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その五 ユウカリ村

お待たせしました、予定より少し早い更新です。

前回短かったので、今回その分少し長くなっております。

また、最後の方眠くなりながら書いてます。変なとこ多いかもごめんなさい

皆これから仕事かもだけど、私ゃこれから寝ます、おやすみ!


柿谷衛はサンレイヤーと目の覚めぬ少女ライラと共にクムルンランドという国を目指す。




柿谷衛は目の前の光景に思わず言葉を溢した。


「凄いな…」


何が凄いかといえば躊躇の無さである。


つい先日自分のやられたウサギモドキを見つけるや否や、


サッカーボールでも蹴りあげるかのように躊躇無く顔面に蹴りを入れる。


蹴られて浮いたところに両手でナイフを上から突き刺す。


あまりの鮮やかな手際に、


そして唐突さに口を開けるのみだった。


ナイフを突き刺されたウサギモドキは急所を貫かれたのか、ピクリとも動かなくなる。


そうして動かなくなった死体をサンレイヤーは背に背負った篭に放り込む、


既に10体近くは倒しているだろうか?


愛くるしいシルエットをしているせいか、ここまでくるとなんだか可哀想に思えて仕方ない。




背にライラという少女を背負い、


サンレイヤーの後ろを着いていく。


ちょくちょく柿谷に背負われた少女を気にして後ろを向いてくる。




信用はしてもらってはいるものの、


意中の相手が他の男の背中に身を預けているのがやはり気にはなるようだ。


年頃の青年らしい反応と、


反比例するような魔獣処理の手際のよさにただ


「なんだかなぁ。」と言葉にできない想いが募る。






多分半日位だろうか。


日が傾き始めている中、歩き続けていると


やっと森の端が見えてきた。




その頃にはサンレイヤーの背負う篭にはウサギモドキだけでなく、他の魔獣もギッチリ詰まっていた。


それどころか、右手にナイフを持ち、左手にはゴブリンの死体を6体、腕に木の蔓を縛り付け、引きずっていた。








村に着く頃には、


日が沈みかけていた。




村に着くと、一人の村娘が応対し、


村長が部屋を貸してくれる事になった。




先ずライラをベッドに横にさせると、


サンレイヤーは村長と話をしに部屋を出て行った。




「それにしても…この子、起きないな…。」


少し褐色肌というか、健康的な日のやけ方に汗が浮かび妖艶に写る。


「サンレイヤーが惚れるだけ、ある。もう少し大きければ俺も…」


なんて、変なことは考えないようにしよう。


命の恩人相手に裏切るような事はしたくないから。




暫くして、


サンレイヤーが村長の娘と共に戻ってきた、


村長の娘の手には水の入った桶と布巾を持っている。




「柿谷、外。出るぞ。」


そうとだけ言うと、ペコリと村長の娘に頭を下げて行った。




あぁ、なるほど。




家から出て外、村の囲いから森を眺める。




「柿谷、本当にありがとう。」


急に深々と頭を下げるサンレイヤーに驚く。


「どうしたんだ」


「柿谷がいなかったらこんなに安全にライラを運べなかった。あの森は入るのは簡単なんだが、出る時は魔獣が多くなる、不思議な森なんだ。」


「いやぁ、俺はただ背負ってただけで、安全に出れたのは君のお陰だよ。此方こそ感謝してる。」


「それとすまなかったな、昨日はナイフまで突き付けて…」


「まぁ、生きているし。結果オーライって事で。」




「あと、森から持ってきた死体は村の人達に素材と食料として提供したんだ。」


「え。くうの?」


