罠②
そう言われても、まだ何を言っているのか分からないでいると、俊介と榎田さんが困った顔をしていた。
本田が続けて、この前、山岡さん達が僕たちの試合の応援に来てくれただろ!と言うがまだ分からない。
「だから?」
僕の応えに、本田は頭を掻き毟り榎田さんに助けを求める。
少し困った顔をした榎田さんが言うには、進藤君は山岡沙希さんと付き合っているから、応援して貰ったお返しとしてバスケ部の試合の応援に行きたいのだけど、そこに棋道部の行事が重なってしまうと都合が悪いと言う事だった。
「じゃあ進藤抜きで、やれば良いじゃない」
僕がそう応えると今度は俊介が、たとえ有志が集まるにしても部活の行事に部長が出ないわけにはいかないと進藤は思っているから困っているのだと言った。
なるほど、部長って立場は色々と面倒だなと思ったものの、日曜日にすれば問題ないのではないかと話を最初に戻すと、俊介と榎田さんは顔を見合わせてまた困った顔をした。
「分からない奴だなぁもう!」
本田が、また更に頭を掻き毟っていたので、まずいと思った榎田さんが代わって説明してくれる。
「勝つと分かっていても大切な初戦を見届けてあげたいのよ。進藤君は……いいえ私が同じ立場でも、屹度そうするわ」
と優しく言ってくれたあと、俊介も続けて
「もし万が一、土曜日の初戦で負けてしまうと、もう日曜日なんて空けていても何の意味もないだろ」
なんか話を聞いていると、今迄少し羨ましいと思っていた恋愛っていうものが急に面倒に思えてきた。
つまり、進藤は山岡沙希の出場するバスケの試合は応援しに行きたい。
しかし、そこに棋道部の行事が入ると部長としての面子が立たなくなるので困る。
だけど、全国大会に駒を進めた自分の部活の練習には立ち会いたい。
要するに、恋人としての面子と、部長としての面子との両方を天秤の片方ずつに分けられないで困っている。
という訳か。




