真夏のサウンドオフ②
森村直美が係わっているかもしれない噂を耳にしてからというもの、プリントを後ろの俊介に配るときや、昼食をその俊介と食べるとき、とにかく後ろを振り返るたびに、いつも森村直美に目が行ってしまう。
そんなとき彼女はいつも噂など素知らぬ感じで、チラ見する僕と目が合うことはなかった。
いや、何となくワザと目を合わせないようにしている気さえもした。
ところがその日は、俊介にプリントを配るため後ろを向くと、ジッと僕を見つめている森村直美がいた。
目が合ったというよりズット僕の事を見ていたと言っていいくらい僕を見ていたのだ。
その目は、いつかのバス停で澄ました顔で僕に近付いてきたあの目に似ていた。
放課後に、その森村直美が急に僕の手を掴んで、そのまま小走りに階段を上がり屋上へ連れて行く。
小柄な僕は、いつも通り馬力のある彼女に引かれるまま付いて行くしかない。
晴天の屋上は風が強く、彼女のポニーテールに結んだ髪をたなびかせていた。
森村直美はグラウンドとは反対側の手すりに肘をかけ、少しの間景色を眺めていると急に僕の方に振り向き、僕は文句を言われると思って身構える。
「あー、もう我慢が出来ない!」
やけっぱちのような言い方だった。
何の事かサッパリ分からないで突っ立っている僕に
「噂のこと知っているでしょ!」と言ってきたので
「野村が野球部員全体を引っ張って甲子園を狙うって言う噂のことか」と答ええると彼女は少し怒った口調で
「もう!相変わらず素直じゃないよね!アンタの引っかかっている噂って、それじゃないよね!」
僕は、直ぐに野村と彼女の恋愛がらみの噂のことだと分かったが、それをどう答えて良いか分からなかった。
「いいよ。どうせいつか分かっちゃうんだから言うけど、噂の半分は本当で半分は嘘だからね」
僕は俯いてただ「うん」とだけ答えた。
「アンタにだけは言っておかなくっちゃって決めていたから言うけど、確かに野村君に告白されたのは事実よ」
”えっ!本当だったんだ!”
「でも、甲子園に行ったら彼女になってあげるなんて、ひとことも言っていないから」
「じゃあ何で野村は部員全員を巻き込んで頑張り出したの?」
森村直美の言った回答と、野村の行動に辻褄が合わない事を疑問に思って、思わずそう聞き返してしまった。




