罠⑱
直ぐにタイムがかかる。
”交代?”
やはり無理してしまったのだろうか?
チームのメンバーに取り囲まれる中、山岡沙希と監督が何かを話していて、僕たちから見たその光景は、無理をしてでも試合終了までコートに立っていたいと懇願しているように思えた。
タイムアウトになりコートに戻ったメンバーの中に、山岡沙希は残っていた。
相変わらず相手側は時間を掛けて、ボールを支配している。
あの7番の選手に抜かれた山岡沙希は慌てて自陣に戻ろうともせず、コートの真ん中にポツンと取り残されていた。
”もう、痛くて動けないんだ……”
そう思うと、目頭が熱くなった。
ゴール前の混戦の中、キャプテンが相手のボールをカットして攻守が逆転する。
敵味方が一斉に、さっき迄とは逆方向に走る。
キャプテンはカットしたボールをドリブルもせずに、捨てるようにボールを誰も居ない前線に放り投げた。
”もう、やけくそか!?”
そう思ってボールを眼で追うと、弧を描いて落ちようとしているボールの落下地点にあたる三ポイントライン際にポツンと一人だけ山岡沙希が立っている。
敵チームの選手はまだそこまで追いついていない。
彼女は落ちてきたボールを取ると、悠々とまるで練習しているようにシュートを放った。
ゆっくりとした軌道を描きボールがネットを揺らす。
三ポイントシュートが決まり、会場は歓喜と悲鳴で揺れるほどの大歓声が沸き起こる。
得点差は一点。
残り時間二十七秒。
攻撃側のチームは、プレーが始まって二十四秒以内にシュートをうたなければボールを守備側に渡すルールがある。
だから、 ここで相手の攻撃を食い止めなければならない。




