野蛮王の最後と黄金騎士を試す黒魔術師。 高台に建つ野蛮王の宮殿。
野蛮王の最後と黄金騎士を試す黒魔術師。
高台に建つ野蛮王の宮殿。
王座の間。
『野蛮王様……』
『黄金騎士の一行には白魔術師が付いております。』
『あの吟遊詩人が持つ竪琴は、わたくしの魔術と真逆の対を成すもの。』
『わたくしの魔術が炎と闇ならば、あの者は水と光なのです。』
『あの者と正面から、ぶっかっては互いに消滅するは必至。』
『しかし、野蛮王様の金策により、こちらへ寝返った騎士団より、良いことを聞き及んでおります。』
『黄金騎士を取り巻く近衛騎士団の長と吟遊詩人を名乗る白魔術師の両親が、あの地下牢へ囚われております。』
『この者を利用しない手はございません。』
『彼のものたちの両親を磔にし宮殿の昇り階段に晒しましょう。
『槍を持たせた銀箔鎧兵士を磔の横に立たせ、きゃつらに投降を促すのです。』
野蛮王は玉座から黒魔術師の献策に頷いた。
『お前の考え通りに事を進めよ!』
黒魔術師は、そそくさと宮殿の間を後にして銀箔鎧兵士め命じ地下牢より、曾かっての国王と妃を連れてこさせた。
宮殿の前に二本の磔を立て二人を縛り上げ晒した。
やがて、黄金騎士と吟遊詩人を取り巻く近衛騎士団の一行が野蛮王の座する宮殿を見上げる中庭へとたどり着いた。
宮殿へ続く長く広い昇り階段の最上段に磔にされた国王と妃の姿を見付けた一行。
『あ、兄上様…………』
『あれは父上様と母上様です……』
近衛騎士団の長である兄に寄り添い震える声で涙ながらに話し掛ける吟遊詩人。
『野蛮王め!!』
『どこまでも、汚い真似を!!』
近衛騎士団の長は剣を抜いて両親を救おうと駆け出そうした。
白馬を前に出して彼の行く手を遮る黄金騎士。
『急いてはなりません。』
『剣も弓もこの場に置いて行きなさい。』
『吟遊詩人よ、あなたの、その竪琴も、ここへ置いて行くのです。』
『大男も棍棒も置いて行きなさい。』
『力に頼ってはならない、思いを同じにする者だけ私に着いてきなさい。』
近衛騎士団と吟遊詩人、そして大男は黄金騎士の言葉に驚きを隠せなかった。
『黄金騎士様……』
『武器を手離してしまっては、我らは身を守れません!』
『あなた様は、我らに彼らの手により死を選択せよと仰せになるのですか!』
黄金騎士はゆっくりとした口調で彼らに語った。
『すべてを、私に委ねなさい。』
『ここが、あなた方の真の姿が試される時です。』
黄金騎士は、そう言うと一人宮殿の昇り階段を上がって行った。
吟遊詩人は竪琴を手放し黄金騎士の、後に直ぐに従った。
それに続いて少しずつ、遠ざかる黄金騎士の背中に近衛騎士団が武器を捨て一人、また一人と従った。
大男は、その場にドカッと座り込んで棍棒を手放さず動かなかった。
『ワシは、自分の心に正直に生きる!!』
最後に残った近衛騎士団の長は剣を地に投げ捨て走って黄金騎士の後を追った。
両手を大きく広げて武器を何も帯びていないことを示す黄金騎士と彼に従うものたち。
階段の最上段から、その様子を伺う野蛮王と黒魔術師。
野蛮王は黒魔術師の策に賛辞の言葉を述べた。
『流石は、名高い黒魔術師よ!』
『戦わずして黄金騎士どもを、降参に追い込むとは!』
『報償に、この地の三分の一を分け与ええ侯爵を名乗ることを許そう!』
黒魔術師は首を傾げてニャリと薄笑いを浮かべていた。
野蛮王は黒魔術師の、素振りを不思議に思い訊ねた。
『もう少し、喜んではどうだ……望みが叶うのだぞ。』
黒魔術師は黄金騎士や近衛騎士団が武器を何も帯びていないこと
そして何よりも、白魔術師である吟遊詩人が竪琴を持っていないことを確と認めた。
この場で自分に対抗できる者は皆無であることを悟った黒魔術師は徐おもむろに野蛮王の後ろへ回り込んだ。
『黒魔術師よ……』
『いかがしたのじゃ?』
『奴等は丸腰で投降しておる。』
『恐れることは何もないであろう。』
振り向き様に、その言葉を掛ける野蛮王の背中を柏ノ木の杖で強く押す黒魔術師。
階段の最上段でバランスを崩す野蛮王が叫ぶ。
『な、何をする!!』
黒魔術師は野蛮王の背中に最後の言葉を投げ掛けた。
『この国は、この黒魔術師がすべて頂くわ!!』
『それ!!』
黒魔術師の操り人形である銀箔鎧兵士たちが、さらに続けて野蛮王を槍で階段から追い落とした。
もんどりうって、階段を転がり落ちる野蛮王。
ゴロゴロゴロ………………
黄金騎士と野蛮王の視線が重なる。
『お、お前は神なのか!』
野蛮王の言葉に黄金騎士が答えた。
『あなたが、そう言っています。』
黄金騎士の傍らを転がり行く野蛮王は、やがて大男がいる中庭まで落ちて行った。
大男が棍棒を高く振り翳したが、既に野蛮王は事切れていた。
『ここから先は、私、一人で行きます。』
黄金騎士は後続の近衛騎士団と吟遊詩人を、その場に待たせて一人、階段を昇って行った。
黒魔術師は、丸腰で一人、階段を昇って来る黄金騎士にたじろいだ。
『あの者は……神なのか?!』
『この黒魔術師である、わたしを、ここまで恐れさせるとは。』
『ここで、その威厳が、まやかしか、そうでないか試させててもううわ!!』
敵味方が注目する中、黄金騎士は静々と国王と妃が磔にされた最上段へと昇って行く。