知ってるのは私とキミと
「じゃぁやっと付き合うことになったんだー!よかったじゃん!
おめでとう、みのり!」
「ありがとう。」
電話口の向こう、私のことのように喜んでくれている電話友達の遥にお礼を告げる。
そう言ってもなお、キャーキャー彼女は一人でに騒いでいるから、おおげさだよと私は諫めた。
「だってようやく素直になれたんでしょ?
速水さん相手にさ。」
「うん、まぁそうだけど…。」
「付き合うまでにかかった時間とか、やり取りとか聞いてる私からしたら奇跡みたいなもんだからね。」
「まぁ……ね。」
速水さんの、彼女なんだもんなぁ―――そう返事しながら、自然とチェスト上に置いている卓上カレンダーに目線がいった。
会社の給湯室で彼に好きだと白状してから約一週間。
あの速水さんと付き合うことになったなんて、今でも不思議な感じ。
ある日突然給湯室で告白されて、それから関わるようになって―――だけど最初は、社内で人気の速水さんがなんで私のこと!?ってひどく戸惑ったんだよね。
告白されるまであんまり話したこともなかったしさ。
告白されてからも、なにかと速水さんからかってきてばっかだったから、告白は間違いだったんじゃないかって思ったこともある。
でもみんなで飲んだり、ふたりだけで飲んだり、彼の家に泊まったりして(これは今思えばすごいこと!)
速水さんが私のことを大切に思ってくれてるって分かったから、私もどんどんどんどん、どんどんどんどん惹かれていって―――…
「みのり?」
「あぁ、ごめん。ちょっと考え事してた。」
「電話してる時に急に黙らないでくださいよ。」
「ごめんなさーい。」
黙ってたのが速水さんのことを考えてたからなんて、恥ずかしいから遥にも言えないね。
「で?初デートの約束はもうしたの?」
「え?」
どうなのさ、どうなのさと渋る私に構わずぐいっと遥は踏み込んでくる。
「んーまぁ…。付き合うことになった日一緒に帰ったから、その時にちょこっとだけね。」
「いいじゃん!いいじゃん!」
「私たち8月から11月は繁忙期だから、今のうちにデートしとこうって速水さんが。」
「あ、そっかー。
みのりいつもそこ特に忙しそうだもんね。」
「うん。」
今はまだそうでもないんだけれど、その時期は来春に向けた新商品のイベントなど、企業様からご依頼をくださる機会が本当に多くて、毎年てんやわんや。
それでも去年は大体長嶋さんの補佐とかがメインだったからあれだったけど、今年は私も一人でやって当たり前みたいなとこもあるから余計追い詰められてるんだよね。あと3か月―――本当大丈夫かな。
「おーいみのり?」
「あぁあぁ、ごめんごめん。」
怒られたばっかなのにまた黙りこくってたね。
「デートの内容とかは?」
「まだ。詳しいことはこれからだから。」
「決めるのも楽しいよね。
えー私あそこ行きたい~!みたいな。」
「え、何そのテンション?」
ボケなのか素でしたのかよくわからない謎の彼女の空気にくすっと笑いがこぼれる。
「でもさ?みのり?」
「ん?なにー?」
時計を覗くと、丁度良く11という数字を短針が指さす。
「楽しみだね、これから。」
「……うん。」
そう、だね。
繁忙期が待ち構えてるって思うと憂鬱になっちゃうけど、それでも過ぎていく一日一日が怖くないのは、速水さんとのデートがあるからだって私も密かに思ってる。
「今度、速水さんに会わせてよね。」
「えー?」
なんて変な小言のやりとりをまだ続けつつ、明日からまた仕事が始まるので、そこで私たちは電話を止めた。