我が家はダンジョン
私は猫である。
名前はまだない。
ご飯を探していつものパトロール……
そして運命的な出会いをした。
私は一定の距離をとって彼女の様子を見る。
彼女は私を見て、なにか思ったらしく、いそいそとアパートに入っていった。
部屋に入った彼女は何か袋を抱えてきた。
ご飯かもしれない。
私は一歩ずつ慎重に彼女へ近づいた。
彼女が持っていたのは食パンだった。なんだ、食パンか。と思ったが、意外にお腹が空いていたので耳を残して白い部分だけを食べた。
すると彼女はなにを思ったか、私をひょいと持ち上げ、扉の中へいれてくれた。
そして白い飲み物と、いい匂いのする温かいご飯をくれた。
私はそれにがっついている間、身体を好きな様に触らせた。お腹を撫でられるのはお断りしたが。
そのあと、彼女はまた私をひょいと持ち上げ、奥の部屋へ行った。
そこには男が寝ていた。
私はその足元へひょいと置かれ、戸惑った。
男が気づくのは早かった。
寝ぼけ眼で私を見ると、
「部屋にあげたらダメじゃない」
と優しく言った。
彼女は
「ついてきちゃったの」
と嘘をついた。
それから私はまた外に出され、近くの車の下に隠れていた。
そのまま夜が明け、お腹が空いてきた頃に彼女は扉を開いた。
「みーちゃん?」
どうやら私を探しているらしい。
私は「にゃ」と一言鳴くと彼女の足元へすりよった。
彼女はまた私を部屋にあげ、美味しそうなご飯をくれた。白い飲み物もくれた。
この美味しいご飯は何だろうと問う前に彼女が言った。
「みーちゃんはかつおぶしが好きなのかな?」
これはかつおぶしというものなんだね。
私は今までこんなに美味しいものを食べたことはなかったよ。
そう伝えたかったが、伝える術を私は知らなかった。
彼女はご飯が終わると、
「アパートで猫を飼っちゃいけないから、ごめんね」
と言い、私をまた外にだした。
私は近くの車の下で待機していた。
彼女は一体どうしてここまでしてくれるんだろう?そして私はなぜ彼女を待っているのだろう?
と、考えながら過ごした。
夕方になり、また扉が開く。
「みーちゃん?」
どうやら私に名前がついたらしい。
みーちゃん、と。
私は呼ばれるがままに餌をもらいに出ていく。
――野良猫とは大変な生き物である。
毎日の食事が摂れないことは当たり前で、こと、私のようにトロい猫はカナブンだとか、そういう栄養価の低いものしか採れなかった。
雀を狙ったことがあるが――、発進のタイミングを逃してしまい、毎度毎度逃げられてしまう以前に、こちらが狙っていることも知らずに飛んでいってしまった。
雨風をしのぐのも大変だった。
特に雷が大嫌いな私にとって、梅雨は地獄だった。ねぐらにしていた家の縁側の下で耳をふさいで怯えるしかなかった。
ご飯を食べれない日が何日も続いた。とてもお腹がすいたけれど、雨の中動いている昆虫も動物もいなくて、めまいがした。
そしてやってきた初めての夏はとても暑く、カブトムシはたくさん採れたけれど、食べたいお肉は食べれずにただ過ごした。
そんなとき、彼女に出会った。
私はいい加減お腹がすいていたし、人間というものをさほど怖いものだとは思っていなかった。
なぜなら、ときおりねぐらにしていた家の縁側の下に手が伸びてきて、美味しいものを与えてくれたからだ。
だから私は生きてきた。
人間に餌をもらう生活も悪くないなと思い始めていたそんなとき、彼女に出会ったのだ。
初めて出会ったとき、彼女はタバコを吸っていた。
タバコというものをよく知りはしないけれど、残飯を漁るとき注意していたものの一つである。
これを口にすると口の中に苦い、なんとも言い難い味が広がり次に吐き気とめまいと頭痛が訪れて、せっかく食べたものも全て吐いてしまった。危険なものだった。
そんな彼女に若干緊張しながらも、私は何かもらえるかもしれないという期待感から彼女に近づいていった。