「ああ見えて胃袋の胃液さえ、抜けば毛皮は寝具にも衣服にも使えるし、肉は臭みはあるものの柔らかい。代わりに数日の宿として、ここを貸して貰う形になった。」


「あの、ゴブリンは…」


「っふ、あれは流石に食わん。素材だ」


それもそうか、


人形のゴブリンを食べるのは少し勇気がいるだろう。


お互いに笑い合い、部屋に戻っていく。






扉を開ければ、


村長の娘が裸のライラの左腕を持ち上げ、


脇の下を拭いている所であった。


背中が見えたが、


形のよい乳房は背中のシルエットから軽くはみ出て艶のある褐色肌が映えた。




思わず見とれ、反応してしまった。




「しっ失礼しました!!」


サンレイヤーは顔を真っ赤にしながら扉を閉めた。




おっと、これはすぐ俺も出ていかないと


サンレイヤーとの不仲に繋がりそうだ。


扉から出るなり、


なんでお前が中から出てくるんだと言わんばかりの表情をするサンレイヤーに、


「1人で出てっちゃ酷いよ」


と何も気にしていない様子をみせる。


村長の娘が帰っていった後も、


サンレイヤーは昨日はライラと同じ部屋で夜を越していたのだが、


柿谷と同じ部屋で寝た。






鳥の囀ずりを近くに、


気がつけば村長の娘が部屋に来ていた。


ぼー、としながら


窓の近くの花瓶に水を注ぎ直している村長の娘を、改めて見ると


深い青でショート位の髪。大人しそうな外見にジト目、泣きボクロ。


幼さを残してはいるが…


大人になれば、凄い美人になるに違いない。


落ち着いている感じからもあまり年齢を感じさせない魅力がある。




「起きられました?」


「ど、ども。」




「朝食は用意してありますので、居間の方へどうぞ」


そういうとゆっくりとお辞儀をし、また家の外に出ていった。




…アリだな。


なんて、年齢差があって…


うん…考えないようにしよう




横を見ればサンレイヤーがソファで眠っていた。


昨日は自分よりも早く起きていた為、


疲れているのかと思い、そのまま起こさずにいることにした。



用意されていた朝食は


ボソボソとした固いパンと、薄いスープではあったが、


久しぶりに食べた気がした人の手料理はとてもおいしく感じた。



外に出れば井戸の近くでスカートを持ち上げ、


大きな桶の中で緑の布を踏みつけ洗濯をしているのかと思えば、


水は赤く、


気がつけばそれは昨日のゴブリンであった。




「え」


朝のイメージから、反転。


ゴブリンの死体を何度も何度も踏み潰しては桶に水を追加していく彼女を見て固まってしまった。



その驚いた様子を受けて


「これは、昨日頂いたゴブリンです」


と答えてくれる。


それはわかる。いや、わかりたくなかったが。


「そ、それは何をやっているの?」


朝から気分が悪くなるものの、


一応聞いてみる。




「ゴブリンは牙や内臓、爪と骨を除いて、こうやって踏み潰す事で皮に付いた内側の肉も取りやすくするんです。」


「そ、そうなんだ…」


「もしかして、初めてでした?」


「はい、あまり、こういうのは疎い物で…」



「そうでしたか、申し訳ありません。朝からこのような所をお見せしてしまって…」


「いえいえ、大丈夫です。」


「ありがとうございます」


そう言って会釈した彼女は再びスカートを持ち上げ綺麗な素足でゴブリンを踏みつけながら跳ねる血の混じった水で脚を汚していく。



確かにゴブリンは骨張ってて、


食べる所が少なそうだとは思ったが、


血抜きをしながら仕込まないといけないのであれば大変だな、


と思いつつも。



「何か僕に出来る事はありませんか?」




「では…」














「ふぅ、」


