彼女は一体何者?
「あの、それはなんですか?」
興味津々な顔して俺に近づく彼女。セミロングのふわっとした髪型。頭には奇妙な綿のような...髪飾り?を付けている
じっと良く見てみたら、巫女さんのような格好をしていた。いや、巫女さんにしては少し丈が短いかな?言うなれば、七分丈ガウチョパンツに近い。
しかしそれよりも気になることは、彼女、距離が近すぎる
下手すれば鼻と鼻がくっついてしまうんじゃないかと思ってしまうほどだった
「ちょっと、近いんだけど」
相変わらずそっけない態度しかできない自分を腹立たしく思う。彼女は何がいけないのかよくわからないといった顔で、とりあえず一歩後に下がった。今は人一人分の間が空いているくらいの距離である
「このぐらいでどうですか?近いですか?」
「え?いや...このくらいなら別に」
「そうですか。これが正解ですね。」
ニッコリと笑って意味のわからない言葉を発すると、彼女はまたスケッチブックを指さしてそれは何かと質問をし始めた
俺は少し戸惑いながら、口を開く
正直、他人と会話すること自体久し振りなんだ。緊張して声が震えても仕方ないだろう
「これは、スケッチブックだけど」
「すけっち、ぶっく、と言うんですね!そこにある森は、ここの森そっくりです!その薄いものに、その長細い黒いものを擦ることで森が現れるんですか?」
「...これは紙。これは鉛筆。森が現れるんじゃなくて、これはただの絵だから」
ボケのつもりかよくわからないけど全く面白くない。
ちらりと彼女を見ると、またもやよくわからないと言った顔で俺を見つめる。
俺はため息をつくと、一から説明を始めた
◇◇◇
「なるほど、えんぴつというものでかみというものを擦ると絵という、森にそっくりなものが出来上がるんですね!」
「はあ、もうそれでいいよ」
どれだけ話したのかわからない。多田、彼女の理解力は一般人のそれとは違うということが分かった。俺自身、まるで赤ん坊にものを言い聞かせるように教えていたことに驚く
見た感じ歳は近いだろう
そんな子が鉛筆も紙も絵も知らないんだ。驚かない方が難しい。
「あんた、親は?」
「親…?」
「両親だよ、両親。てか、どこ住んでるわけ?」
「えーっと、私はこの奥の神社に住んでいます」
神社?ふーん、たしかに、彼女の姿を見ればそうなんだろうな、と案外あっさりと理解することが出来た
両親は多分神主さんなのかな?神とかあんまり信じていない俺にとって、あまり会いたいと思う人物ではなかった
無邪気な笑顔のまま俺を見つめる彼女。俺は何事も無かったかのようにスケッチブックをバッグにしまうと、すっと立ち上がった
「あんたさ、赤い屋根のボロ屋、知らない?」
「へ?ああ!知っていますよ、ここから近いですから」
「ほんと?助かる。案内してくれない?」
「はい!こちらです」
彼女は俺を手招きすると、深い森の奥へと入っていった
不気味に騒ぐ葉は先ほどとは違い、俺を暗い闇のそこへ引きずり込もうとしているかのごとく揺れた
不安な心を隠したまま、俺は一歩を踏み出した




