内緒の初デート
「出てくるの早かったかな……」
アパートの駐車場、ぽつりと立つのは私だけ。
駐車場に何台か車は止まってるけど、人が出てくる気配はしてこない。
そりゃ一緒のアパートに住んでいるわけだし、すれ違ったら挨拶はするけど、駐車場で待ってるところ見られるのはちょっと照れくさい。
ましてや速水さんを待ってるわけだし、これからデートなんだって思われるも…いやちょっとどころかかなり照れくさいぞ!?
そんなアパートの人はともかく、すぐ近くの一軒家のおばさんもお喋りなんだよね。理由はもう忘れてしまったけど、以前捕まったことがあるのを私は思い出す。
ともあれまだ速水さんが来るには早いので、
そのまま駐車場横に小さく設置されている長細いプランターの塀へ私は軽く腰かけた。
―――午前10時10分。いつもなら絶賛まだベッドのうえ。
でも今日は8時には起きて、お化粧して髪を巻き巻きして。早くに家から出て、おまけに身に着けてる服は上下ともにお気に入りの服。
トップスは長袖の、柔らかい印象を与えてくれるホワイト。スカートは、スウェードの淡いオレンジ色。
生足には自信がないけど膝丈だから我慢できてる。
初デート…だもん。
ちょっと冒険しないと、ね。
汚れがついていないか服装を再確認しながら、空いている手を埋めるようにポチッと電源ボタンを押して携帯を開いた。
「まだ1分しか経ってない。」
ばかだな私、全然動いていない時計の数字にくすっと笑ってしまう。
それだけ楽しみってことだよね。
『今から家出るからね。』
10時前に速水さんから来ていた文字を何気なしにもう一度目にいれた。
しかし、速水さんって私服、どんな感じなんだろうな。会社じゃスーツだから全然見当もつかない。唯一見たのは部屋着だっけ。
彼が熱を出して、私がお見舞いに行ったときに見た緩い服の。
うーん、益々緊張してきちゃった。
まぁ、別に男の人の服とかそんなしらないし、何だっていんだけど。
それこそ、服着てさえいてくれたら……って、それは無頓着すぎ?
と、それから1分もたたないうちに車のエンジン音が駐車場の入り口から大きく聞こえてきた。
わ!速水さん来ちゃった!
すぐに私は立ち上がって、若干汚れているだろうお尻をパンパンはらう。
彼はそのまま私の部屋の駐車スペースに車を進めた。慌てて私は携帯をカバンにしまい、運転席に駆け寄る。
すぐに目がぱちっとあったので反射的にぺこっと私は会釈して、一方の速水さんはなぜかくすっと笑って、
「こっち」
人差し指で助手席を指した。
「あ、はい!」
言われた通りに駆け足でぐるりと車の後方から回り、そのまま助手席のドアを私は開ける。
「おはよ。」
若干眠そうながらも挨拶してくれる速水さん。
「お、はようございます。」
かくいう私は緊張口調。
うー、やばい。挨拶してるだけってのにばかみたいに緊張してる。
心臓ばくばくいってるんだけど!
「晴れててよかったね。」
続けて言葉を紡いでくれている速水さんにまたうまいこと返事が返せない。
「これ飲む?」
「へ?」
若干びくつかせて彼に目線を合わせると、速水さんはコンビニで買ったと思われるアイスコーヒーを私に差し出してきた。
「ん。」
有無を言わさず彼は私の手中にそれを収めてくる。
飲んでいいよってことなんだろうけど、なんだろうけど……
「飲まないの?」
「あ、いや……」
絶賛どぎまぎ中なんだってば、速水さん!
いきなり間接はハードル高いんだよー!
