オーボエの調べ⑦
始めてソロで聞くその音色は、笛と言うよりラッパに似ているようで驚いた。
きびきびした音色と優しさのある音色を奏でるその笛は、どこか森村直美の性格にピッタリ合っている。
少し似たような雰囲気の曲を三曲奏でた後、どれが好きかと聞かれたので二番目が良かったと答える。
二番目の曲は、出だしは優しく軽快だが途中から激しく少しざわついた感じになり終盤は又軽快さと優しさが入り混じった雰囲気に戻り最後は眠りに付かせるような優しさで終わり、空を見上げながら聞いていると何となく今日一日に起きた嫌なことなんて洗い流してくれそうな感じがした。
そして、実際に曲を聞く前と後では全然気持ちの居場所が違っていることに驚き、気持ちに余裕が出ると口も軽くなるのか、どうでも良い様なことを聞いてみた。
「よくここで練習しているの?」
「うん、この楽器って結構音が通るから家ではナカナカ練習できないからね」
そう言うと譜面台のノートを閉じて鞄にしまった。
「さあ音楽で気分もリフレッシュしたところで帰って勉強頑張らなくっちゃ!」
片付けながらそう話す森村直美の言葉は彼女自身に言い聞かせているようだったが、何故か本当のことは少し違うのではないかと思った。
つまり自分の練習のために曲を奏でたのではなく嫌なことで腐っている僕のために奏でてくれたのではないのではないか。
しかし、次の瞬間その甘い考えは彼女の行動によって否定される。
「ああ・鞄が重い!聞かせてあげたお礼に途中まで鞄持ってね!」
と、新しい教科書の詰まった重い鞄を僕の目の前に差し出した。
「え!?聞いてくれと頼んだのはそっちのほうだから、お礼はそっちだろ!」
言い返すと
「でも良かったって言ったじゃない・ホラ!」
と、今度は差し出すと言うより鞄を目の前に突き出してきたので否応なしに鞄を受け取ってしまった。
家の前で彼女に鞄を渡すと
「ご苦労様!じゃあね!」
と、足早に自分の家まで駆けて行った。