額に汗を浮かべ、息を吐く。


カコーンと、気持ちのいい音が鳴り


薪が二つに割れる。




そう、薪割りである。


これならグロテスクな事もなく手伝うことが出来る。


当然、サラリーマンだった自分は前の世界で薪割りなんぞしたこと無かったが、


村長の娘さんに教えて貰ったのだ。


何故か密着し、斧の構え方まで教わったが、


密着してもらえるのは嬉しい反面、


彼女の衣服や身体に付着したゴブリンの血液が自分に付くのが物凄く気になって未熟ではあるが、胸が、柔肌が…だなんて、それどころではなかった。




粗方薪割りもスムーズに行くようになったかと思えば、


ゴブリンの血抜きも終わった様で、桶の水を桶の栓から抜いていく。


最後に栓の空いた桶に井戸から汲んだ水をぶちまけると、徐に下着を脱ぎ、


ワンピースのような一枚服も脱いで井戸の水で水浴びを始めたではないか!




うおおおおおおおお!


けしからん!


あと5年、いや、3年でいい!


後に見たかった!!




しかし、柿谷衛は紳士である。


一瞬だけそれを見ると反対を向き薪割りを続行した。



暫くしてから、


サンレイヤーが起きてきたが


朝は弱いのか聞けば、そんなことは無いと即答。


しかし、なぜだか昨日はなかなか寝付けなかったらしい。


…純情か!!





「とりあえず、薪割りはこんなもので大丈夫でしょう。お客様に労働をさせてしまって申し訳御座いません。」


村長の娘に礼を言われると、逆に申し訳なくなってくる。


「いや、此方こそ眼ぷk...いや!動いてないとなんか落ち着かなくて。それより、薪ってもうここに有るもので終わりですか?」


「えぇ、確かその筈ですが近い内に木を切りに村の木こりが行くと思います。」


「そうなんだ…」


そういえばサンレイヤーは薬草を取りに行くと言っていたな。


彼も眠るライラの為に頑張っているようだ。


日が落ちるまでもう少し時間がありそうだった為、村を散策することにした。



村の至るところに昨日サンレイヤーが倒した魔獣の皮が干してあり、


既に村中に行き渡っているのが伺える。


他の村人も目線が合えば会釈はするものの、話をする事はなかった。








「あれは…オークっていう奴か?」






少し話が遡る。



柿谷は村の外れに使っていなさそうな小屋を見つけた。


小屋の中はクモの巣が張り、埃まみれ。


「お邪魔しますー、うっわ。散らかってんなー」


扉には鍵は掛かっていなかった。


悪い気もしたが、


その中に入って足元に落ちている本や瓶を眺める。


まだオイルの入ったランタンに、


何故か、見覚えのある『じゆうちょう』を発見する。


「なんでこんなとこに…」


名前欄には漢字で『鴨上麗南』と書いてある。


…かもがみ、れいな?


『じゆうちょう』を開くと、一文。






【私は異世界に来た。】






思わず、『じゆうちょう』を閉じた。


心臓が高鳴った。


まさかこんな所で早々に異世界に来た人物の書き記したものが見つかるなんて思っていなかった。


つい周りをキョロキョロと見回す。


挙動不審である。


「廃屋っぽいし、も、貰っても平気だよな?」


すると林の方だ。


何かが動いた気がした。



埃で曇った窓を軽く擦り、よく見れば


豚のような顔に、身体は腹は出ているががっちりとしている。


それは自分の意思ではなく誰かに指示を出されているのか、時折止まっては思案しているように見えた。




「あれは…オークっていう奴か?」




暫く見ているとオークはそのまま林の中へ消えていった。


オークはこんなに人の村に近いところに生息するものなのだろうか?


