真夏のサウンドオフ⑩
第三回戦は学校の近くの球場で行われたので夏季補修が終わってから皆と一緒に見に行った。
この日は野村の調子が悪く僕たちが到着した時は六回表を終えて四対一と負けていてマズイ雰囲気が漂っていた。
六回裏の対戦相手の攻撃でも野村はコントロールが悪く四球を連発してノーアウト満塁のピンチ。
しかし次のバッターの内野へのファールフライを二年生捕手がベンチに激突しながらの好捕球を見せたり、レフト前に抜ける弾丸ライナーをショートの尾形が横飛びで捕球したり、最後は右中間を抜ける大きなフライを一年生のライトがヘッドスライディングで捕球するといった、僕のような素人でも明らかにファインプレーだと分かる守備が三つも続いて零点に抑える事が出来た。
イニングは七回に入るが、その前にグラウンド整備員が入って土をならし始め暫く休憩時間みたいになる。
グラウンドから目を放し、観客席の吹奏楽部へ目を向けると森村直美がいない事に気が付いた。
休憩を終えた生徒たちが集まってくる中で彼女の席だけがまだ空っぽだったので、攻撃が始まる事を教えに行かなくてはと思って慌てて探しに行った。
トイレが一番怪しいと思って鈴木麻衣子に頼んで一緒に二階のトイレに行ったが居なかったので皆に手分けして探すことを頼んだ。
秋月穂香が居場所を知っていると言って隣の俊介を見る。
俊介が「僕たちが行くより良いだろうね」と訳がわかない事を言うと秋月穂香がこっちだと走り出した。一階に降りて、関係者用の通路入口まで向かった。
秋月穂香が通路に立っている警備員にS高の関係者です。と持っていた書面を提出し僕らは中に入る事が出来た。
「この先の通路を左に曲がった先にいると思うよ」
と俊介が言って、二人は立ち止まり僕に行くように促した。
僕は、恐る恐る通路を進んで行き言われた通路の曲がり角まで来て……僕はそれより先に進む事をためらって立ち止まった。
声が聞こえる。
森村直美と野村の話し声。




