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06.ソーセージとジャガイモのミルクグラタン

今回は、レシピに入るまでが少々長めです。

本日、おっちゃんは久々に冒険者ギルドに来ている。

今回は、冒険者ギルドから定期依頼されている教導訓練とは別口の、依頼に関する相談やアドバイス等をする為に冒険者ギルドに居る。

依頼に関する相談やアドバイス等も、長年冒険者として様々な事を経験し、更に高ランクであるおっちゃんに対して冒険者ギルドが定期依頼として発注した仕事の1つである。

まだ登録したばかりで右も左も分からない新米冒険者への依頼の受け方から、どの様な依頼を受けた方が良いのかをアドバイスしたり、若手冒険者が受けるつもりである依頼に関する注意すべき事柄や依頼内容に関するアドバイス、更には中堅冒険者達からの相談といった様々な事に関して色々受け答えをするのが仕事となっている。

今日も冒険者ギルドに併設されている食堂で、定位置となっている窓際の席にて、時々来る冒険者達へアドバイス等をしたりして一日を過ごしている。


依頼に関する相談やアドバイス等も、殆どは早朝から午前中の時間帯に集中する。

何故なら、依頼は基本的に早い者勝ちであり、依頼表は早朝にギルド員が張り出すのでそれを狙って依頼を受けに来るのが普通であり、それ以外でも冒険者登録や訓練等に来る者も午前中に集中しやすいからである。

そんな訳で相談やアドバイス等も落ち着き、午後の穏やかな時間帯に差し掛かった頃、そんな穏やかな雰囲気をぶち壊す様に冒険者ギルドの入り口から騒々しい音を立てて一息ついてお茶をしているおっちゃんの下へと突進してくる冒険者が1人。


その見た目は、所々を金属で補強した皮鎧を全身に着込み、その上にローブを羽織り背中には棍棒にも見える程太い六角杖を背負った2m近い巨体の大男。

全身をはち切れんばかりの筋肉で覆い、見ただけで周囲の気温が跳ね上がりそうな暑苦しく、更には周囲の光を反射してテカテカと輝く笑顔もクドいゴリマッチョ。


「お、やっぱり居た居た。 おっちゃ~ん、ちょっと相談に乗ってくれや~!」


周囲の迷惑を顧みない大声で言いながら、ドスドスとおっちゃんに向かってくるゴリマッチョ。


この暑苦しいゴリマッチョは、名前を「マクシミリアン・レイジ」、通称「マックス」。

見た目通り、その筋肉で相手を圧倒する近接型の戦闘職・・・と誰にも思われるが、実は見た目に反して魔法を得意とする生粋の後衛職。

前衛職を後方から支援しつつ、隙を突いて強力な魔法の一撃を叩き込む事を主とした攻撃方法をするCランクの中堅冒険者である。

近接攻撃は、その見た目に反して苦手であり、護身の為の杖術をある程度使える位の技術しか持っておらず、豪放磊落な性格とその見た目とは見事に相反した戦闘技術を持つ冒険者なのである。


「良いだろ? 今日は、おっちゃんの相談コーナー開催日なんだしさぁ」

「なぁ、俺の相談に乗ってくれよ、おっちゃ~ん!」


マックスは、おっちゃんの対面に座り込むと馴れ馴れしく頼み込む。


「はぁ~~~ どうせ、お前の事だ、毎度の事ながらくだらない事を相談しに来たんだろ?」

「今までマトモな事を聞きに来た事無いだろうが」

「依頼に関する相談やアドバイスを聞きに来ず、むしろ聞いてくるのは若い女性冒険者に関する事や花街の情報、王都で広まっている噂とかばかりじゃねぇか」

「お前のしてくるお願いは、私が依頼されている内容には合致しないから真面目に聞く気も無い! さぁ、帰った帰った」


今までの経験則から、どうせくだらない話だろうと予想して素っ気無くあしらうおっちゃん。


「そんな事言わないでくれよ! 今回は真面目な相談なんだからよっ!」


そんなおっちゃんの態度に焦りを滲ませ、必死に頼み込むマックス。

普段と異なり、珍しく食い下がるマックスの態度に興味を惹かれ、少しだけでも聞いてみようかと思い直すおっちゃん。


「ふむ、本当に真面目な相談だったら聞いてやろう。 で?何を相談したいんだ?」


「実は・・・昨日、依頼を終わらせて冒険者ギルドに依頼完了の報告をしてから宿へ帰ってくる途中で市場を通ったんだが、その時に暴行を受けている子供を見かけて助けたんだよ」


