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真夏のサウンドオフ㉕

「じゃあ、なぜ?」


 何故好きな人がいるのに付き合う素振りをみせたのか、と言う事を聞きたかったが、そこまでは言えなかった。


「別に嫌いなわけじゃなかったし、それよりも中学高校と同じ六年間を過ごした仲間として、立派な大人になれるきっかけが作れたらって思ったの。決勝戦で勝つ事が彼にとって必ずしもプラスにはならないと思った。あのように無様にもがき苦しむことで、今迄の自分を壊して彼はもっともっと大きな人間に成長するわ。グラウンドで彼は、その戦いをしていたんだと思う。かわいそうだけど私は、そういう目で見てた」


 確かに、野村は野球も上手いし、その野球をしながらでも勉強もできた。

 

 弱いチームで一人だけ目だって親衛隊みたいな女子にも囲まれていて、屹度大学に入ってからは野球もやめてしまいキャンパス生活を楽しんで、卒業したら安穏と父親が経営する工場に勤めてスポーツカーを乗り回して――そんな事が容易に想像できる野村を僕は嫌いだと感じていた。


 マウンドで野村は過去の自分と、これからの自分と戦っていたんだ。


 そしてどちらが勝ったかは、試合後半の立ち直ったピッチングからある程度は想像できるが、本当のところはこれからの野村を見れば直ぐ分かる。


”しかし――”


 森村直美の好きな人って誰だ?


 尾形なのか……?


 僕の考えが、そこに辿り着いたとき、彼女は持っていたバックを開いた。


 なんだろうと覗き込むと、それは花火だった。


「じゃ~ん。ご期待に応えまして花火です!」


 なにも期待なんかしていないよと僕が言うと、まあいいからいいからと言って、何かの景品で貰った子供用の花火を広げ出した。


「ほら、火の係り!」


 ボーっと見ていた僕に彼女はライターを渡して、そう言う。


 なんで僕が?


 ライターなんて使った事がないし。


 そう不満そうに渡されたライターを眺めていると、火は男の仕事だと勝手に決め付けていた。


 渋々花火の傍にライターをもって行き、火を着けようとするが、使った事がないのと夕方の涼しい風に邪魔されてナカナカ火が着かない。


「もう、ドンくさいなぁ」


 そう言いながら彼女は手に持った花火をライターに近づけてくる。


 その瞬間に花火に火がついた。


 七色の火花が、僕の手元でパッと咲く。


「あちちっ!」


 熱かったかどうか良く分からなかったが、僕は急に着いた火に驚いて反射的に手を引き、勢いあまってライターを投げ飛ばしてしまう。


 手から離れたライターが、大きな弧を描いて、川の中にポチャリと落ちた。

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