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ウチ③

 簾内慎くんと言えば、ウチのクラスの学級委員だ。高校三年間を通してずっと学級委員を歴任してきたみたいで、学級委員長の火宮くんと話しているところも見たことがある。

 ただ火宮くんと違うのは、目立つ所にいないということだろう。じゃなきゃ、こんなに印象が薄いわけがない。

 チームメイトに聞いてみても、同じクラスの子で辛うじて名前と顔を一致させることができたくらいで、他クラスの子に至っては名前も知らない人もいた。かくいうウチだって、なにか印象に残っていることがあるかと聞かれれば、そんなものはないんだけど。

 でも、この前の体育の合同授業、あれは強く印象に残っている。目立つ活躍をしてたわけじゃないけど、間違いなく彼はあの試合で一番活躍していた。

 以来、彼のことをなんとなく注視するようになっている。あの試合みたいに、目につかないところで色々やってるんじゃないかと思ったから。

 まず、朝のHR。いつも学級日誌を書いている。出席人数やその日の連絡事項を日誌に書くのは学級委員の仕事だ。もう一人相方さんも学級委員のはずだけど、日誌は毎日簾内くんが書いてるらしい。相方さんが書いているのは見たことがない。

 授業中も至って真面目。ノートをとって、先生に指されたら答える。でも自分からなにか言ったりはしないみたいだ。授業中よく発言してたら印象に残るはずだし、普段からこんな感じなんだろう。

 休み時間には、同じクラスの竹馬ちくまさんとよく話している。竹馬さんは確か美術部の副部長をやってたはず。接点が多いようには思えないけど、結構仲はよさそうだし、昔からの付き合いなのかもしれない。

 放課後。ウチはすぐに部室に向かったからよく見れなかったけど、人が少なくなってからも机に向かっていた。

 うーん。分かっていたことではあるけど、本当に印象に残るようなことをしてない。もちろん、学級委員の仕事も前に立つものだけじゃないはずだし、当たり前と言えば当たり前なんだけど……。

「ぶちょー、おーい、ぶちょー!」

目の前でヒラヒラと手が振られる。会議机の周りに集まったチームメイトたちが揃ってウチを見ている。そうだ、ミーティング中だったんだ。

「あ、ごめん、なに?」

「なに?じゃないよ。部の出し物、これでいい?」

差し出された紙を受け取って流し見る。今年は例年と違うことをやろうって話になって、なにをするかずっと話し合っていたけど、これがその結論らしい。いつもと違うって言っていただけあって、かなり大変そうだ。

「これだとウチらも少し前から準備しないとだね」

「そうそう。だからこれからみんなのクラスの準備がどんな感じになるのか聞いてもらうの。たぶん、クラス準備と同時並行になるから」

「オッケー。いつまでに聞いてくればいい?」

「んー、なるべく早く。あと、ついでに実行委員にこの紙渡しといて」

「了解。じゃ、ミーティングお終い。練習始めよっか」

「あーい」

ウチのクラスはもう出し物も決まってるし、必要な準備やシフトもある程度予測できるはずだ。あとで聞いてみよう。

 

 次の日の朝、下駄箱で靴を履き替えていると相方さんが登校してくるのがみえた。ちょうどいいや。今のうちに聞いておこう。

「相方さん。ちょっといい?」

「え?」

相方さんが靴を履き替えるのを待って声をかける。相方さんは話しかけたのがウチだと分かると驚いたように目を瞬かせた。

「……見目さん?なに?」

「ちょっと文化祭のことで聞きたいことがあるんだけど、準備をいつ頃なにするかってもう決まってる?」

「えっと、どういうふうにって?」

「実はウチ、部活の準備もしなくちゃいけなくてさ。クラスの準備の方と被っちゃうから、クラスの準備で抜けられない大切な時期があるなら知りたいんだけど」

「あー、うん、えっとねー」

相方さんは予想だにしなかった質問だと言わんばかりに言葉を濁して目をそらす。

「別に、抜けるならいつでも抜けちゃっていいんじゃないかな?」

「いつでもって……衣装合わせとか、そういうのはしないの?」

「いや、まだそういうのは決まってないんだよねー」

決まってない、じゃなくて相方さんが決めるんじゃないの?

 とは、もちろん言わないでおく。

「分かった。ありがとう」

「うん。バスケ部もがんばってね」

相方さんは駆け足で教室に向かっていった。その背中を見送って、遅れてウチも教室に足を向ける。

 困った。

 相方さんにはいつでもいいと言われたけど、本当にいつでもいいわけがない。ウチのクラスの出し物は大規模だし、絶対人手が足らなくなったりするときがくる。そのときになってやっぱり抜けないでなんて言われても困ってしまう。

 どうしよう。誰なら分かるかな。

 人が増え始めた教室を見回したとき、ちょうど簾内くんが入ってくるのが見えた。

 そうだ、彼に聞けば教えてくれるかもしれない。結構真面目なタイプっぽいし。

「すな、」

「慎ー。おはよー」

早速呼びかけようとして、突然うしろから飛んできた声に遮られる。振り向くと、竹馬さんが笑顔で手を振っていた。それに気づいた簾内くんも手を挙げて、合流した二人は楽しそうに話し始めてしまった。

 ……あとで聞くことにしよう。

 けど、そう決心したウチが声をかけたのは、結局三時間目の授業が終わってからだった。休み時間になるたび竹馬さんが簾内くんの所に行って本当に楽しそうに話し込んでいるものだから、二人と一度も話したことがないウチが割って入るのはハードルが高かった。

 ああも楽しそうな竹馬さんの表情を見れば、ウチだって察するものはある。

 授業の終わりを告げるチャイムが鳴って、竹馬さんが来る前に簾内くんに話しかける。

「ねぇ、簾内くん。ちょっといい?」

隣の席で教科書を整理していた簾内くんに話しかけると、二、三度目をパチクリしてから微笑んだ。

「見目さん。どうかした?」

「文化祭の話なんだけどさ、クラス準備の予定って、もう決まってる?」

「クラス準備の予定?なんで?」

「ウチさ、部活の方でも文化祭の準備をしなくちゃいけなくて、それがクラス準備と被りそうなんだ。だから、どうしてもクラスにいなきゃいけない日とかが知りたくて」

「ああ、そういうこと」

簾内くんは机からノートを取り出した。それを開いて見せてくれる。

「どんな準備をしなきゃいけないかは、大体纏まってる。相方さんとかクラスとも相談しないといけないから、はっきりしたことは言えないけど……本当に出てて欲しいのは文化祭直前の一週間前くらいかな」

「じゃあ、その一週間は毎日クラスにいた方がいい?」

「いや、別に毎日じゃなくてもいいよ。何日も休まれると困るけど、一日置きぐらいで来てくれれば全然大丈夫」

「そっか。ありがとう」

「いえいえ。部活の方も頑張ってね」

簾内くんがノートをしまう。チラッと見えた他のページにも、細かい文字がびっしり埋まっていた。

 こういったらアレだけど……相方さんとはだいぶ違う。

 話し合いのときに出し物を大きくしようと言い出したのは相方さんだ。けど、その出し物について細かく考えてるのは簾内くんの方。

 この前のバスケの試合といい、簾内くんは目につきにくいところで色んなことをしてくれている。

 全く知らなかった。

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