『じゆうちょう』に対する好奇心を一旦理性でストップ。


泊めさせてもらっている家へ戻った。


家に着けば、夕食の準備は終わっており、


サンレイヤーは既に卓に座っていた。



「おそいぞ、柿谷。どこいってたんだ?厠か?」


「いや、悪い。」


「お夕食の準備は出来ております、どうぞお掛けください。」


村長の娘は椅子を引いてくれ、その椅子に座る。


「あ、どうも。」


席に着くと村長の娘はスープをよそってくれる。


「サンレイヤー。」


「うん?」


「オークっぽいのをさっき見かけたんだけど、人の村に害はないの?」


一瞬で皆ピタリと止まる。


村長の娘に至ってはよそってくれていた器を床に落とす始末。



「え?ごめん。大丈夫?」


「申し訳御座いません!私っ…」


青ざめた顔をした村長の娘は落とした器を拾い、


床に落ちたスープの具をかき集める。


そして、器に入れる。


「え?」


「へ?」


「いや、それ、落とした…」


「あ……すみません!私っ……」


そう言うと村長の娘は奥に引っ込んで行った


「えぇー……」




「柿谷。それは本当か?」


真剣な面持ちで食事の手を止めているサンレイヤーが訪ねてくる。


「うん、多分だけど。あれはきっとオークってやつだと思う。」


「そうか…。」


何か考えているようなしかめっ面で腕を組むサンレイヤー。


「やっぱ、なんか不味いのか?」


「オークってのは基本的に肉食で、よく集団で人間や亜人の村を襲うんだ。しかも自分達の巣に抵抗の弱い女子供を連れ去って行き、子供は餌に、女は苗床として、男は食い散らかされるんだ」


