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ダイニング

今日は彼からとても美味しいものをもらった。

「ぶしぶし」と言うらしい。

シャクシャクした歯ごたえがとてもいい感じだった。


私は玄関の手前にバリケードを張られた。逃げていかないようにらしい。

そんなことしなくても逃げなんてしないのに。


あれから玄関は見違えるほどきれいになった。

靴の匂いが嗅げないな、と思ったが、バリケードがあり、どのみちそちらへ行くことはなかった。


ダイニングは広い。でもところ狭しとものがつんであったりした。


私は一通り家をチェックすることにした。


寝室には洗濯したであろう服が畳の上にところ狭しと散乱している。


リビングは畳の上に敷物が敷かれ、洋風な感じをイメージさせた。とにかく物が多すぎて隠れ家はたくさんありすぎるほどだけども、掃除がちゃんとできているのかな?と、私は不思議に思った。


私のご飯はダイニングに用意された。

陶器の可愛い器に、たくさんのカリカリが入れられた。


「好きな時に食べていいのよ」


と彼女は言った。

水もおしゃれな陶器の入れ物にたっぷり注がれた。

私は脇目もふらずご飯にありついた。


思えば去年の夏は食べるものがなくて、一生懸命に狩りをしてカブトムシ一匹を丁寧に丁寧に食べたものだ。

それが今年はどうだろう。いい匂いのするカリカリとたくさんのお水、これだけでも充分なのに、さらに


「ぶしぶしも食べるかな?」


と、彼女がかつおぶしを入れてくれた。

私は速攻で食べ終わり、


「んにゃう」


と鳴いた。ごちそうさまと言いたかったのだが、どうやら人間には伝わらないらしい。


「あら、みーちゃんもう食べちゃったの?」


彼女が心配そうにやって来た。

残りわずかになったカリカリを見て、また足してくれた。

しかし私はお腹いっぱいでお腹を這いずりそうなほど食べていたので遠慮した。


「もうお腹いっぱいなんだね」


と彼女が私の頭を撫でようとした……が、頭を撫でられるのが嫌いな私は彼女の手をとり、思い切り噛んだ。



「みーちゃん、痛いよ、ダメだよ!!」


彼女が悲鳴をあげる。私は思わずくわえた手を放した。

今思えば強く噛みすぎだったなと思えたのだが、この当時はそれどころではなかった。





私がここに来て一週間ほど経った頃、彼女は買い物にいってくるね、と言い、クーラーはつけたまま外へ出ていってしまった。


クーラーをつけていても、私はまだダイニングより先へ進むことが躊躇われていたので、ダイニングに一人ポツンと居ることになった。


これはチャンスとばかりにダイニングのあちこちを覗いて見た。


すると、四角い大きなやつが文句を言ってきた。


「よぉ、新入りー。お前ちょっと調子に乗りすぎじゃねぇか?」


四角い白いやつは長い棒をつけていて、なんだかメモリがいっぱい書いてあった。大きくて重そうで、とても敵いそうにないモノだった。

その後ろにあるなんだかわからない平たい台も調子を合わせて絡んできた。

まるでヤクザの因縁つけのような……ヤクザってよくわからないけど、そんな感じで絡まれた。


「こいつ、小さいですね」


台が言う。


その時、別の場所からこんな声も聞こえてきた。


「新人が来たらすぐ絡むんだから、タチが悪いったらありゃしねぇ」


声の方に近づくと黒い縦長の箱がため息をついていた。


「あのう、あちらの方はどなたですか?」

黒い縦長の箱に聞いてみると、


「裁断機とアイロン台さ。自分達が場所をいっぱいとるもんだから、偉いと勘違いしてるのさ」


「誰が勘違いだって?俺はこの部屋で一番でかい……」


「ね、言ったでしょ?」


「あなたのお名前は?」


黒い縦長の箱に聞いた。

「俺?俺はゴミ箱さ。人間のいらなくなったものを一時的にここにためてる……おっと、中身は漁らないで!!危険がたくさんだからね」


私はゴミ箱に礼を言うと、さっきの水飲み場へ戻った。


後ろから裁断機とアイロン台が冷やかしてくる。


反応したら負けだ……と思いつつ、水を飲んでいたが、


「こんなやつを拾ってきて、彼女は焼きがまわったにちげぇねぇ」


という言葉にはさすがにカチンと来た。


刹那、猫パンチを繰り出す。


「ああん?生意気な。俺様に逆らおうってのかい?どうなっても知らないぜ」


ゴミ箱が言う。


「君、それに挟まれたら腕がちぎれちまう!早く避けるんだ!!」


裁断機は裁断棒を振り上げかかってきた。


私はとっさに猫キックをかました。


猫キックは見事に裁断機の下部に当たり、スローモーションで裁断機が倒れてくるのが見えた。


その時、ガチャガチャと音がして彼女が帰ってきたのだ。


倒れている裁断機と溢れんばかりにはいっていたはずの水がこぼれ、あと数センチちがえば水飲みの器が壊れていたであろう状態で彼女を出迎えるはめになった。


入ってきて一番に彼女は私の身体を心配した。


「どこにも怪我はない?大丈夫?」


私は大丈夫だ、とみゃ、と鳴いた。


裁断機は危ないのでという理由で押し入れの奥深くに片付けられてしまった。


一人になったアイロン台は媚びるようにして私のことを誉めちぎった。


「私もあの裁断機には参っててねー。なんてったってあの重さでしょう?逆らえなくてね、怖かったのよ」


私はアイロン台のことを無視してゴミ箱と顔を見合せ笑いあったのだった。

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