デスクの下
よく寝た朝は気持ちがいい。
昨日は缶と対決をして、間接的ながらも勝利をおさめた。間接的というのは、最後は彼女が袋に入れ直してしまったため、勝負にならなかったのだ。
闘ったおかげで今日はゆっくり眠れた。
私は少しのびをすると再びしゃもじの元へ行くべく段ボールの山を避けて行った。
どうしたことだろう。今日はしゃもじがいない。
「しゃもじさーん!!」
私はありったけの声で叫んだ。
すると彼女がやって来て、
「みーちゃん、なぁに?ご飯かな?」
と言って身体を撫でてきた。
少しくすぐったいのを避けた私は彼女の手に、少し噛みついた。
「痛っ!やっぱり野生だから慣れないのかな……ダイニングからこっちに入ってこないし……」
「まだ慣れてないんだろ」
彼が応じる。
私はごめんなさい……と少し小さく鳴いた。
だって、身体を撫でられるのなんて初めてで、気持ちいいけどくすぐったくて、どうしたらいいかわからなかったのだ。
とりあえず噛むと彼女が痛がることがわかって、私は気を付けようと思った。
「しゃもじさん……」
彼女の手にしゃもじは握られていた。
「もうすぐ仕事が終わるからそのまま待ってな」
としゃもじは言うと、ご飯茶碗にご飯をよそって定位置に戻ってきた。
私は見上げたまま話を続ける。
「昨日のダンジョンは……」
「あぁ、お前の勝ちだ、みーのすけ。」
「私はみーのすけではなくてみーちゃんですけど……」
「どっちでもいいだろう?それより次のダンジョンだ。」
「うん、それを聞きたくて。」
「次のダンジョンは東側のデスクの下だ。なにがあるのかは俺もわからない。」
「デスク……あのデスクですね?」
「そうだ……あの、箱で暗くなった奥になにかあるらしい」
「じゃあ、今日はそこに潜ってみます。」
「充分に気を付けるんだぞ。」
しゃもじに見送られて、再び段ボールを避けて歩き出した。
デスクの横には私のご飯が置かれている。
私はとりあえず腹が減っては戦もできぬ、と思い餌を食べた。
まぐろ味のカリカリ。私にとってはこの上ない極上のご飯。
私は水をテチテチと飲むと、ダンジョンを睨んだ。
ダンジョンはデスクの下に箱が置かれていて、裏側へ回れるようだ。
きっとそこがダンジョンのコアになっているはず。
私はデスクの下の箱を避けながら潜って行った。
デスクの下はむっとした暑さで蒸れていた。
ヒタヒタと進むその足元がおかしい。
妙にふわふわする。
突然目の前が塞がれた。
黒く見える厚手のなにかが行く手を阻む。
私は一旦引くと、勢いをつけて頭を突っ込んだ。
くけけけ……
不気味な笑いが響く。
「何者?!」
と聞くと伏せ気味に構えた。
「俺か?俺は革の切れ端だ。ここは通さないぜ!」
「革の切れ端?なんでこんなところに?!」
「彼女が俺を使って物を作るのさ。最も、ここ二年くらいは触られてもいないが。」
「彼女の大事なもの……か。ならば手出しはできないか……」
革は余裕ぶって言う。
「この箱の中は全部革さ!俺たちは出番待ちさ!」
「そこを通してくれないかな?その奥に用事があるんだ。」
「行きたくば、俺を倒してから行くがいい!」
私はため息をつくと、再び伏せ気味に構えた。
「そういうなら、闘ってやる!!」
私は革に噛みついた。
しかし、革は頑丈で、私にはちぎることさえ敵わなかった。
みーちゃんキックをお見舞いした。
ケリケリケリケリ……
パンチも繰り広げた。
パシパシパシパシ……
しかし、革は破けなかった。
仕方がないのでずるりと引っ張って床に落とした。
「下に落とすとは考えたものだ。私の負けだ。進むがいい!」
革は潔く負けを認めた。
私はさらに奥へと足を進めた……
キラキラと光るなにかがある。チカチカ点滅している。
そこからは管が延びている。
私がちょっと触ると管は取れてしまった。
彼女がダイニングにやって来ていた。
「みーちゃん、モデムはいじっちゃだめだよ。」
彼女はそう言うと箱をずらしてモデムの線を繋ぎ直した。
「革も、もう要らないから捨てなきゃだね。」
彼女は箱を引っ張り出して、足元に落ちている革たちも回収した。
デスクの下はきれいになった。
私は彼女が撫でてくれるのをほんのり温かい気持ちで受け入れたのだった。
おもちゃとして革の切れ端をもらった。いくら噛んでも噛みきれなくて楽しいものだった。