けど、ここで飲まないのは可笑しいよね。
「…いただきます。」
速水さんのばか。
私はストローに軽く口をつけた。
「おいし?」
彼の問いにこくんと頷く。
でも。
味がわからないってのが本音のところ。
どきどきして舌が麻痺っちゃってるよ。
そんな私に気づかずに、速水さんはシフトレバーをパーキングからドライブへ切り替えた。そして、私のアパートがある小道から大通りへと車を進めていく。
「こっから映画までどんぐらいかかるか分かる?」
大通りに繰り出してすぐの所で彼が口を開いた。
「うーん、30分…いや45分?」
いっつも映画を見に行くときは、電車で行くからよく分からない。
「映画の上映時間とか何時ですか?」
速水さんが調べるって携帯で連絡くれたから、諸々全部任せっきりなんだよね。
たぶん、11時台の上映の奴を見るようにしているのだろうけど…
「11時45分。」
うん、やっぱり11時台のだった。
それにしたって、映画を見始めるのがその時間として、たぶん長くても2時間半ぐらいで映画終わっちゃうよね?
そうしたら14時ぐらいでしょ、それからどうするんだろう、速水さん。
お昼をその後取るとしても、時間は結構あるし、買い物…とか?夕飯とかも、一緒に食べるのかな。
しまった、ちゃんと私もいろいろ考えてくるんだった。
洋服選びに気をとられ過ぎてたよ…!
じろっと私は何となくそう思った流れで自分の服を見返す―――わざわざこの日のために服買ってよかった。
服着てるだけで十分なのに、こんな速水さん私服おしゃれなんだもん…、下手な服だと横に並ぶのでさえ後ろめたく感じちゃうかも。
さりげなく運転している彼の横顔を私は見つめる。
白の春ニット、黒のアンクルパンツ、茶色のクラッチバック。あと……
「なんで速水さん、眼鏡かけてるんですか。」
「え?」
ツンと私は彼のそれの端の方を人差し指でつついて見せた。
「あぁ、言ってなかったっけ?
俺、目悪いんだよちょっとだけ。」
速水さんはズレを直すように眼鏡に手を軽くそえる。
「言ってないですよ。」
「ごめんごめん。」
から笑いを彼は浮かべる。目の前の信号も赤になり、丁度車もそこで止まった。
「市田は視力良いの?」
「悪くはないですね。」
伊達めがねなら1個持ってるけど。確か、めがねにいっとき憧れて買ったんだっけや。
「眼鏡すき?」
「へ?」
めがね?
「どっちが好きなのかなって。
コンタクトとめがね。」
速水さんはじろっと私に視線を合わせる。
「そ、そんなこと…」
言われたって、困っちゃうよ。
両方、だって似合ってんだもん、速水さん――。
「で、どっち?」
ぐいっと彼はまた詰め寄ってくる。
「…あ」
「あ?」
「あお!青です、信号!」
彼の左肩を二つほど叩いて前を指さした。
前の車がのろのろと動き出したのを横目で彼も確認すると、仕方なさそうに前に向き直って車を発進させる。
「信号に助けられてよかったね。」
「何の話ですか?」
とぼけちゃってとつぶやく彼を半分無視して、明後日の方向を私は向いた。
……車多いな。
そうして窓から外の景色を眺めていると、通勤ラッシュは当に終わっているはずなのに車が多いことに気づく。
会社へ向かう時にバスが通ってくれる道とは反対のせいか、大通りだってのにあまり見慣れていない。
この時間帯に出かける人多いんだ。
じゃぁ、映画も混んでいるのかな―――って待って。
それだとやばくない?会社の人にばったり偶然出くわすとかあっても……。
「市田?」
「はい!」
急に声をかけてきた速水さんに、一瞬びくつく私の肩。
「なんか面白いもんでも見えたの?
