1話
あっちぃ…
夏真っ盛りって感じだ。
蝉の超音波のような耳障りな鳴き声とこのジリジリと焼かれる様な日差しがさらに拍車をかけて夏感を強くしている気がする。
家からたった500メートルほど先のスーパーに行くのにも命懸けな気がしている今日この頃。
もうすでに汗がヤバイ。さっきシャワーに入ったばっかりだってのに、買い物を頼まれるなんてツイてない。
まぁ、もう少しで着くからいいか。スーパーは間違いなくクーラーが効いていて涼しいし。
って言うかチャリで来りゃ良かったか…。
いや、スーパーは目と鼻の先だしここからまた家に戻るのは流石にキツいな。よし、このまま行こう。それにしてもいつも来るスーパーがこんなに遠く感じるなんて、去年の夏以来だな。去年も暑かったけど今年はその数倍暑く感じる…。
やっと着いた。
あー涼しいー!もうここから出たくねぇ…。
でも買い物をしなくては。
メモを見ながら書かれたものをカゴに入れていく。
以下、メモに書かれていた物
食パン(6枚切り)
ポカリ(大きいやつ)
納豆
夢と希望
以上。
食パンとポカリと納豆をカゴに入れてリストの次の物に目を落とす。…ん?なんだこれ?夢と希望…?
なんだ、また妹のいたずら書きか…。
まぁいいや。レジいこ。
レジへ行く時、俺は決まって同じ店員さんがいるレジに行く。
高校生くらいのアルバイトと思われる女の子で、見た目は地味で眼鏡をかけていて物凄く大人しそうな印象で顔はそんなに悪くない。先に言うと別にナンパしようとかそう言うんじゃない。実はこの店員さん、商品が少ないと袋に商品を入れて渡してくれるのだ。前に他のレジに行ったらカゴに移したまま渡されたので、それ以降この店員さんがいる時は彼女のレジに行く事にしている。
今日は…あ、いたいた。
「いらっしゃいませ。商品の方お預かりします…。レジ袋の方はご利用ですか?」
「あ、はい。おねがいしゃっす」
「はい…。」
相変わらずこの子大人しそうな印象だなぁ。
彼氏とかいるんかな?
名札を見ると「秋山」と書かれている。
そんなことを思っている間に彼女は慣れた手つきで、品物を袋に入れてくれた。
いつも悪いなぁ。一応お礼言っとくか。今後もお世話になるわけだし。
「いつも袋に入れてもらっちゃってすみませんー」
「え…?あ、いえ…こちらこそすみません。あの…余計なことをしてしまって…」
「あ、全然すよ。大丈夫。いや寧ろありがたいす」
「あっ…ありがとうございます…1000円お預かりします。」
「はーい」
「502円のお返し…あっ!ごっ、ごめんなさい!」
お釣りとレシートを受け取ろうとしたとき秋山さんの指が俺の掌に触れた。
…ちょっと嬉しいかも。
「あー、大丈夫大丈夫ー。全然気にしてないから」
「すみません…」
「本当に大丈夫っすから。じゃー」
「ありがとうございました…」
そんなに気にしなくても良いのになぁ。
さーて帰るかなー。
それにしても、外に出たくねぇ…。
そう思いながら俺は店の自動ドアの前に立っていた。
この自動ドアを一枚隔てた先は灼熱地獄よろしく、気象庁が毎日のように、「命に関わる暑さ」と注意喚起をするくらいの猛暑の世界。
まぁ、行くしかないよな…。
意を決して俺は店を出たのだった。