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都市化活

作者: セルセ

『出てくる夢のファンタジー! スリル満点のアトラクション、見下ろす世界は裏の裏まで、裏野ドリームランドにウェルカム!』


 裏野ドリームランドのコマーシャルの動画。だがその遊園地はもう眠っている。私はそんなコマーシャルを見ているかというと、これから訪れることにしたからだ。

 

 閉園してから一年、買手が見つかっていないらしく放置されている遊園地。手入れの行われていないため劣化が進み、ニュースで『あの遊園地は今』という感じで荒れ果てた様子を放送してたのが記憶にある。

 さて、そんな寂れた遊園地に何故訪れようと思ったのか。それがあるオカルトサイトに始まる。

 『都市化活』そこには廃墟を中心とした都市伝説を扱うサイトであった。日本の地図がトップページにあり、それぞれの都道府県をクリックすればその県の様々な都市伝説の画像リンクがずらりと並ぶ。リンク先のページにはページには画像が貼られ、その場所の名前が簡素にかかれているだけ。その下にコメント欄が設けられており、そこに体験談や感想などが述べられていた。

 裏野ドリームランドは自分の近くの地域であった。でも潰れるのはかなり早かった記憶がある。調べてみると2年足らず、原因は経営破綻だそうだ。

 大学2年の夏休み。ある夜にこのサイトで裏野ドリームランドを見つけた。

 ジェットコースターで人が死んだだとか、メリーゴーランドに幽霊が乗っていたとか。それぞれのアトラクションにはあやふやな噂がはびこっていた。

 それだけなら普通の都市伝説サイトと言う感じだった。だが、観覧車。それだけは何か違和感を覚えた。

 最初の方の記事は「幽霊が見えた」「声が聞こえた」「急に観覧車が動き出した」といったものが続いていた。しかし、最新に近づくにつれて「行ってみました、声が聞こえました」「本当に出ました、あの謎の声」といったものが続く。

 最初はばらついていたのに、徐々に体験談へと変わっていて、どれも声という現象に揃っていた。

 ただの自作自演なのかもしれない。私はその不自然に惹かれるものがあった。裏野ドリームランドの観覧車にはなにかがあるんじゃないかと。

 本当に体験したから書かれているのか、ソレとは別に寄せ付けたいのか、もしくは寄せ付けたくないように不自然さを作っているのでは。

 深く考えすぎだとは思う。ただ、妄想を膨らませてくれるようなものとして私には惹かれたのである。

 

 今日の夜、私は向かう。裏野ドリームランドへ。

 

 ○

 

 裏野ドリームランドは駅から約5キロほどのところにある施設である。

 時刻は午後10時、そこそこな田舎のため、人通りは無く、店どころか家の明かりも消え始めほとんど見えないくらいになってきている。月明かりにうっすらシルエットを見せる観覧車。


 あれが裏野ドリームランド。


 まるでホラー映画に出てくる城のようにそびえ立っており、雰囲気が出ていて悪くない。

 持ってきたものは財布と携帯と懐中電灯。何もなければすぐ帰るつもり。何かあったら、それはその時で。

 すれ違った車が二台。これがたどり着くまでに出会ったものである。本当に人通りがなく静か。

 周辺では田んぼ、その中に不自然に建つのは裏野ドリームランド。こんなど田舎に遊園地だなんて、目の前に来て思うが人なんて来るわけ無いだろうと思ってしまう。潰れた理由が経営破綻なのも頷けた。

 今日は風があり、ゲートから数メートル離れている位置からでも軋む金属音がうっすら聞こえる。怪奇的な怖さより、危険的な怖さを覚えてしまう。何か落ちてきたりしないことを祈りながらゲートを抜けた。

 

 入って200mくらい先のところに目的の観覧車が見える。入ってみると軋む音はより大きく聞こえ、なんとなくそれが観覧車から聞こえているように感じた。

 

「まさか、声ってこの音なんてことないよね」


 不安になり、つい独り言。

 ここまで来てちゃんと確かめもせずに終わるのは嫌なので、まっすぐ観覧車へと向かった。

 響く靴音、あまりに静かでイヤホンで音楽でも聞きたくなる。携帯しか持ってこなかったのは失敗だった。

 