そんな外見て。」
「あぁ、いえ特に理由はないんですけど…」
車が多いなぁって。
「そっか。」
心配してくれている風の速水さんに、こくんと私は頷いて見せる。
「もうちょっとかかるから良いこしててね。」
良い子って……
「……良いこしてますよ。」
まぁ大丈夫か。こんな調子の速水さんだったら、うまいことその場を助けてくれるだろうから。
ともあれそれ以上子ども扱いされないようにと、映画があるデパートに着くまで私は助手席でおとなしくしていた。
「着きました?」
「着いたね。」
それから30分ほど経って、目的地のデパートへたどり着く。
3階建てで、最上階に映画館が併設されているここいらじゃ結構盛況しているお店。案の定というべきか、お店を365度囲うように大きく設置されている駐車場もなかなか埋まっていた。
「立体駐車場に止めよっか。」
平面はないかもとつぶやく速水さんの言葉に同意し、平面駐車場から抜け出していく。
けどこの調子だと映画館もかなりこんでいるはずだし、映画のチケット大丈夫かな?
別段用意してないけど……
と思った矢先、
「大丈夫、チケット事前に頼んでるから。」
そう何も言わず速水さんは答えてくれたんだからやっぱりすごい。
「市田は単純だからね。」
なんて彼は別にすごいごとじゃないよなんて言ってるけど、絶対速水さんしかできないことだと思う。
なんで速水さんこんなに私が考えてること分かるんだろうな。やっぱ速水さんの透視ってすごいや。下手したら占い師とかできるんじゃないかな。
彼はそんな風に私が考えているとは知らず、同じく3階仕立てになっている立体駐車場へと入った。
ぐるぐるぐるぐる、車が円を描いて上へと動いていく。
「3階にとめれたらいいけど、多いかな。」
なんて速水さんは駐車の心配してるってのに、
「目、回っちゃいそうですね。」
くすっと私は呑気にそんなこと言ってるもんだから、
「無邪気だなぁ。」
彼にこつんと頭を軽く小突かれる。
「ごめんなさい。」
まぁ速水さんも私の言葉に笑ってくれてるんだけど。
結局お店の入り口に近いとは言えないまでも、3階に停めることができ私たちは車を降りる。
「映画まで30分以上あるから、適当にぶらぶらしよっか。」
「はい。」
パタパタと彼の隣へ私は駆け寄った。
立体駐車場から、お店へとつながっている外の通路を抜けて店内へと足を進めていく。
「人、多いな。」
「そうですね。」
店の中へ入ると一気に活気だって耳がやかましくなった。
子供連れの家族をメインとして騒ぐ声が収まることはない。たぶんゲームコーナーがちょっといったところにあるから、それも関係してるんだろうけど。
「服とか見る?」
「あ、あぁはい。」
ぶらぶらしてるのもなんなので、私はこくんと頷いた。
1つ下に階を降りた感じ、とりあえずアパレルブランドのテナントさんが多く並ぶ一角へ速水さんは行こうとしてるみたい。
「買い物すき?」
「服見るのはすきかもです。」
「そっか。」
入りたいところあったら遠慮せずいいなよと、速水さんは優しく告げてくれた。
でも男の人とこんな風にショッピングなんて、最近めっきりしてなかったからどうしたらいいのか分からない。
というか要するに、お店に入ったとしても速水さんに気を遣っちゃってゆっくり見れないんだよね、!
女物なんて、速水さんは見るものないだろうから…!
だから、結局まだ2店目だというのに
「見るものないですよね?
私大丈夫ですから、速水さんみたいものないですか?」
そういって、早々に彼に音をあげてしまった。
自分の買い物に付き合ってもらうより、速水さんのショッピングに付き合う方が私にとっても楽しいはずだよ。彼の口から落ちてくるはずの「分かった」という言葉を、大人しく私は待つ。
ところが、
「市田、これ似合いそう。」
「え?」
「これ。」
私の言葉を無視して、速水さんは私に一枚のワンピースを差し出してきた。
夏用の新商品らしく、色は真っ黒ながら半袖で胸元からひざ下にまで伸びる生地すべてに花柄の透け感がある。中にキャミソールさえ着れば、これ一枚でコーディネイトが完成しそうだった。
「あんま好きじゃない?
