痴漢?三木博文④
「いったい、どういうつもり?」
森村直美の表情はさっきより、更に怒った顔になっていて、言葉もその表情に負けないくらいの剣幕だった。
だけど僕には、そのように怒られる意味が分からない。
「どういうつもりって?」
と、平然とした態度で逆に聞き返す。
「さっきのHRの時のことよ!」
僕が聞いたのは、彼女を憤慨させてしまった行動。
なのに森村直美は時間軸で答えを返す。
一時の感情に流されて、論理的に説明できないのでは、僕にはなんの事で怒っているのか理解できる訳がない。
まあ喧嘩など、感情が高ぶった場合には良くある話。
平然として相手の答えを待つ僕を、森村直美は睨みつけながら、やっとまともに話しはじめた。
「あんたHRの時。いや、私達がお昼休みから帰ってきたときから穂香の胸をエッチな目で見ていたでしょ」
「あっ!」
身体中の汗腺からドッと冷たい汗が噴き出した。確かに本田の言った言葉が気になって、何の気なしにそっちの方に目がいってしまったが、その事を他人から見透かされているとは思ってもいなかった。
”エッチな目”
それは抽象的な表現だけど、妙に僕の心に的確にしかも深く突き刺さるナイフのよう。
その時の僕は、どんな表情をして秋月穂香を見ていたのだろう。
”痴漢、三木博文!”
そんな新聞の見出しや、ネットの中傷記事が頭の中を駆け巡り、周りの生徒からも嫌な目で見られている自分の姿が浮かび、生徒たちは口々に
『やだ!痴漢の三木がいる!』
『注意しないと、見られるわよ!』
と言っている。