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大切な気持ちを言葉に⑦

 彼女が言うには演奏を終えて、僕たちを外で待っていたが、ホールから学生たちが出てきた頃、正門に掲げてあった「全国高校将棋選手権大会」の看板が外されてしまうのではないかと思って、その写真を撮りに行っていたのだという。


 そして、その写真を撮影している最中に急に僕が飛び出してきて、そのままバスを追いかけて行ったと話してくれた。


 話し終わると彼女は道端に座り込んでいる僕に手を差し伸べた。


 僕はその手を掴み立ち上がる。


 彼女は僕が立ち上がってもその手を離さないで、歩道の奥にある公園に行こうと引いた。


 公園のベンチには、さっきまで将棋大会に出場していた学生たちが、将棋盤を広げて今日の反省点などを復習しているグループもいた。


 空いているベンチに座ると彼女は「勝った?」とニッコリ笑った。


 僕は彼女の演奏する「四つのロマンス」の曲と、隣の俊介が僕を信頼していることが分かり、心に余裕ができて勝てたことを正直に伝える。


 彼女は僕の話を終始微笑みながら聞いていたが、一体全体どうしてバスを追いかけようとしたのか聞いてきた。


 僕は正門を出たときに出発するバスが目に入り、その後部座席に制服にポニーテールの髪をまとめた女子がいることに気がついたからだと答えた。


 すると彼女は、高校生の女子の中で特に夏服になると制服も似たようなもので、ポニーテールにしている子も多い中で、なぜ間違ったのか聞いてきた。


 答えに困った僕は正直に「焦っていた」と答えると「何を焦っていたのか」また聞いてくる。


 僕は心の中で”君が遠くに行ってしまうのではないかと……”そう思ったが、言葉には出さなかった。


 そして、いつものように彼女の話術に誘導されて自分の気持ちを全部喋らされてしまっている事に気がつき黙った。


 僕が黙っていて、彼女も特にその先のことは聞いてこないでニコニコしていて、何だかいつもと調子が違って気になったので


「なんでニコニコしてるんだよ、気味の悪い」


 と少し悪態をついたが、それにも動じずに彼女はニコニコを続けていた。


 そして……


「バスの彼女に、なんて言ったの?」


 と僕の顔を覗き込むように聞いてきた。


 僕の額から汗がドッと溢れた。


 一度咳払いして


「勘違いしていたんだから仕方ないだろう」


 と答えると


「だから、なんて言ったのか教えて。私、よく聞き取れなかったの」


「んー……。だから……な、名前を呼んだ」


「だれの、なまえ」


「えっと……き、君の名前」

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