「え、やばくね?」


「しかも夜、村が寝静まった頃に一気に押し寄せるのが奴等の戦法だ。」


「え?今日??」


「人の村の近くに姿を見せるのははぐれた奴か、襲う算段をしている奴か…」


「さっき見た奴は少なくとも自分の意思のみで動いているわけではなさそうだった…。」


「なら、後者か…」






「すみません!失礼致しました。」


そういって走ってくる村長の娘は持ってきた雑巾で床を拭き始める。













この話は村長にも伝え、


急遽、村人を集め会議が始まった。


主に議論としては


「村から逃げ出す」か「村に残って戦う」か。


村にオークが来た場合、数にもよるが10頭いたらそれだけでこの村の村人は全滅すると考えてもいいみたいで、


自分が見たオークは一頭。


しかし、指揮をしている者がいるようだったとの事で


という事はただのオークだけでなく、


知能の高いハイオークやオークキングが居ると見て間違いはないだろう。


如何にオーク単体の知能が低くても、戦闘能力は高いし、群れの命令系統には絶対のオークは個々の死を恐れる所か、駒として死を躊躇わない。




サンレイヤーも


どんなに上手く立ち回っても5頭前後で手一杯という。


しかもそんな状況であれば村は既に群れに包囲されているのが普通であり、


村人全員で『村から逃げ出す』という選択肢は絶望的だ。


意識の戻らないライラを連れて、村を脱出というのも村を見捨てることになる。




ならば取る道は1つしかない。




『村に残って戦う』だ。




しかし、


サンレイヤーはライラに危険が及べば、


村がどうであれ、柿谷に背負わせ、無理矢理にでも逃げ道を作りライラの安全を第一に動くという。




そもそもライラの為に王位継承権も捨て、国を逃げてきたのだ。妥当な判断である。


それに自分の命もサンレイヤーに助けてもらったモノだ。


報いたい。サンレイヤーがライラを背負って逃げてくれ、というなら村には悪いがライラとサンレイヤーを取る。


それは今後の自分の為にも仕方の無い事だ。






この世は常に弱肉強食、




それを改めて痛感する。










鍬や鉈、鋤や鎌、ピッチフォークで武装した農民の男が26人、この中には村の青年も含まれる。


主に3人以上で一頭と対峙しなければ瞬殺されてしまうようで、チーム別けをした。




また、サンレイヤーは単独でもオーク3頭は相手取れると言っており、戦闘の要として前線へ。




ライラや村長の娘等、女子供は村長の納屋に隠れる事になった。


発酵させてる豆があるそうで、少しはオークの鼻も誤魔化せるとの事だった。








夜、


皆戦闘態勢で緊張の糸が張り詰める。


なかなか来ないなと思ったそのときはだった。




村人の一人が声を挙げたのだった。


「き、きたぞー!」


先程まで欠伸をしていた者もゴクリと喉を鳴らす。




のし、のし、とゆっくりと歩を進める者の正体、


やはり、オークである。




しかし、


夕方見かけたオークとは違い、牙が大きく発達し大きさも一回り違う。


2mを軽く越すその姿、


「ハイオーク、だな。」


サンレイヤーがナイフを構える。






「ア。ナンデオ、キテル」




ハイオークは人語を話すと、サンレイヤーが跳ぶ。


「起きてちゃ都合が悪かったか!?」


ハイオークの肩に一撃。


しかし、それを首を動かし難なく牙で受け流す。




よく見れば暗闇の中まだ後ろには軽く10頭は越えるオークが見える。




ハイオークは普通のオークの3倍は強い、って聞いた。


じゃあ、サンレイヤーがタイマン張って?


26人で10数頭?


無理だ。








「何故だ?攻撃を仕掛けてこない。」


サンレイヤーは何度も攻撃をし、


それを防御されるだけで、反撃すらされる気配がない。


何か策がある?


「長丁場になれば此方が不利だ」


そう言ってサンレイヤーはナイフを投げつけると右手を指先まで伸ばし空に掲げる。


「シザーノイズ!」


するとサンレイヤーの右肘から指先を超えて20cm程までの空間が鈍い光で発光する。


そして今度はその発光している部分でハイオークを文字通り斬りつける。




それまで一度とて流血も何もなかったハイオークはこの時初めて足から出血し、膝を着いた。




「っグ。ジー、ド…ノヤ、ク…」


何か言っている。


暗い中光を放つサンレイヤーが高速で動き光の残像が延びて見える。




「ソ、クマ…モル…!」


流血を続けながらも致命傷にならないように身体は傷付きながらも急所は確実に守っていくハイオーク。




そんな中、


後ろのオークは何故か進軍はせず


ハイオークの防戦を見守っている。




何かを狙っている?


別動隊がいて、他の所を襲撃しているのではないか?


