真夏のサウンドオフ④
次の瞬間、左の頬に焼ける様な衝撃が走る。
「パシン!」
音が後から追いかけてきた感じがして、メガネが吹っ飛んだ。
「なに!??」
左の頬に手を当ててその熱さを感じて、始めて僕に起こった事が分かった。
今、僕は森村直美に頬を打たれたんだ。
「勝手に決めつけないでくれる!私、答えを出すとは言ったけど告白を受けるなんて言った覚えはないわ!」
言うなり、僕に背を向けた森村直美はドスドスと大股で去って行った。
そのとき、彼女がどのような表情をしていたのかメガネを失った目では確認する事が出来なかったが、おそらく僕は彼女を傷つけてしまう何かマズイ事を言ってしまったのだろうと思い、慌てて落ちたメガネを探した。
メガネを見つけて、それを掛け直し屋上の階段を駆け下りたが彼女の姿はもうどこかに行ってしまっていて見つけられなかった。
僕が言った何かが森村直美を傷つけた事は確かなようだったが、その何かが思い出せない。
吹奏楽部の練習場までそのまま追いかけようかと数歩走ったところで、前から秋月穂香が歩いて来るのが目に入り、赤く腫れている頬を見られたくなくてUターンしてそのまま階段を降りて棋道部の部室へ向かった。
あんなことがあったからなのだろう、今日は選抜メンバー同士の対戦で、ことごとく敗れた。
選抜に入っていない本田にも負けたとき、進藤に少し休憩するように言われ窓にもたれて空を眺めていた。
青く晴れ渡った空に、野球部の金属バットの音と吹奏楽部の奏でる曲が共鳴し合って聞こえてくる。
真夏のナントかと言う曲らしかったが、僕にはその曲の中で森村直美の吹くオーボエの音がまる怒りをぶつけてくるように激しく聞こえた。




