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NPC、目覚める。

視界は真っ暗。音も無し。どれほど経ったのかも分からない。



自意識はあってもAIみたいにシステムに関与する事も出来ない私は、こうなっては無力なNPCである。





え?メンテナンスとかじゃないよね......普通にプレイヤーいたし。いつものメンテナンスなら、こうしてブラックアウトする前にプレイヤー様方はログインすら出来なくて世界中から消え去るはずだし。そもそもメンテナンスが始まったらあたしは眠り込んだように意識も落ちる。





あたし起きてますけど!!!

不具合ですか!!!









と、叫びたいところだが声も出ない。いや、いつもそうだけどさ。決まった台詞しか吐き出せない口よ、どうせ。そう不貞腐れてはみるものの、これでは結局降り出しに戻るだけだ。



頑張ってよ運営さん......。まさかこのまま消滅とかしないよね?!







真っ暗な中、ほっぽり出された私の意識はいつになく大荒れである。そうこうしていると、どこからともなく微かな音が聞こえてきた。

なんだろう。聞いたことのない音だ。細くて高い電子音。ぴっ、ぴっ、と規則的に流れている。しかし本当に微かな音だ。耳を済まさないと聴き逃してしまう程に。





ぴっ、ぴっ



音は規則的に続いている。

なんだろう、この音。本当に知らない。あれ?少し大きくなったかな。



すると今度は聞いたことも無い誰かの声が何かを言った気がした。遠すぎて何を言っているのか分からない。うーん......なんだろう。何が起きてる?





声はすぐに静まった。すると今度は手のあたりに何かを感じる。熱を帯びてる......?いやいや、そんなわけが無い。NPCには感覚なんてない。私はクエストが進んだ先で戦った時も、食事の時も、何も感じたことはない。いた!とか温かいですね。とか言う機会はあるが、それを実際に体感したことなどない。

そう考えていると、だんだんそれが本当に熱を帯びた感覚なのか、それともいわゆる冷たいという現象なのかも自信が無くなってきた。



何?何が起きてるの?相変わらず視界は真っ暗だしな。わかんないな、これ。







あれ?また声がする。



......のり、実里。



みのり?それって何?何のこと?聞いたことない言葉だな。





次第に声は大きく強く響いてくる。男性の声だろうか?そしてその声が大きくなる程に、私の手にある感覚は鮮明にはっきりと分かるようになってきた。







「実里!」



もう一度声が大きく耳に響くと、私の目に薄く光が差し込んできた。一度反射的に目を閉じた後、もう一度ゆっくり瞼を開くと、そこは全く見覚えのない真っ白な部屋の中だった。





「え?」

え?ここどこだ?てゆうか声が出た?ん?今の声って私?いつもよりもなんだか可愛らしくて高いような。でもなんか妙に掠れてるな。



「実里!」

横からまた誰かの声がした。私はその声の主を見ようとしたけれど、思うように体が動かない。てゆうか実里ってなんだろう......。名前なのかな。人違いなんだけどな。

私は目線だけをなんとか動かして、声の主を見つける。中年の男性のようだ。どうもおかしな格好をしてる。こんな服は見たことがない。真っ黒な上着。その下に薄いシャツを着ているが、騎士様が纏うシャツとは随分違うようだ。......こんなアバターあったっけ。見たことないな。



男性はどうやら私の手を握っているようだ。手にある感覚はこれか。と私は呑気に納得する。それよりも、驚いたのは握られている手が私の知っている体のものよりもずっと細く、土気色に澱んでいる事だった。おまけに骨骨しい。



え、これ何が起きてるのかな。





暗闇の中で聞こえていたぴっ、ぴっ、という電子音は今はもっとはっきり聞こえてくる。





男性は見たことも無い表情を浮かべて、涙ぐんで私を見下ろしていた。

「良かった。本当に良かった!俺が分かるか?」

男性はふるふると震える声で私に語りかける。



いや、分かりません。







しばしの沈黙の後、男性は少しばかり顔を曇らせて私の頭上に手を伸ばした。小さなボタンを軽く押して、顔を歪めたまま私の頭をそっと撫でた。

















それから程なくして白くて妙に薄いコートを来た男性と、これまた見慣れない真っ白な服を着た女性が数人やって来た。あれこれと物議をかもした後、首元を触ったり、腕を触ったり。いくつか質問をされたけれど私は力なく首を振り続け。わけも分からずいじくり回されて、極めつけに私の腕へと針を刺して管を取り替える作業が淡々と行われると、一気に私の前から誰もいなくなってしまった。

















状況の整理が必要だ。

訳が分からない事が多すぎる。



とりあえず、目の前のものは大体見たことも無いし、誰もかれも私を実里と呼ぶし、何だか痛い。所々点々と大雑把に全身痛い。それ、おかしいんだって。私に感覚なんて備わってない。だけど今ならわかる。これが痛いって事だよね。とにかく不快で仕方がない。



ここ、MMORPGで合ってるよね?あたし、しがないNPCの修道女で合ってるよね......?

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