こういうデザイン。」
「いえ、好きですけど、」
とっても可愛いし。
けどちょっと気になることがあって。
「……速水さん、こういうのが好みなんですか?」
「ん?」
「いえ、こういうの好きなのかなって、好きなんですか?」
「ん?」
ちょ、ちょっとなんでうんって言って認めてくんないのよ!
「他、なんか気になるものあった?」
またしても速水さんはそう言って、するりと答えを誤魔化す。
「うーん、特にないかな。」
もういいんだ。
速水さんがそうだって言ってくれなくても、速水さんの好みだって勝手に思っておくもんね。
「えっと、サイズはMでいんだよね?」
ん、サイズ?
「はい、そうですけど、」
私身長ないですから……ってなんでサイズ?
……え、まさか?
「これ今日プレゼントね。」
目線がぶつかったタイミングで、ポンと彼は私の頭に手を置いた。
「え!ちょ!速水さん!?」
待ってと声をあげる私をまたも無視して、勝手に彼はそそくさとレジへ服を持っていく。
慌てて背を追ったが、彼の手中に収められているワンピースにようやく手が届くというところで、
「お預かりしますね。」
と、今度は店員さんに取られてしまった。
「速水さん、ちょっと!」
「市田うるさい。」
しーっと口元に人差し指を軽く当てて、スマートにクラッチバックから財布を取り出す彼。
既に店員さんがお会計をしてくれているわけだし、他のお客さんもいる手前、それ以上わーわー騒ぐわけにもいかない。
うー、勝手なんだから!
大体なんのプレゼントなんですよ!
私、誕生日でもないし、今日はデートってだけでしょうがー!
「ありがとうございました。」
結局何もできず、そのうえご丁寧にお店入り口まで見送られた私たち。
「はい、どうぞ。」
紙袋に包まれたそれを店員さんから受け取ると、速水さんは私に渡してくれた。
「……ありがとうございます。」
言いたいことはケッコウあるけど、とりあえずはとりあえずはそう、彼に甘えてこぼしておく。
けど、
「速水さん?」
3秒後には耐えきれず、すぐに何のプレゼントなんですかと追及してしまった。
それが正しいのかそうじゃないのか分かんないけど。
うーん、本当どっちが可愛気があるんだろう、今みたいに謙遜するのと、素直にありがとうって受け取るの。
「まーまー。」
肝心の彼はから返事してるけど。
おまけに今度はどこへ向かおうとしているのか足の方向は通路右。
でも、なんだかしてもらってばっかりというか、今だってリードもしてもらってるわけ、だし。
素直にありがとうとは、とてもじゃないけどすぐに言えないよ…。
彼の横一歩後ろを歩きながら、私の頭はだんだん下がっていく。
「市田。」
「はい?」
ぱっと私は頭を彼にあげた。
「次のデートとは言わないから、いつか着てるとこ見せてね。」
くすっと緩む彼の目、またもポンと撫でられる私の頭。
なんでだろうな、さっきまでうだうだ考えてたってのに、
「……しょうがないな。」
そうやって速水さんに優しくされると、可愛くない返事でさえ平気でできちゃうのは。
買って貰ったばかりの服の袋を掴んでいる左手にも自然と力がこもっっちゃうし。
私って単純すぎ…?
