罠③
「じゃあ次の週に、やろうよ」
「次の?」
僕が次の週を提案した時に俊介が戸惑った。
「えっ、次の週も進藤駄目なの?」
「次の週は……」
「今度は誰の試合?」
「試合って訳じゃないけど……」
「じゃあ、今度は何なの?」
なかなか答えないので更に聞いていると、隣にいた本田がそっと耳打ちして教えてくれた。
”次の週は穂香さんの誕生日”だと。
成程、これが外せないことくらいは、恋愛に疎い僕にでも直ぐに理解できた。
そこで僕は、新たに提案する。
それは、今度の土曜日にバスケットボールの試合会場で練習すること。
バスケットの試合は体育館の中だから、外なら静かに練習できるだろう。
それにどうせ運動公園内の市立体育館で行われるはずだから、日陰も沢山あるし色んな人も集まる。
僕たち十人くらいが屋外で将棋を指していても、特に問題はないはず。
それに、去年全国高校将棋大会に出場した時に、僕には度胸が足りないと思った。
結局僕は一回も勝てなかったけれど、決して相手より弱かった訳ではない。
試合中に自分が有利だと思う局面は何度もあった。
しかし、そういった有利な局面から、幾度も相手から揺さぶりを掛けられて、対応に追われて混乱させられたり動揺してしまったりして自分の将棋を見失い、その結果が負けに繋がった。
そういう意味では試合会場のザワザワした環境の中で、集中力をいかに保つことが出来るかと言うのも良い練習になるのではないかと思い、それを皆に提案する。
僕の提案に皆賛成してくれ、次の土日とその翌々週行われる準決勝と決勝の四日間を精神統一訓練と言う名目で試合会場の片隅で練習する事になった。




