城塞都市を目指す黄金騎士と吟遊詩人。③
城塞都市を目指す黄金騎士と吟遊詩人。③
今は吟遊詩人として名高い彼女も、もとを正せば、かっては、この地の王族の姫であった。
彼女が地の理を詳細に理解し通じている事に不審を抱いた長老団の一人が黄金騎士に近付き囁ささやいた。
『黄金騎士様……』
『あの乙女の言葉を信じ、このまま着いていって良いものでしょうか?』
『吟遊詩人には似つかわしくない高貴な装飾品を身に付けております。』
『しかも、常人には、到底、思いもよらぬ獣道をも熟知しておるとは…………』
『もしや、敵の間者やも知れませんぞ。』
その言葉を黄金騎士の傍らで聞いていた大男が、その長老の一人の首根っこを掴まえて高々も持ち上げた。
『やい!やい!』
『何てという言い種だ!!』
『人を疑うにも程ていうものがあるぜ!!』
苦しそうに宙に浮かんで叫ぶ長老が弓隊に手振りで合図を送った。
大男の周りを囲み矢を構える騎士団の弓隊。
黄金騎士が事の成り行きを見て弓隊と大男の間に静かな足取りで割って入った。
『兄弟(大男)よ、その者(長老)を放すのです
』
『弓隊の者たちも、矢を下ろしなさい。』
『力による解決は失うものが増えるのみです。』
『人の心は常に中立なのです。』
『無闇に疑ってはなりません』
『望まぬ現実を引き寄せます。』
『さぁ、隊列を整え彼女(吟遊詩人)の先導に我らの進路を委ねよう。』
黄金騎士の言葉に大男は、ふて腐れ気味に長老を地面に投げ出した。
『けっ!』
『黄金騎士様の言葉に命拾いしたな!』
長老は慌てて弓隊の背後に隠れ捨て台詞を大男に浴びせた。
『やはり、賊は、どう転んでも賊だ!!』
『私たちはお前を仲間などと思ってはおらんぞ!!』
隊列を整え直した黄金騎士の一行は、やがて吟遊詩人の先導により細い獣道を抜けて大河の川辺へと出た。
上流の方に架かる橋に視線を送る吟遊詩人は黄金騎士の元へ近付き話し掛けた。
『黄金騎士様、あの石橋を渡ると、間もなく城塞都市が見えて参ります。』
『この河沿いの道は見通しも良く敵の伏兵や賊などに襲われる心配もございません。』
大男が吟遊詩人の言葉に頷き相づちを打った。
『間違いねぇ!』
『この歌姫は綺麗なばかりではなく、中々の知恵者だぜ!』
『あの、ぼんくら年寄りとは大違いだ!』
顔を、しかめて大男を睨む騎士団の長老たち。
吟遊詩人は黄金騎士の人となりに心服し主従の契りを交わしたいと申し出た。
『実を申しますと、わたくしは、あの城塞都市の王族の娘でございます。』
『今は野蛮王に城を奪われ両親も地下牢で囚われの身となっております。』
『わたくしは、名も知らぬ将軍に助けられ、何とか逃げのびることができました。』
『もしや黄金騎士様……あなた様が、あの時の将軍ではありませんか……』
『主従の契りを交わす前に、お名前と
黄金騎士様の、お顔を知りたく存じます』
黄金騎士は白馬から降りて吟遊詩人と二人、大木の影に歩いて行った。
黄金騎士は吟遊詩人(乙女)に優しい口調で語った。
『乙女よ、黄金のサレツトを被った私は何も特別な存在などではありません。』
『平和を愛し人々を愛する一介の農家の若者です。』
『そして、私には名がありません。』
『幼い頃、村が野党に襲われ親兄弟は目の前で殺されました。』
『野党は村に火を放ち去って行きました。』
『草むらに一人隠れて震える私を拾って下さった方がいました。』
『先代の黄金騎士様です。』
『私も先代の名前も顔も知らないのです。』
『黄金騎士は己の名声や名誉のために存在するではありません。』
『国民を心より愛し守り、そして真の平和をもたらす使者なのです。』
彼女(吟遊詩人)は黄金騎士の話しに心を強く打たれ感動の涙を流した。
『わたくしは、この命、尽きるまで黄金騎士様と共に参ります。』
黄金騎士は吟遊詩人の肩に優しく手を添えて隊列へ戻った。
大男が石橋の辺りを指差して叫んだ。
『悪名高い、黒馬暗殺団のやっらが橋を渡り城塞都市の方へ走って行ったぞ!』
『やはり、歌姫の言うことを聞いていて正解だったぜ!』