オーボエの調べ⑨
授業が終わったあと、僕は集めたプリントを届ける為に職員室に行った。
先生にプリントを届け終ったあと、なんとなく部室に向かう気がせずに、気が付けば中庭で練習している吹奏楽部の演奏をボンヤリと聴いている。
どのくらいの時間そうしていたのだろうか、知らぬ間に演奏しているはずの森村直美に背後から頭を小突かれてはじめて演奏が終わっていることに気が付いた。
「あんた部活に出ないで何やっているのよ!」
「え、ああ職員室にプリントを届けに行って、その帰り……」
「そんなに、歩をやるのが嫌なら断れば良いじゃない」
僕の態度から察したのか、わざわざ痛いところを突いて来る。
それにしても、何故僕が歩をやることを知っているのか分からなかったが、彼女はズバッと今の僕の気持ちを言い当てた。
「別に、そんなんじゃないよ」
気持ちとは反対の嘘を返す。
「小さいあんたが、歩を演じて、みんなが笑う。それならそれで面白いし、あんたにしか出来ない役じゃないの?」
こいつ絶対”S"だ。いちいち嫌な事を言ってきやがる。
「笑いを取る為に、歩をやるわけじゃないし進藤も本田も俊介も、僕にそんなことをさせはしないよ」
心とは裏腹な希望的意見だったが、森村直美には負けたくないので強い意志を込めて言った。
「なるほどね、友達を信じているんだ」
馬鹿にしたような口調で言われたので腹が立って答える。
「当たり前だろ!だから歩を引き受けたんじゃないか」と。
「そう、信じて引き受けたんだ……」
今度は、もったいぶった言い方をしてきたので、ムキになってそうだと念を押す。