「ん?」


 観覧車を見上げれるほど近づいた頃、急に向こうから明かりが来た。

 こちらと同じ懐中電灯を持つ男性の姿がそこにあった。

 スーツ服の男性。うっすら見える顔つきは少し老けた印象を受けたが、姿勢が良く若々しく見える。

 

「おや、足音がすると思ったら私以外に来ている物好きがおりましたか」


 男性は問いかけてくる。

 

「あなたも肝試しですか?」

「ええ、『都市化活』というサイトを見ましてねえ」

「あっ、私もです」

「おお、アタナも。私、『胡蝶の夢』です」


 コメント欄でたまに見かけた名前に記憶がある。ほとんどがコメントに対する感想を述べていた気がする。


「ああ、よく見ますね」

「あなたは?」

「えっと、『瀬戸のボッタクリ』って普段使ってます。すみませんROMってるだけなので」

「そうでしたか、このあと体験したら書き込んでくださいね」


 似合わないウインクをしながら男性は語る。

 本当に顔つきと言動が似合わない人だ。不気味というか気持ち悪さも覚えたが、気さくな態度はこの空間では安心さもあった。

 

「あなたも観覧車へ?」

「はい。えっと『胡蝶の夢』さんもですよね?」

「ええ、あそこは出そうですねえ。私は残念ながらなにも。金属音はいくらでも聞こえるのですがねえ。今度向こうで感想を聞かせてください、『瀬戸のボッタクリ』さん」


 そうして『胡蝶の夢』と別れた。

 そして、観覧車へ向かった。見上げてようやく頂上が見える観覧車。動かない観覧車というのは不気味なものである。たまに響くきしむ音は崩れるんじゃないかと思わせて恐怖を駆り立ててくる。

 さて、問題はここから。この観覧車から聞こえる声である。間近に来るとやはり音はやはりこの観覧車から。懐中電灯の明かりから塗装がはげてサビだらけになっているのが見える。

 観覧車のゲートを抜け、下のほうに来ている2機のゴンドラをそれぞれの覗いてみたが何もなし。

 ため息が漏れた。

 なにもないのは残念だったが。同時にくる安堵感は気持ちがいい。私がわざわざオカルトサイトを見て肝試しをしているのはコレを求めていたからだ。

 待っていてもこれ以上いるのを諦め、観覧車に背を向けた。

 

『出てくる夢のファンタジー! スリル満点のアトラクション、見下ろす世界は裏の裏まで、裏野ドリームランドにウェルカム!』


 大音量が流れた。

 

 急で何が起きたかわからず心臓の鼓動が高鳴る。少し落ち着いてそれがコマーシャルの音というのが分かった。

 ずっと流れるリピート音。手元の携帯は何も起きていない。耳を澄ますと聞こえるのは観覧車の中から。

 なぜそんなことが起きているのかはわからない。これが観覧車の怪奇現象? 確かに声だが、コレじゃあ誰かの悪戯じゃないか。

 もしかして、『胡蝶の夢』がやったんじゃ。そう思うとイラッと来た。

 突き詰めてやろうと観覧車に近づく。さび付いたゴンドラの扉を開けて音の聞こえる方向を、そこは椅子の下のほうからだった。

 懐中電灯当ててみると椅子の下にある空間に小さな音楽プレイヤーが音を発していた。それを拾い上げ、音を消そう停止ボタンに手を――かけれなかった。

 動けなかった。  

 後ろから呼吸音がはっきりと。プレイヤーの大きな音で全く気が付かなかった。誰かが後ろに。

 恐怖ですぐに振り向けず、首を動かすことを思い出すようにゆっくりと後ろを振り向いていく。

 男性、おそらく『胡蝶の夢』。暗がりではっきりと見えなかったが、うっすら見えるシルエットがそう判断させた。

 手にはロープのようなもの、すぐに首へそれが巻かれ、締め付けられる。

 薄れゆく意識の中、初めからだったと理解した。

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