「今度は速水さんにプレゼントさせてくださいね。」
「俺はいーよ。」
「なんでですか。」
自分だけプレゼントしてくれといてそれはないです。
「はいはい。」
くすくす私たちは歩きながら笑いあう。
「あ、市田。」
「へ?」
と、突然グイッと私の体が彼の腕に丸め込まれて、その勢いで私は一歩前へ。
「あ、すみませんっ。」
人にでもぶつかりそうだったのかな。
支えてくれた彼の腕が離れていく―――最後、不自然に彼は私の右手に彼のそれを沿わせながら…
って、これって。
「……」
「どうかした?市田?」
「な、なんでも!」
さっきとは別の理由で私の頭が下がる。
「手、つないでるだけなんだけど。」
くすっと速水さんは私の反応を楽しみながら、意地悪く笑った。
「もう映画の方行く?いつの間にか時間経ってる。」
そのまま携帯で時間を軽く確認する速水さん。
「あっ、じゃぁ…」
こくこくと私は何度か頷く、
「市田ちゃん、まだ照れてんの?」
「う、うるさいっ!」
そう耳にぼそっとからかいを落としてきた速水さんをとりあえず無視して。
「向こうですよね?」
「うん、だね。」
再び3階へとあがり、エスカレーターからシアターまでは距離にして200メートルぐらい。
ってそれはちょっと言い過ぎかもだけど、ここから一番離れたところにあるのは確か。
雑貨屋さん、コスメなども3階にちらほら見えるなか、そんなショップの前を通り過ぎてメイン通路をひたすら歩いていく。
周りががやがやしているせいか、速水さんは特に話しかけてこない。
ただ、手はぎゅっとつながったまま―――速水さんの手、冷たいや。
何も言ってこないのをいいことに、何気なくきゅっと私は握り返した。
すると、
あっ。
それに反応するように、速水さんもぎゅって力をこめてくれる。
ふふふっ、意識的にじゃないと思うけどなんか嬉しいな。
えーい、もう1回握っちゃえ。
またまた私はぎゅって手に力を籠める。
と、
「何にやにやしてんの?」
「うへ!」
いつの間に顔を見られてたのか、速水さんが急に私に声をかけてきた。
「なに、その反応。」
続けてくすくすと笑い始める。
「だ、だって!」
急に話しかけてくるから!
あわあわしながら言葉を返した私を見て、ますます笑う彼。
「うへだって。」
「も、もう!」
すぐからかって!
「はいはい。手、つなげて嬉しんだよね。」
きゅっとまた速水さんは私の手を握りしめる。
そうしたらおとなしくなるって速水さんは分かってるみたい。
「うー。」
いつの間に私の扱い上手になったんだよ。
それでも若干頬が緩んでしまっているのを自分でも感じながら、きゅっとまた手を握る。
ついにお目当てのシアターに着き、映画を見ている間はさすがに手を離していたが、2人で1個頼んだポップコーンをとるときにはたまに手が触れて、繋いでいる時よりも逆にどきどきした。
2時間弱の上映が終わると、シアター内がパッと明るくなり他のお客さんにつられて私たちも席を立つ。
「面白かったね!」
「やばい、アクションが!」
そう周りから聞こえてくる通り、トランスファーマー1の番外編という位置づけにそぐわず、本編に負けず劣らずのアクションシーンばかり。
そのせいか、他のシアターから出てくるお客さんに比べても若干私たちのシアター内のお客さんは興奮ぎみだ―――私も当然その中の一人。
まぁ速水さんはシアターから抜けてすぐ、心配そうに
「思いっきりアクションものだったけど、大丈夫だった?」
って気にかけてくれたけれどね。
でも全然心配の必要なしなんだよね!
むしろ大興奮だし、何ならDVD化されたら買ってしまいそうなぐらい。
「また最新作公開されたら二人で来ましょうね。」
ポップコーンの器と、ジュースを片づけながら速水さんに笑いかける。
「あぁ広告で流れた奴?」
私はこくんと頷く。
実は上映前の広告で最新作についての軽い映像が流れていたんだ。どうやらあと2、3回ほどでトランスファーファーマーは完全に終わってしまうみたいだけれど。
「ああいうのって、3、4年は待たされるよ?」
「気長に待ちましょう!」
同じく片づけを終えた速水さんが近づき、私の手を握ってくる。
「ふふふっ。」
「にやけすぎ。」
これが映画マジックなんだろうか。
変に意地っ張りな私が、その時はやけに気持ちを表情に出せてしまった。
それこそ、「幸せだなぁ」ってぽろっと口に出しそうになっちゃうぐらい。
やっぱり私って単純だ。
「この後どうする?
