部活紹介⑫
進藤と本田は将棋の初心者を相手にして、僕は最後の大会へ向け選抜チームを組みその中で将棋を指している。
一、二年の頃は暇を見つけてはカードゲームをして遊んでいた僕たちも、知らず知らずのうちに最上級生になったことを自覚したんだなと自分たちの行動を振りかえるとしみじみ思う。
季節は、もう五月。
爽やかな春の風が部室を通り抜けて行く。
風と共に各部活動の声や音が運ばれてくる。
榎田さんとの対局が終わり一休みするために窓際にもたれていると、ランニングをする生徒の掛け声やテニスボールのはじかれる音、金属バットでボールを打つ甲高い音など様々な部活動の音が聞こえてくる。
その中にあって、一際目立つ音が吹奏楽部の奏でる音楽だ。
曲名とかは全く分からないけれど、おそらく八月に行われる全国吹奏楽コンクール地区予選会で発表する曲の練習をしているのだろう。
そう思いながら暫く窓際にもたれて聴いていた。
しばらくそうしていると、息抜きをするように進藤がやって来て「俊介、変ったよなぁ」と話しかけられた。
久し振りに部室で長話がしたい気分だったが、その進藤は直ぐに一年生にレスキューを求められそっちに行ってしまう。
視線の向こう側に下級生に囲碁を教えている俊介と、同じく下級生に将棋を教えている進藤が居る。
確かに進藤の言うとおり俊介は変わった。
以前の阿久津俊介は声を掛けられない限り僕たち以外と将棋を指す事も無かったのに、今では熱心に下級生の面倒を見ている。
それに授業中の態度もよくなり、成績の方も以前に比べて大分上がって来ていた。
”やっぱり、秋月穂香との恋が俊介を変えたのかな”
そう思うと、進藤だって自ら部長を引き受けたり、下級生の面倒ばかりでなく部活全体のことを考える様になったが、これも山岡沙紀との出会いが原因のひとつだろう。
『恋は人を良い方向に導く』
その言葉が頭の中で浮かんだ時
「吹奏楽部は大変だなぁ」
進藤と入れ替わりに来た本田が声を掛けてきた。




