靴屋と小人 (もうひとつの昔話26)
ある町に一軒の靴屋がありました。
この靴屋の主人はまじめで働き者でしたが、食べていくのがやっとという貧乏な生活をしておりました。
ある夜のことです。
「もう店を閉めるしかないな」
靴屋が沈んだ顔でうなだれていますと、そこへ小人があらわれてこう言いました。
「だいじょうぶ、これからも店は続けられますよ」
「わたしらが靴を作ってさしあげましょう」
小人は仕事台の上に二人いました。
「おまえたちの気持ちはうれしいが、もう靴の材料となる皮がないんだよ」
靴屋は力なく首を振ってみせました。
「心配しないでください。わたしらが住む森から持ってきた靴が二足ありますので」
「それに帽子もあります」
小人がそう言って大きな箱を取り出します。
「そいつはありがたい」
靴屋はさっそく箱を開けました。
ですが、中には靴も帽子も入っていません。
「なにも入ってないようだが……」
「よくごらんください」
「たしかに入っています」
靴屋がもう一度のぞきこみますと、箱の底に小さなセミが一匹おりました。
「これはツクツクボウシじゃないか」
「いいえ、クツクツボウシです」
「クツが二足と帽子が一つです」
小人たちはうれしそうに言うと、仕事台の上ではねまわりました。
かたや、靴屋は憮然としています。
「気に入ってもらえなかったみたいだな」
「そのようだ」
小人は何やら相談をしていましたが、今度はいきなりパンツをぬぐと、お尻を靴屋に向けておどり始めました。
「いったい何のまねだね?」
靴屋がおどろいて首をひねります。
「クツ、クツですよ」
「これこそがわたしらのクツです」
小人たちはいっそうお尻を振ってみせました。
「それはケツだろ!」
靴屋もさすがにあきれてしまいました。
「すみません。笑って元気になってもらおうと、ついやってしまったことなのです」
「そう、今までのはみんな冗談です」
「いや、ありがたいことだ。おかげでワシも、少し元気が出た気がするよ」
靴屋はやさしく笑ってみせ、それからすぐに顔を曇らせました。
「でもな、ワシは材料の皮を買うどころか、あした食べるパンもないんだ」
「パンもないでっすって?」
「それはあんまりです」
小人たちは再びこそこそと相談を始め、
「パンであればさし上げられます」
「とりあえず明日の朝、わたしらがそれぞれパンを一つずつここに置いておきます」
そう言い残して靴屋の前から姿を消しました。
翌日の朝。
「あいつら……」
靴屋は深いため息をつきました。
仕事台の上にはパンツと手紙があり、手紙にはこう書かれてあったのです。
『パンが二つでパンツ―』