今、14時だけどお腹減った?」
「うーん、速水さんはどうですか?」
ポップコーンだけでお腹がおきるわけないと思うけれど、グーグーお腹が鳴っちゃうぐらい空いてる感じもしていない。
そういえば、どっかで聞いたことがある。
好きな人の前じゃ食欲がなくなっちゃうって。
「俺もあんまりだけど、どっかでコーヒーとりあえず飲もっか。
ちょっと座りたいよね?」
きょろきょろと彼はあたりを見渡す。
速水さんもあんまりだってと少しだけ嬉しくなりつつ、私達はフードチェーンが多い1階へと降りることにした。
「あ。」
と、あることを私は思い出す。
「どうかした?」
「タバコ大丈夫ですか?」
今日、1回も休憩取ってないですけど…
「ありがと。
でも、仕事中も我慢してるしそんぐらい大丈夫だから。」
彼はそう言って歩くのを止めない。
けどやっぱり。
「私トイレ行きたいので、速水さんもどうぞ!」
これからずっと付き合っていくわけだから、こういうことも自然体でやっていけたらなって思う。
好きな人のことなんだもん、
タバコの一つぐらいって考えの人もいるだろうけど、そういう小さいところも私は気遣いたいな。
「市田、嘘つくのへたくそ。」
「嘘じゃないですー。」
トイレ行っときたいなって少しは思ってたもん。
そりゃまだ我慢できるけど。
「はいはい。お言葉に甘えるね、じゃぁ。」
しょうがないやつだななんて顔で、変な笑顔を浮かべつつも、ポンと彼は私の頭を優しく撫でた。
「今、14時だけどお腹減った?」
「うーん、速水さんはどうですか?」
ポップコーンだけでお腹がおきるわけないと思うけれど、グーグーお腹が鳴っちゃうぐらい空いてる感じもしていない。
そういえば、どっかで聞いたことがある。
好きな人の前じゃ食欲がなくなっちゃうって。
もしかして…そのせいなのかな。
「俺もあんまりだけど、まぁどっかでコーヒーとりあえず飲もうか。」
きょろきょろと彼はあたりを見渡す。
「はい。」
彼の言葉に若干嬉しくなりつつ、私達は歩き始めた。
「あ。」
と、あることを私は思い出す。
「どうかした?」
「タバコ大丈夫ですか?」
今日、1回も休憩取ってないですけど…
「ありがと。でも、仕事中も我慢してるしそんぐらい大丈夫だから。」
優しく彼は私を諭す。
けどやっぱり。
「私トイレ行きたいので、速水さんもどうぞ!」
これからずっと付き合っていくわけだから、こういうことも自然体でやっていけたらなって私は思う。
好きな人のことなんだもん、タバコの一つぐらいって考えの人もいるだろうけど、そういう小さいところも私は気遣いたいな。全部…さ。
「市田、嘘つくのへたくそ。」
「嘘じゃないですー。」
トイレ行っときたいなって少しは思ってたもん。少しだけど。
「はいはい。お言葉に甘えるね、じゃぁ。」
しょうがないやつだなと変な笑顔を浮かべつつも、ポンと彼は私の頭を優しく撫でた。
そうして私はトイレついでにお化粧直し。
速水さんは上映前トイレを済ませたから一服だけしてくるみたいで、トイレをすぐでたところにあるベンチで集合を約束した。
その後一角にあるモダンなカフェに立ち寄り、しばらく談笑。
コーヒーと付け合わせに頼んだ今何かと流行りのパンケーキが美味しかったこともあってか、映画の感想から話は始まり結局1時間以上お店に滞在していた。
「空いててよかったですよね、本当。」
夕方に近い時間帯だからなんだろうなぁ。
お昼の時間とか、混んでる時間帯じゃとてもじゃないけどゆっくり食事取れないもんね。
「じゃぁそろそろ出ようか。」
「はい。」
彼と私は立ち上がる。
そこでまたても速水さんにしてやられてしまった。(御食事代のハナシ)
お腹をみたしてからも、そこから雑貨屋さん、本屋さん、おもちゃ屋さんなどいろんなお店を見て回る。
雑貨屋さんだと速水さんが今欲しいらしい観葉植物を見て。
本屋さんだと彼が今読みたいと思っている本、おもちゃさんだと子供時代よく遊んでいたものを教えてもらったりした。
「次、あそこ入ってみる?」
「はい。」
