罠⑲
相手の攻撃は、予想通り時間を使う攻撃だった。
一点リードして残り時間を考えれば、ここでスリーポイントシュートを決められれば四点の差が付き、我が校の残された最後の攻撃では追いつけない。
仮に一点追加されて、二点差でも我が校はスリーポイントシュートを狙うしか勝ち目はなく、それさえ注意しておけばいい守備側も守りやすいから余計ハードルは高くなる。
折角、山岡沙希が作った勝利の望みも、冷静に考えると”淡い希望”でしかない。
その決定的証拠に、勝利の女神である山岡沙希の動きは、相変わらず足をかばった緩慢な動きでしかない。
パスをまわして時間が経つのを待っているM学園。
我が校の守りは、スリーポイントシュートを警戒した布陣で浅めの守備位置。
普通の一点シュートなら簡単に取れるようにも見える。
いや、逆に一点を早く取ってもらい、早く自分たちの攻撃に移りたい意識が見え見えのようにさえ感じる。
時折、七番の選手がペナルティーエリア内に入り込みトリッキーな動きでファールを誘うけど、一点取られることは警戒していない我が校のディフェンスは”どうぞ取ってください”と言わんばかりに緩慢な動きで、誘いには乗らない。
三度目に七番の選手がペナルティーエリア内に入って来た時、我が校のディフェンスは山岡沙希に代わっていた。
動けない彼女がオフェンスから下がって来ていると言うことは、もう我が校の勝利はないと言うことなのだろうか?
七番の選手は、相手が怪我をしている山岡沙希と言うことで、さっき迄よりも余計からかう様にトリッキーな動きを繰り返す。
理由の中には、さっきスリーポイントシュートを決められた恨みも有るのだろう。
僕がそう思って見ている瞬間、ボールがいつの間にか山岡沙希の手からペナルティーエリアの外にいる選手にパスされる。
その様子は、まるで手品を見るようだった。
ボールを貰った選手は直ぐに相手ゴールに向かい、いち早くゴール前に辿り着いたキャプテンに渡る。
「打てぇー!!!」
本田が大声で叫ぶと同時に、キャプテンの手からボールは離れる。
弧を描いたボールは、そのままゴールに。
スリーポイントシュートだ!