ない話ではない。


柿谷は戦闘待機する村人に号令を出す。




「時間潰しを喰らっている!別動隊を警戒!4チームは納屋を確認に行ってくれ!」




村人は我に帰ったように納屋へ走り出す。


サンレイヤーも焦りを感じているようで、攻撃の手が雑になってきている。




「いい加減、さっさと倒れろ!」


サンレイヤーがハイオークの脳天目掛けて跳躍。


「ガッ」


サンレイヤーは地面に叩き落とされた。


ハイオークではない、小さな人影がハイオークの肩に乗っている。


その人影に蹴られたのだ。


「おいおい、何やってんだよ。」


「ヤ…クソ、クマモル」


「俺は殺られに行けなんて言ってないぞ。」


「テハ…ダシテナイ」


「お前はな。話をちゃんとしたか?」


「…」


「な?まずは対話だ。」


そんなやり取りをハイオークとするとその人物はハイオークの肩から降り、サンレイヤーに話しかける。




「そこの君、蹴って悪かったね。でもこっちも正当防衛、ってことで。」


「お前、人間か?」


ふぅ。見てわからないのかとばかりにため息をついてみせ、スルーする。


その人物は両手を広げ声を上げる。




「俺は、ジード。人間さ。」






ジードと名乗る人物はハイオークを下がらせると、


サンレイヤーと戦闘が始まった。


サンレイヤーは消耗しているものの、何故か動きの遅いジードに攻撃が当たらない。




暫く戦闘が続くと、


もう二人の男が現れた。


その男達は縛られた村長の娘ともう一人の女の子をつれてきた。

人質だ。



ということは、


納屋の制圧が既にされている、という事だ。




それに気付いたサンレイヤーも攻撃が鈍る。


追加で現れた男2人も戦闘に加わり、サンレイヤーは劣勢にたたされる。




何か、


何か、出来る事は無いか。




今手元にあるのは、水筒と眠気覚ましにプリスク、それに鍬だ。




サンレイヤーのスタミナの消耗も激しく、


一人一人はサンレイヤーに劣るのだが決めきれない。




鍬を持って此方も参戦出来ればいいのだが、足手まといにしかならないのが目に見えている。


せめて、相手も使っているのはナイフのみ。


遠距離で何か…


鍬を投げてもサンレイヤーにも当たる可能が高いし、そうこう考えている間にサンレイヤーの傷は次々増えていく。




「サンレイヤー、避けて!」


思わず投げたのは水筒だった。


それなりの勢いで投げた為、当たれば痛いし、怯むだろう。


と思ったのだが、サンレイヤーが避けたあとジードにより、水筒はナイフで突かれ、止められてしまった。






が、


暗闇でよく見えない中、何故かジードは空中をもがく。




「なんだ…?」


後から参戦した2人もジードから何かを剥がそうとしている。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆






