表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/20

リビング

私はとうとうリビングへと入っていった。

リビングにはデスクが二つあり、パソコンが二台置いてあった。

部屋の隅の方にはたくさんの洗濯物が積まれていた。

足の踏み場もない状態だった。


恐る恐る中へ入っていく私。


そんな私を見つけた彼女は大喜びで彼を引っ張ってきた。


「だいぶ慣れたみたいだな」


彼は言って大きな手のひらで撫でてくれた。

一時間ほど彼が遊んでくれて、少し眠くなったのだが、どこへ寝ていいものかわからない。


仕方なく部屋の隅の積まれた衣服の上に陣取った。

「みーちゃん、洗濯物の上で寝てる。可愛いなぁ。」


「可愛いけど、そこで毎回寝かすわけにもいかないから、明日にでも洗濯物たたんでおいてくれよ」


「うーん、わかったぁ……」


彼女はあからさまにイヤな態度をとってみせた。


ダイニングの時から思っていたんだけれど、彼女は掃除が苦手らしい。

ダイニングも段ボールでいっぱいだったし、この部屋もそう。

とにかく散らかっている。

私が突入したダンジョンはとりあえず片付けられていったけれど、まだ掃除が足りないようだ。

だからこそダンジョンが出来上がっているわけである。


彼女は私を撫でながらニコニコしていた。


この笑顔は守らなきゃ……

私の中でそんな思いが込み上げてきた。


「ぅにゃーん」


私は撫でられることに喜びの返事をした。

彼女の手は温かく、優しいもので、遠い昔の何かを思い出させるような、そんな感じで……。


気がついたら寝ていた。


まだ暗い時間である。寝室もまだ電気がついていない。


そんなときふいに私に話しかけてくるものがいた。


長い取っ手がついたスリムなそのやろうは言った。


「うち、汚いでしょう?」


「む……汚いと言えば汚いかな……」


遠慮がちに発言する。まだまだ私は新入りだ。発言には気を付けなければならない。余計な敵を増やさないためにも。

「彼女がね、病気で、あまり掃除とか活発にできないらしいんだ」


「病気……?」


「なんでも、元気がなくなる病気らしくて、ほら、デスクの上。薬のゴミがたくさんあるだろう?」


「ホントだ」


「だから私も出番が少なくて困るんですよね……」


「君の名前は?」


「私の名前は掃除機。名の通り掃除をする機械です」


「私の名前はみー。みーちゃんと呼ばれているみ。今後よろしくだみ」


挨拶を交わすと掃除機は微笑んだ(ように見えた)。


このうちは汚い理由はそれだったのか。

私になにができるだろうか……


「この部屋には彼女が作り出したダンジョンが六つある。みーちゃんならそれを突破出来るかもしれない」


「私が?そういえばしゃもじさんにも同じことを言われたなぁ」


「あぁ、しゃもじさんね。あの親切な」


「掃除機はしゃもじさんを知っているのか?」


「はい、いつも忙しく働いていてうらやましいくらいです」


「そうなんだ……」


私は悩んだ。彼女のためになにができるだろうか?

答えは一つ、ダンジョンを攻略することだった。

ダンジョンを攻略と言っても、容易ではないことが想像できる。

しかし、掃除機が味方についてくれるなら、きっとやれないことはないだろう。

掃除機を頼ることにしよう。





彼女の朝は遅い。

朝と言うが、ほぼ夕方六時過ぎだ。


そこから二時か三時まで、それが彼女の生活リズムのようだ。


そりゃそんな短い時間にしか起きていなければ掃除もできないだろう。しかも夜から深夜にかけての時間だから、掃除機をかける時間も微妙になる。



彼女は薬を大量に飲んでいた。

それは医者からきちんと処方された薬のようで、危険は少ないようだが、見ていてかわいそうになる。


ここ三日ほどリビングで過ごしているが、彼女は夕方六時に起きて台所でご飯の支度を始める。

そのあと八時ごろに彼が帰ってきてご飯の時間になるようだ。


薬を飲む彼女はとてもだるそうで、飲まないほうがいいんじゃないかとさえ思える。

しかし私はただの一匹の猫だ。

彼女にその意図を伝える手段をもたない。


せめて掃除をしてほしいダンジョンを攻略すること、やはりこれに尽きるだろうと思ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