7話
「ただいま」
返事はない…。分かってる事なのに。
玄関を入ってすぐにある部屋の襖を開ける。
「お婆ちゃん。ただいま」
お婆ちゃんは真っ暗な部屋でテレビをつけてニュースを観ていたけど、私が来たことが分かると私の方を向いて微笑んだ。
「あー。こんばんはー。今日は遅かったのねぇ。さぁ、どうぞどうぞ。お茶でも飲んで行って?」
「はい…ありがとうございます。」
「明日ねー?孫が来てくれるんですよー。暫く合ってなかったから楽しみでねぇー」
「そうなんですか…」
台所に移動したお婆ちゃんは楽しそうにしている。明日、孫が来てくれるらしい…。
そしてお客さん用の茶碗で私にお茶を入れて出してくれた…。
「はいどうぞー。あと、お茶菓子も良かったらどうぞー?これね、ご近所の人から貰ったお饅頭なのよー」
そう言ってお婆ちゃんは私に土の付いたジャガイモを3つお皿に乗せて出してくれた。
「…ありがとうございます」
「そんな、いいのよー。遠慮しないで?」
「…頂きます」
見ての通り私のお婆ちゃんは認知症だ。
去年、くも膜下出血になった事が原因で認知症になってしまった。あんなにしっかりしていた人がたった一度の病気のせいでこんなことになってしまうなんて今でも信じられない。
私には両親がいない。私が小さいときに二人とも交通事故で亡くなってしまった。それ以来、私はお婆ちゃんに育てられてきた。
「私の孫ね?結衣って言うんだけど、すごくいい子なのよー!とっても優しくてねぇ?おばぁちゃん、おばぁちゃんって、いつも私の後をくっついてまわってるの」
いつも話すのは私の事ばかり。
それは私の事をヘルパーさんと間違えているからだと思う。
私はここにいるのに…私の事が分からないのは仕方がない事だと思うけど、やっぱり辛い。
今は夏休みだからバイトの合間とは言えお婆ちゃんの面倒を見れる時間がいつもより長いけど、二学期が始まったら…。
一学期ですら出席日数がギリギリだったのに、このまま、学校とバイトとお婆ちゃんの面倒を見ること。この三つを続けるのは難しいと思う。お婆ちゃんを施設に入れるにもお金がかかるし、介護保険だって充分な額とは言えない。だから私がバイトをするしかない。だとすれば学校を辞めてバイトとお婆ちゃんの介護をすることを最近考え始めている。先生には一学期が終わる頃に伝えてある。
「お茶のお代わりいかが?」
お婆ちゃんはまだ中身が入っている茶碗にさらにお茶を注ぎ足す。
「あ…お婆ちゃん、大丈夫だよ?もう。」
「そうかい?」
「いっぱい飲んだからもう、大丈夫…」
「じゃあ、そろそろ帰りますね…?」
「おや、もう帰るのかい?」
「はい。お邪魔しました…」
「またおいでね?いつでも待ってるからねぇー?」
「どうも…。」
私は台所を出てから玄関には行かずに、階段を登り自分の部屋に戻って鞄を置いてから下着と着替えとバスタオルを持って風呂場へ行く。シャワーじゃなくて、たまには湯船に浸かりたいなぁ。でも一人じゃお湯が勿体ないし我慢しなきゃ。
もしお婆ちゃんが元気だったら…いや、考えるのはやめよう。こんなことを考えたってお婆ちゃんが治るわけじゃないし。成るようにしかならないのが人生だってお婆ちゃんがよく言ってたし。
…でも何かに希望を見いだすのは悪い事じゃないはず。
正しく生きてれば良いことがある。
これを信じて、もう少しだけ踏ん張ってみようかな!