、現状が理解できた所で問題がある。

なぜ私がゲームの中に入りゲームのキャラクターになったかなどは今考えて解決できるものではないので置いておく。

普通直面するのは食糧問題だが、これはクリアできた。

意図せず持ち込んだ野菜とお米、特にお米は1人なら3ヶ月は持つだろう。

そして1階広間奥にキッチンがあり、そこから降りれる地下に資材倉庫と食料貯蔵庫がある、貯蔵庫にはふんだんに食材が備蓄されていた。

適当な箱を開けると調味料をはじめ小麦粉、チーズ、ソーセージ、ハム、干し肉、サラミといったものが無駄に放り込んでいた。私グッジョブ。

ついでに言うとお酒もたっぷりあった。

「マキシマス オンライン」は無駄にお酒の種類が多いのだ。

赤ワイン白ワインエールウイスキーブランデー、店を開いてもしばらく無くならない量がある。

実際の私はあまりアルコールを好んで呑んだりはしないのだが、冒険者の家となるとついつい置いてしまう。

地下貯蔵庫は全体が冷蔵庫のように冷えていて、食材はしばらく持ちそうだ。部屋全体に冷やす魔法でもかかってるのだろうか。

あとは野菜だが、ゲーム内の屋上は土を敷き詰めて草を生やし、水場を用意して庭園のようにしていたのを思い出し上がって見ると、意外なことに日の光が差していた。

といっても外に出られたわけではなく、頭上数十メートルも吹き抜けになった先に空が見えてる。昨日ぶりの日光が眩しいね。

ここで家庭菜園のようなことが出来るかも。

水は洞窟の岩から染み出したものが屋上の水桶に貯まり、そこから屋内に分岐して洗面台やキッチン、最終的にトイレに行くようだ。

そう、トイレもあるのだ。それも水洗。素晴らしい。

お風呂だけはないので近いうちに屋上辺りで作ろうと思う。

このように食料さえあれば何十年と住めそうな素敵ハウスなのだが、立地が悪過ぎるのだ。

まずこの鉱山、どれだけ広いのかわからない。

元々マキシマスの世界に鉱山は大小含め数百ヶ所あり、小さい物だと入ったらいきなり壁、大きいものだと山丸ごと。

ここはその中でも随一、山どころか島丸ごとかもしれない。

ただでさえ広いのに現実での尺度もわからない。

例えばこの家、ゲーム内では手の平で隠せるほどのサイズだったのが、1階の広間だけでも壁から壁まで25メートルはある。

鉱山は途方もない広さだろう。

地上へ出れても安心は出来ない。

ゲームに忠実ならここはヘルアイランド、無人島である。

あるのは鉱山と遺跡とダンジョンと化した滅んだ街だ。

遺跡は巨大なドラゴンたちの巣になっており、滅んだ街はマッドな魔術師が召喚した悪魔の軍団の拠点になっているはずだ。

その軍団こそがこの島を地獄に変えたのだ。

島全体も人を丸呑みできる大蛇や大蜘蛛、リザードマンやオークが集落を作って闊歩している。

あ、モンスター扱いの亜人がいるから無人島とは言えないかも?

ゲームでは問答無用で襲い掛かってきたので倒していたが、様子を見る必要はあるかもしれない。

そんな中で船を調達して大海原に旅立ち、ようやく人間の住む町へ行けるだろう。

それを私は1人でやらないといけない。

備蓄はあるんだから誰かが見つけてくれるまで待つという手もあるが、こんな所に人など来るだろうか。

ゲームの中でさえ、ドラゴンの素材を狩る者か観光目的の物見遊山だけだった。

全く、誰だこんな所に家を建てたのは……。


家のことをおさらいしておこう。

まず1階は広間、右奥にキッチン、キッチンには地下への階段、その先は倉庫になってる。

広場の左側には上に登る階段があって、階段の下のスペースにトイレがある。トイレの流れる先は不明。

2階に上がってすぐのドアが私ことモミジルーム。ベッドありクッションあり靴や服や帽子もある。ただし全て女物。

女の子の私室として作ったので、他にも雑貨や小物が色々とある。掃除の必要はあり。

隣の部屋には作業場がある。糸紡ぎや布織機、作業台には裁縫道具に細工道具に錬金術のための道具にあと紙とペン。とにかく生産道具を置いてみた。

作業場の次は洗面所だ。洗面台とリネン置き場。石鹸も潤沢にある。ゲームの時は使い道が何もないアイテムだったが雰囲気作りに揃えて置いたのだ。

3階に上がる。ここは主に戦闘用スキルを上げるためのフロアになっている。

標的人形に練習用の木製武器、弓と矢、あとは本来ここを見つけた人へのご褒美に用意したマジックアイテムが満載した箱が積んである。

これらを使いこなすことが私の生命線になる。ゲーム通りの効果があればいいのだが。

最後に屋上、今のところ唯一日の光を感じられる場所だ。大きな水桶があるので洗濯などはここでしよう。土があるので畑も作る予定。

家の設備を確認していて気が付いたのだが、どこもホコリひとつない綺麗な状態だった。意図的に散らかしていた私の部屋も、物が散らばっているだけである。

私が来るまでここの時間が止まっていた?私がこの世界に来たと同時に家も出現した?そもそもゲームの世界なので風化がない?

興味は尽きない。

ちなみに出入り口は1階玄関だけ。屋上が吹きぬけなのを除けば戸締りが簡単でいいね。


とりあえず、目標が出来た。

人のいる所へ行きたい。1人でいるのはいつか限界が来る。と言われている。きっと私もそうだろう。

そのための準備をしなくては。

今日は設備や物資の確認と自室の掃除で夜が更けてしまった。

食事は貯蔵庫にあった丸パンとハムチーズ、持ち込みのキャベツで簡単なサンドイッチを作ったのと、ワインを水で割って飲んでみた。

これぞ冒険者の食事だ。

そういえばこのパン、クッキングスキルを上げるのに大量に焼いたんだっけ。

カビたりする前に消費出来ればいいけど。

スキル、あるのかな。

今のところスキルが発動!なんてことはない。ステータスが見えることもない。

ゲームが現実になると不便だなあ。

明日から色々と試してみよう。忙しくなりそう。

私は「マキシマス オンライン」に初めてログインした時のようにワクワクしていた。

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