速水さんの掛け声でまた新たなお店を開拓し始める私たち。
今度入った雑貨屋さんは主にキッチングッズを扱っていた。
それにしたってなーんか、心配して損しちゃったなぁ。
デート始まる前は、映画見ている間大丈夫かなとか見た後何するんだろうとか不安でいっぱいだったけど。今は、楽しいに尽きるし、まだまだ一緒にいれたらなぁ…って思ってるし。
ちらっと彼の横顔を盗み見る。
もっともっと速水さんのこと、知りたいな。
いっぱいいっぱい今日みたいにおしゃべりして、一緒に過ごして。
それに、手だけじゃなくて―――もっともっと触れたい、かも。
例えばぎゅーってして、好きだよって言葉を彼の口からきいて。
「市田?何かいいものでもあったの?
俺の顔じーっと見てきて。」
「あっ!いえいえいえいえ!」
やばいやばい!
ほしいモノどころか、もっと不埒な理由で速水さんの顔を見てたなんて言えない。
「何でも言えよ。」
優しく笑って、彼はシンプルなマグカップを手に取ってみせた。
こくんと頷いて、私は別の商品を手に取る。
速水さんも何か欲しいものがあったら言ってくれないかなぁ。
さっきからそうやって手に取ってみるだけで、特にほしそうにしないし。
普段お世話になってるんだから、お返ししたいんだけど。
まぁそう伝えたって、あの速水さんが簡単にプレゼントさせてくれるわけないか……。
私はコトンと手に取ったコップを棚に戻した。
「市田?」
「はい。」
すると丁度良く他の棚を見ていた速水さんが傍に寄ってくる。
速水さんも一通り見終わったのかな。
やっぱりめぼしいものはなかったらしく、何も手に持ってないけど。
「もうそろそろ店出る?」
「そうですね。」
私も全体的にここのお店の商品見終わったし……
「次、どこ入りますか?」
あとどこ見てないっけ。あそこは行ったし、あそこも―――。
「あ、違うくて。」
「ん?」
「気づかなかったけどもう18時らしんだよ。」
「え?」
あそこと顎をしゃくった速水さんと同じところに視線を向けると、お店の物と察しがつく時計の短針が確かに6を指している。
いつの間にそんな時間経ってたんだろう。
映画を見終わってから時間が経つのがとっても早い。
「遅くなるといけないから。」
帰りも混むだろうし。
「あ、そですね。」
店出るってこのデパート自体をってことだったんだ。
あはは勘違いしちゃった、ちょっと…恥ずかしい。
私たちはそのまま駐車場へと戻り始める。
「ごめんな、大したことできなかったな。」
「ややや!すっごく楽しかったですよ!とっても!」
映画自体もだけど、いろんなとこ二人で回れてまた速水さんのことを知れた気がした。
逆に、私がどんな人かってことも知ってもらえたと思うし、、
まぁでも、
「正直なこと言うと…ちょっと私緊張してたんですけどね。」
昨日も興奮しちゃってなかなか寝れなかったぐらい。
「速水さんは…」
そんなことなかったろうけど、さ。
そこだけは伝えず私はまるっと飲み込む―――けど、
「大丈夫、丸わかりだったから。」
くすっと笑って速水さんはポンと私の頭を撫でた。
「…またからかってます?」
「よくわかったね。」
「もう!」
そう言って振り上げた手は、うまくごめんごめんと彼に交わされる。
「まぁ俺も緊張してたけどね。」
「え?」
「何でもない。」
「ちょ、速水さん!」
聞き返そうとしたが、丁度よく車へとついてしまいすぐに速水さんは乗り込んでしまった。
聞きなおすタイミング失っちゃった。
私もおとなしく助手席へと座る。
「市田疲れてない?」
「私は大丈夫ですけど、速水さんは?」
「そんなやわじゃないよ。」
でもありがと、と彼はつづけた。
「じゃぁ車出すね。」
「あっ……。」
「ん、どうかした?」
「や、なんでも。
…混んでないといいですね。」
微笑みを落として私はシートベルトを締める。
やっぱり帰っちゃうんだよね。
いざデートが終わるとなると、なんか急に寂しくなってきちゃった。
カチャンとベルトがハマる音が車内に響く。
「速水さん?
