真夏のサウンドオフ
次の日、学校に行ってみるといつもとは何か雰囲気が違うような気がした。
”何かが違う。でも、一体なにが?”
答えは意外に直ぐ出た。
それは、後から入ってきた俊介が言った一言
「今日はヤケに野球部張り切てるなぁ~」
そうだ、野球部の朝連での金属バットの鳴る音や、声を出す回数がいつもとは全く違っている。
いつもは授業前に軽いランニングとキャッチボールが主体で、静かだったのに今日はまるでスポコンドラマみたいに一生懸命やっている感が音だけでも手に取るように分かる。
そして同じ組の野球部員の尾形が、いつもは涼しい顔で始業十分前くらいに入って来ていたのが今日はギリギリの時間に汗だくのまま教室に入ってきた。
昼休みになると、いつもは友達同士でワイワイ騒ぎながら弁当を食べている尾形が、いつの間に弁当を食べたのかと言うくらい早く食べ終わって教室を出て行く。
そんなに慌ててどこへ行くのだろうと思っていると直ぐに金属バットの音と、掛け声が聞えてきた。
”昼連!?”
まるで強豪高校みたいじゃないか。
翌日から野球部の猛練習の噂は全校内に広がった。
「野村の最後の年を精一杯頑張って今年こそ上位進出を目指している」
とか
「野村一人がいくら頑張っても他のものが駄目なので野村が怒ってしまった」
とか
「今年は野村の調子が凄く良いから、他の選手が頑張れば甲子園にいける」
とか様々な噂が立てられたが、その噂の中心として登場するのは全て、あの野村だった。
噂の殆どが野球部自体の成績アップに繋がるものだったが、その中でいつもグラウンドで野村の事を見ている親衛隊たちの噂話が気になった。
それは野村が、ある女子生徒に告白したところ甲子園に出場したら付き合ってあげると言われたのでムキになっている。と言うものだった。
”ある女子生徒”
トイレで盗み聞きした、あのときの女子たちの言葉が思い出された
”この前の土曜日に一緒に帰っている所も私、目撃しちゃったし”
”何回か一緒に帰るところ見た子結構いるよ”
野村が告白したって言うのは、森村直美なのではないだろうか?
確かに彼女なら、甲子園に出場したら、なんて無茶な交換条件も出しそうな気がした。
そして……ひょっとしたら、あの日、バス停に森村直美が残っていたのは、そのことと何か関係があるのではないだろうか。
今まで噂話なんて気にも留めなかったのに、何故かこの噂話には心臓の直ぐ傍まで針を埋め込まれたような切羽詰った何かを感じずにはいられなかった。