柿谷が何かを投げた。


「サンレイヤー、避けて!」


言われるがままに避けたが、ジードによってそれは止められる。


いや、止められたかに見えた。


ジードがその飛んできた物体をナイフで突き刺し、止めた瞬間だった。


ナイフによって開いた穴から液体の何かが飛び出した。


その何かは液体のようでジードの顔を覆うと、ジードは剥がそうと激しくもがく。


しかし、液体。


掴むことも出来ずにいた。


子分らしき二人の男もジードの顔から''ソレ''を引き剥がそうと戦闘を止める。


サンレイヤーと一定の距離離れた瞬間、ジードの顔を覆っていた液体は床に落ちて地面に染みを作った。


「これは…」


スライムだ。


しかも本体の”株立”である。





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




水筒がカコン、と音を立てて床に落ちるとジードは息を切らせながら、こちらを睨む。


「退くぞ」


そう言ってジードは二人の男を連れて闇に消えた。


オークも周りをきょろきょろと見渡し、追うように暗闇に溶けていった。



村人たちは何が起きたのかわかっていなかったが、

オークとそれを従える山賊を撃退したのだと喜び合っていた。


柿谷はしっくりとこないかんじではあったものの、人質にされた村長の娘と村娘を解放した。


村長の娘は柿谷をじっとみつめ、

「アレ、は何をしたのですか?」

と聞いてくるが、そのアレとやらが解らない

「ただ水筒を投げただけだよ。」

「その水筒の中から…いえ、なんでもありません」

途中まで話をしておいてちょん切る村長の娘。

「ただ…助けてくれて有難う御座いました」

不意打ちの笑顔に思わず可愛い、と思ってしまうが

「俺は全然何もできていないよ、サンレイヤーの、彼のお陰だよ」






夜が明け、

水筒に開いた穴を指で触っていると

サンレイヤーが水の桶を持ってくる。

「柿谷、コレはどこで?」

「あぁ、コレは俺が来た世界から持ってきたもので水とかを持ち運べるんだよ」

サンレイヤーの持つ桶を受け取り、水筒を横に置き顔を洗う。

「いや、そうじゃなくて。」

サンレイヤーは困惑したように水筒を桶の水に沈める。

コポコポと音を立て水筒に水が溜まっていくが

「穴開いちゃったからもう、持ち歩けないよ」

「…柿谷、気づいていなかったのか。まぁ見ててくれ。」

そういうとサンレイヤーは水筒の中に水が充満したのを確認し、水筒を桶の水から引き揚げた。


「え?」

水筒の穴からだらりと半固体になった水がぶら下がり、桶は空になった。


「これは、スライムだ。」

「スライム?」

「あぁ、実はスライムっていうのは2種類いて自我を持つものと本能で動くものがある。」

「うん」

「意思があって自分で考えて動くのが株立、意思を持たず本能に任せて動くのが株と呼ばれている。コイツは前者だ。」

「うん」

「このスライムっていう魔物は株の存在が個体数の9割強を占めていて、自我のある株立は希少種なんだ。」

「へぇーそうなんだ。じゃあこれ珍しいんだね」

水筒の穴からにょーん、と伸びたぷにぷにをつつく。

すると水筒の中に一気に逃げ込む。

「なんか可愛いな。」

「子供が遊びで踏みつぶしたりするような弱い魔物だが、伝承にはグラトニースライムという国を丸々飲み込んだというものまであるんだ。」

「可能性は無限大ってやつか」

「あぁ、強くはなりにくいが先刻のジードを撤退させる決断に追い込んだのもコイツだ。使い魔にしておくのも悪くはないと思う。」

「使い魔ぁ!?」

「あぁ、契約の印の上でその魔物の欲する物を捧げれば契約できる」


「スライムの欲しそうなもの…」


村中を探し回り、木の実や牧草、薬草の葉っぱ、水と目ぼしいものは何も集まらなかった。

サンレイヤーの書いてくれた印の上に水筒を置き、だるーん、と溢れてきた液体っぽいところに順に落としていった。

木の実も葉っぱも草も水も吸収するにはするのだが、なんだかダメな感じがする。

半分めんどくさくなってきて

「ほらほら、目覚ましにプリスクでも食いな。契約にも目覚めちゃうかも」

なんてプリスクを落としてみたらアラ不思議。印が光って頭に言葉が浮かぶ


≪んまい!≫


「え。成功したのか、コレ。」








「というわけで、ペットになりましたスライムです。」


説明をするのは村長の娘に対してだ。

ライラは安静にしてても目を覚まさないため、

村を出て大きな街に向かうことになった。

最後に村長の娘に今までよくしてもらった礼を伝えたくて


「スライムだったんですね…水魔法か何かかと思ってました。」

「あ、あと今更なんだけど、名前、聞いてもいいかな?」

「あれ、言ってませんでしたっけ?」

「そうなんだよ、なんだかんだで聞けず終いで…」

「ルコ。私はルコといいます。」

「ルコ、ちゃんか。いい名前だね。いつも世話しに来てくれてありがとう」

「いいえ、父にも…言われていますから。」

「いいお嫁さんになりそうだな」

「よく、言われます。」


そんな他愛のない話をしながらふと

「あ、あと俺は紳士だからいいけど。男は皆狼だからあまり無防備な所見せない方がいいよ」

「無防備…ですか?」

ワンピースのスカート部をひらりと持ち上げて足の付け根付近まで持ち上げる。

「あ、そうそうそういうの!ホラ!」

きっとこの子は確信犯である、こうやって反応を見て大人をからかっているのだ。

「私の貧相な身体では誰も気に留めないと思いますが…」

視線を逸らし、

「い、いや十分魅力的だよ。あと3年もしてたらお兄さんも即ノックアウトするくらいね!」

「…、有難う御座います。ではそれまで気を付けますね、狼さん?」

クスッと笑い、耳元で囁く少女に不覚にもドキッとする。


こりゃぁ、将来思いやられるぞ…



村からライラを担ぎ、街道に出る。

村長や村人は見送りに出てきてくれたが、ルコは来なかった。



「ハッいかんいかん。妹にロリコン認定されてしまう!」

将来有望な魔性の少女の幻影を五月蠅い妹で振り払い、

目指すはクムルンランドの中央都市、ランド中央(セントラル)




やっと最初の一悶着を終わらせました。


魔物(オーク)を従えた謎の男ジード。

近々で竜も動き出すわ、魔物も活発化してくるわ。

色々世界が動きそうです。


あと

スライムさんを仲間にして、戦闘力が上がった気分になった主人公。

ステータスとしては1も変動しません。

今のままではただのオブラートに包んだお水なので。


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