彼女と私と
それからというもの、彼女は毎朝と夕方になると
「みーちゃん」
と私を呼び寄せ、美味しいご飯をたっぷりくれた。
私は散歩の時以外はその開けられるドアから一番近い車の下で彼女を待った。
その日は男性も一緒にいた。
ご飯をもらうと、彼は私を抱いて白い部屋へ連れていった。
彼女も一緒にである。
そこで突然雨を浴びせられ、なんだかいい匂いのする泡で身体を撫でられた。
最初のうちはおとなしくしていたものの、泡を流す時になって我慢できずに私は鳴いた。
「もう少しだから我慢だよ。みーちゃんは偉いね」
と彼が声をかけてきた。
でも私は嫌だった。無理やり雨に打たれるなんて、とんでもない災難だ。
嫌がって彼の手を噛むと、そこから血がにじんだ。それでも彼は怒らずに、私をフワフワな布で撫で始めた。
私は身体を隅々まで舐めてきれいにし、やがて身体は乾いていき、いつもの通りの私になった。
暑かったはずが、少しだけ涼しくなった。
そして私はまた外に出された。
彼女が追いかけて出てきて私の頭を撫でながら言った。
「一緒に住もうか」
私はその意味をよくわからなかったが、彼女がいいということは全ていいことだと思っていたので、
「ぐるにゃ」
とだけ返事をしてねぐらへ帰った。
そんな日が、私の両手で数えても足りないくらいになったとき、彼が私のトイレやご飯入れ、お水入れを買ってきた。
ちょうど私は夕飯をごちそうになっていたところで、彼女の喜びようを見て嬉しくなってしまった。
彼女は私を抱きしめると、
「これからずっと一緒だからね」
と言った。
私はよく意味がわからなかったが、
「ぐるにゃ」
とだけ返事をした。
その日は夜になっても扉が開かなかった。
リビングらしきところにみんなで集まり、なんだかわからない機械のようなもので彼は探し物をしているようだった。
彼女は私を撫でながら遊んでくれており、私は幸せだな、と初めて思った。
「避妊手術は6ヶ月くらいからでも大丈夫だって」
避妊とはなにかわからなかったが、私に関することだということはわかった。
彼女は手を止め、彼の話をよく聞いていた。
その日のうちに私はいわゆるお漏らしをした。
それはあの機械の横辺りで、彼が
「パソコンにかからなくてよかった」
と安堵していたことを覚えている。
そこでお漏らしをした後は、なにか入れ物に砂が入ったところにさっき拭いたティッシュを置かれ、勘の良かった私は、そこがトイレなんだということをすぐに理解した。
その日もあの、雨のでる細長いホース……シャワーで身体を洗われた。
今回は念入りに、あしの間まで洗われて、私はまた鳴いた。
彼女は別の部屋にいて、ゴーッという恐ろしい機械を手に持っていた。
私は、縮みあがり、物影に隠れてやり過ごした。
「ドライヤーはやっぱり怖いみたいなの」
と彼女は彼に言った。
冗談じゃない。あんな恐ろしいものに誰が近づくかっていうんだ!!
彼女は少し困ったように濡れた私の首を撫で、言った。
「夏場だから風邪はひかないと思うんだけどね……」
風邪なんて産まれてこのかたひいたことなんかない。私はそれを彼女に伝えたくて短く
「ぐるにゃ」
と鳴いた。
その日から毎日、夢のような日々を過ごした。いつでもある美味しいご飯、そして新鮮な水。きれいなトイレ。
彼女は私に餌をくれるたびに私を撫でた。それはとても心地よいもので、いつまでもそうしていたいな、と私は思った。