大切な気持ちを言葉に⑨
夏の太陽が、木の葉に揺れ、森村直美の顔をイルミネーションのように映し出す。
彼女の美しい姿を失うと思うと、太陽のない暗黒の世界に、彼女を連れ去ってしまいたくなる。
もしも対戦相手が”恋”なら、僕にはそのようなダークな世界が似合うのかもしれない。
だけど、木漏れ日に妖精のように映し出される森村直美には、そのような世界は似合わない。
彼女に似合う世界――。
それは屹度、穢れの無い純白の……そう、シロツメ草の咲く世界。
僕が僕の世界観を広げる中、彼女は僕の頬を撫でる風のように話を続ける。
「その人はね、私がどんなに一緒に居たくても、どんなに好きでも、いつも私を避けるように目の前を通り過ぎて行くの」
僕にとって絶望的な言葉だと思って聞いていた。
今、漸く彼女への自分の気持ちが分かったというのに。
彼女は、そんな僕にお構いなしで話を進める。
「私、背が高いでしょ。凄いコンプレックスだったんだ。だって私の好きなその人は私とは逆で背が低くて、いつもその事にコンプレックスを持っていて、私をそういう目でしか見ないんですもの。それが凄く嫌だったし、悲しかったの」
何だか自分の事を言われているようで、彼女の気持ちが良くわかる気がした。
僕は逆に、背が低いコンプレックスがあって、背の高い森村直美にいつも見下されているのではないかと思っていたから。
「彼、凄く勉強ができたから、私は余り勉強が好きではなかったけど、彼と同じ学校に行きたくて、私も凄く頑張ったわ。それでも彼は、いつまでも自分の回りにまとわりつく私の事が嫌いで、ドンドン離れていこうとするの。でもね、私がついて行けるのは高校まで。その先は、どう頑張ってもついていけそうにない。それでね、私決心したの。大学で離れ離れになっても、悔いだけは残したくないから、最後に私の思いだけは伝えておこうと」
何となく、僕の思いと重なってきて、彼女の言っている事を切ない気持ちで聞いていた。
「そしたらね、さっきその彼が私の名前を呼んでくれたの」
彼女の目から涙が零れ落ちるのが見えた。
辛い片思いだったんだな……って正直、彼女の好きな相手の鈍感さ加減に腹が立った。
「そして、最後に大好きだ!って言ってくれたの。……幸せだった」
”大好きだ?”
えっ、それってひょっとして僕のこと?