エンジンかけないんです…」
「市田、お腹減ってる?」
「え?」
お腹?
「肉、すし、パスタ。」
ぱっと彼は中の指3本を立てらかす。
「まだ俺も一緒にいたいんだけど。」
+
「今日は本当にありがとうございました。」
アパートの駐車場。
助手席から降り、運転手側に回った私は彼にこの日のお礼を告げる。
「夕食も結局ごちそうになってしまって……」
そう同時に、一銭も出させてくれなかったレジでの光景も脳裏に思い浮かべていた。
―――速水さんが提示してくれた、3つの中から私が選んだのはパスタ。
お寿司も最近食べていなかったから特にその2つで悩んだのだけれど、それでもパスタを選んだのは、先日テレビで見たパスタ特集が関係しているのかもしれない。まぁパスタだけじゃなくて、ピザとか豪華なデザートも頼んじゃったんだけど…。それも、速水さんがいつの間にか会計しててここでもおごりという……。
「おいしかったんだろ?」
「そりゃもう!」
パスタはミートが濃厚で!ピザはチーズがとろんと!
「ならそれだけで俺は満足。」
私を納得させるように速水さんは優しく微笑んでくる。
けど……
「あの、でもやっぱりすっごくご馳走になっちゃったんで、今からでもお代を払いたいんですけど…」
「帰るぞ、そしたら。」
全開にしている運転手席の窓を速水さんは一段あげた。
まるで意地でもお金は受け取りたくないとばかりに。
「もう…」
分かりましたから、窓開けてくださいと仕方がなしに頼む。
満足そうに彼はうなずいた。
「疲れた?」
「うーん、どうでしょう。
緊張疲れしちゃったかもです。」
「なんだよ、緊張疲れって。」
ふふふっと私は笑う。
「速水さん、家についたら連絡くださいね。
心配ですから。」
「ちゃんと帰れるって。」
「分かんないですよ。事故とか事故とか事故とか。」
「事故しかないじゃんか。」
「だって事故でしょう―よ。」
今度は彼がハハハっと笑った。
「じゃぁ…そろそろ帰ろうかな。」
21時近いし。
「そですね、本当ありがとうございました。」
「ん、分かったから。もうありがとう聞き飽きたよ。」
そう笑いながら告げてきた彼の冗談に「えー?」と思わず破顔してしまった。
「じゃぁ市田、ちょっとこっち。」
「なんですか?」
すると彼はもっと近く近づいてとばかりに小さく手招きしてくる。
「……もしかして、」
速水さん
「助平なことしようとしてます?」
「助平って……
まぁ、あたり?」
「なんじゃそりゃ、!」
ふふふっと笑いながら私はまた一歩彼に近づく。
「じゃぁまたあとで。」
軽い“それ”をして(助平なこと)、速水さんは自宅へと戻っていった。