エピローグ 路地裏逃走劇
もっと速く走れ、走れ、逃げろ、逃げろ!
追われている、とっても追われている。
何にかと聞かれたら、そう警察にだ。
もちろん、一刻も早く逃げたいのだが私が跨っているスクーターに念じたって速度は速くはならないし、追っ手を撒けるわけでもない。 でもそうしてしまうほどに必死だった。
背後から迫ってくるサイレンの音は当然止む気配はなく、私お手製の改造スクーターでもパトカーと速度勝負しても勝てるわけがないから、追いつかれるのは時間の問題だ。
かくなる上は……
私はワザと大げさにコートの内ポケットに入っている《《何か》》に手をかける。
その行動はすぐ後ろにも伝わったようで、サイドミラーに映るパトカーが一瞬だけ速度を緩める。
引っかかった!
「そーれっ!」
私はポケットに入っていた《《手鏡》》をパトカーめがけて放り投げた。
見事パトカーのフロントガラスに命中した手鏡は粉々に割れ、運転手の視界を奪う。
運転手はたまらず急ブレーキ。 サイレンをかき消さんばかりのブレーキ音が響く。
この隙を見逃すものか、今のうちに……路地に逃げる!
スピードそのままドリフト気味に路地に突っ込む。
この路地の狭さなら車は追ってこれまい。
いやぁ、自分のドライビングテクニックが憎い!
考えもなしに路地に飛び込んだわけではない、この辺の地図は頭に入っている。
この長い路地を抜ければすぐ目的地、私は……ついに……!
しっかしこの路地、昼間なのにずいぶん暗い。
こんなところで事故ったら計画が台無しもいいところだ。
敵度に安全運転を心がけて……よし、だんだん暗さに目が慣れてきた……ん?
あれ……誰か立ってない?
明るい所から急に暗い路地に突っ込んできたら目が慣れるまでに数秒かかるのは当然だ。
その当然のせいで反応が遅れた。間違いなく私のすぐ前方に男の人が立っている!
やばいやばいやばい! このままじゃ間違いなくぶつかる!
ブレーキを限界まで強く握る。
もうブレーキを握っても止まれないだろうけど。
そう、小学生だって知ってる、車は急には止まれない。
まぁ、これスクーターなんだけどね。
「よけてぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
私の叫び声はその人に届いたのか届かなかったのか。
それはわからないんだけど、私の意識はそこで途絶えた。