ダイニング、その先。
私はその日も気持ちよくダイニングで眠った。
彼女が何度となく撫でにやってくる。
私は
「ぐるにゃ」
と返事をすると、されるがままになった。
翌日起きると再びしゃもじのところへ。段ボールが少し減っていた。
今回は迷わず行けたので、しっぽをピンと伸ばして上機嫌だった。
「しゃもじさん、次のダンジョンはどこだみ?」
「次は脱衣場だ。ダイニングから続いて向こうに隙間があるだろう?あそこだ。」
「わかった、行ってみる。」
昼間の脱衣場は何もなく、洗濯機がドーンと置いてあるだけで特に不審な点はなかった。
洗濯機の脇には風呂用の長靴が置いてあった。風呂場の出口には足ふきマットが置いてあった。
私はマットに座る。
なんだか気持ちがいいマットだ。
ふかふかしていて、とても気持ちがいい。
私はそこでとある行動をとると、ダイニングに戻って毛繕いを始めた。
すると、脱衣場の方からなにやら声が聞こえてくる。
耳を澄ませるとさっきのマットが文句を言っていた。
ぶつぶつ……
でも私は気にもとめなかった。ご飯を食べ、優雅に過ごしているときに、それは起こった。
「みーちゃんがお漏らしした!」
それは彼女の悲痛な叫びであった。
彼を呼ぶと、彼女は
「こういう時ってどうしたらいいんだろう?」
不安そうに聞いている。
「現場じゃないから、今怒ってもなにもかわらないからな……今度から気を付けよう。」
彼は優しく彼女に言うと、マットをひょいっと上げて洗濯機に放り込んだ。
そのあとは塩素で消毒と匂い消しをされ、その場はそこで収まった。
私はなんだか悪いことをしたらしい。
わからないけど、彼女が困っている姿は見たくない。
私は彼女の足元をぐるぐると回ると
「ぐるにゃ」
と鳴いた。
「ほら、みーちゃんが心配してるぞ」
「うん……みーちゃん、ありがと」
彼女の手が私の背中に触れ、ふわふわと撫でられ私はとても幸せだと思った。
◇
しゃもじの所へ行き、現状報告をした。
「みーのすけ、それは万事オッケーだな。」
「え……でも彼女困ってたし。」
「風呂マットは普段から偉そうな口ばかり叩いてろくなものじゃないんだ。だからやっつけてくれたことに感謝するよ。」
「ってことは今回の敵は足ふきマットってこと?」
「そうとも!みーのすけがやっつけてくれたことでダイニングにも平和が訪れるな!」
「そんなもんかな……」といいかけて言葉を飲み込んだ。
翌日も違うマットが置いてあった。
マットの上に乗るとマットが声をあらげてきた。
「ようよう、新入り!お前今なにしてんのかわかってんのか?」
「マットに乗ってるだけだけど……」
「昨日うちのお仲間をひどい目に遭わせたって本当かよ?」
「ひどい目に……お漏らしのことかな?」
「そうだ、それだ!貴様何様のつもりなんだ?!俺たちマットはな、毎晩ご主人様の水を受け止める大事な仕事をしてるんだぜ?それをお漏らしだなんて、生意気だ!」
マットは私に覆い被さってきた。
私は必死にそれを避けた。
みーちゃんパァンチ!
テシテシテシ
みーちゃんキーック
ケリケリケリ
それでも覆い被さってくるマットには、さらにみーちゃん噛みつきをお見舞いしてやった。
「こんなもの、たいしたダメージに……うっ」
最後にみーちゃんお漏らしを追加してやった。
「く……くさいぞっ……完敗だ……」
そしてマットは大人しくなった。
彼女がやって来てまた悲鳴をあげた。
「みーちゃんがまたお漏らしをしてる!!」
彼がやって来て言った。
「じゃあ、ここにマットを敷くのは使うときだけにしよう。こうして干しておけば乾かせるし。」
と、彼が洗濯機の横のスペースにマットを干すことを提案した。
彼女からは、おしっこしないようにと言われ、ぶしぶしをたくさんもらった。
幸せな一日だった。