揺れるポニーテール⑬
混雑したバスの中で僕は参考書も広げずに、自転車で先に行った森村直美たちを追い越すのを見てやろうと考えていた。
でも、結局停留所に到着してバスを降りるまで、彼女を乗せた自転車をバスが追い越すことは無くて、残念に思う反面ひょっとしたらどこかに連れ去られたのではないかと言う不安も感じた。
野村が森村直美を乗せて自転車で停留所を出発してから、三十分後に漸くバスは来た。
野村の脚力なら、丁度そのバスに僕乗った辺りでここまで着いてしまうかも知れない。
僕が停留所でバスを降りたとき、辺りはもう夕焼けが出ていて暗くなりかけて、丁度今の僕の気持ちに似て先が見えにくい状態だった。
バス停から家のほうに歩き始めようとしたとき、後ろから名前を呼ばれ驚いて振り返ると十メートルくらい後ろに森村直美がいた。
”何処にいたんだ?!”
不意打ちに一瞬驚く僕とは逆に、森村直美は澄ました顔で、ゆっくりと近づいて来る。
「いつから、そこに居たの?」
「ついさっきから」
「野村に家まで送って貰ったんじゃないの?」
「ここで降ろして貰った」
”なんで?”と聞きたかったが、どこか寂しそうにも見える彼女の表情に何故かその言葉を出させなかった。
森村直美は真っ直ぐに、そしてゆっくりと僕の眼だけを見つめて近づいて来て、僕はその視線が痛くてその場を動けない。
「一緒に返ろうか」と森村直美が言う。
もとより帰る方向は一緒だったが、彼女の言葉に返事を返す事も出来なかった。
森村直美と僕は、肩を並べて歩いた。
もっとも彼女の肩は僕の丁度目の位置になり、正確に言うならば彼女の肩と僕の目の位置が並んで歩いたと言うべきなのかも知れない。
これがあの野村だったら、丁度この逆になり誰から見てもバランスのとれたカップルに見えるのだろうけど、今の僕たちは誰からどう見たってアンバランスで、そのようには見えない。