「ほう、珍しく良い事したじゃないか」


「まぁ、助けたのは良いんだけどよ・・・問題ってか、相談したい事はその後なんだよ」

「そのまま置いていくと、また暴行されるかもしれないと思って送っていったんだけど、送っていった先が孤児院でさ」

「孤児院を運営しているシスターやそこに住んでいる子供達にもお礼を言われて助けて良かったとは思ったんだけど・・・全員がガリガリだったんだよ・・・」

「全員、着ている服は擦り切れてボロボロでさ。 見えている手足もガリガリに痩せ細っていてさ。 それでも全員笑顔だったんだよ・・・」


・・・どうやら、今まで孤児院の実情を知らなかった様だ。

知識や常識としては、捨て子や魔物の被害や盗賊等によって親を失い孤児になった者、村や街に居る事が出来なくなった子供が存在する事は知っていたのだろう。

しかし、知っているだけで実際にはどうなっているのかを今回偶然とはいえ知ってしまい、ショックを受けた様だ。


「それで? お前は今回、偶然とはいえ事実を知った様だが、孤児院に入れた子供達はまだまだ幸せな方だと言ったらどうする?」


おっちゃんの一言は、マックスに更なるショックを与えた様だ。

しかし、そんなマックスにおっちゃんは厳しい現実を突き付ける。


事実、孤児院に預けられたり拾われたりした子供達は幸運な方である。

運が悪ければ、そのまま野垂れ死にしたり、人買いに浚われ奴隷として売られたりする。

他にも貧民街で浮浪児として物乞いをしたり引ったくりやスリ、殺し等生きる為に何でもする様になり、最終的には犯罪者ギルドに入り裏の道を進む者もいる。

その様な現実をマックスに教える。


「し、知らなかった・・・市場とかで物乞いやスリ、引ったくりをしている子供達は何度も見ているけど、当たり前の光景だと思って気にしていなかった・・・」


「まぁ、それが日常の光景になっているからな。 意識して見ていなければ気付かないのは当然だ」

「人は必要な物だと意識しなければ認識出来ないからな」

「だが、それを知ってどうする気だ?」

「やらない善より、やる偽善とは言うが、それでも全員を助ける様な事は無理だぞ」


おっちゃんはマックスの気持ちを理解しながらも厳しい事を言い募る。

何故なら、孤児院に居る子供達や貧民街に居る浮浪児達を全員助ける事は絶対的に無理だからである。

全ての子供達を助ける事が出来る存在は、それこそ神と呼ばれる様な存在位の物だろうから。


「確かに全員を助けるのは無理だし、贔屓だと思われるのも偽善者だと言われるだろう事も理解している」

「けど、孤児院の子供達を少しでも助けてあげたいんだ」


珍しく暑苦しい雰囲気を打ち消し、真面目な顔で言うマックス。

その目は何やら覚悟を決めた光を宿している。


「しかし、俺は冒険者しか出来ないし、寄付つっても大した額は寄付出来ない」

「だから、おっちゃんに相談したいんだ。 俺にも何か出来ないかなってな」


そう言って頭を下げるマックス。


「はぁ~仕方ないなぁ。 お前にしては珍しく色々と考えて決めたみたいだし力になってやるよ」

「一番簡単な方法は食い物だろな。 孤児院てのは、領主の支援金と貴族達の道楽や見栄、偽善による寄付金で成り立っている」

「しかし、毎月の資金てのは大した額じゃない。 それで出来る事は、孤児院の維持管理で一杯一杯なのが実情だ」

「だから、食事も質より量が基本だな。 栄養がある物は基本的に高くなるからな」

「そして、お前が出来る事と言ったら、食事に関する事位だろうな」


考えながら、そう答えるおっちゃん。


「食事つっても、何をすりゃ良いんだ? 俺は凝った料理なんか出来ないぞ? 野営なんかでも基本的に保存食か焼く位だしな」


「別にお前に料理しろとは言ってない。 料理は孤児院のシスターに任せりゃ良いんだしな。 お前が用意するのは食材だ」


「食材つっても何を用意すりゃ良いんだ?」


「まぁ、さっき言った通り、基本は質より量だ。 安く買えて大量に確保出来る物が一番だな。 更に長期保存出来る物だと尚更良いな」

「とりあえず、長期保存も効いて安いし腹に貯まるし何にでも使えるジャガイモは必須だな」

「それとソーセージと牛乳も買ってこい」


「いや、おっちゃん。 ジャガイモは分かるんだが、ソーセージと牛乳ってどちらも高くないか?」


おっちゃんの言に疑問を覚え聞き返すマックス。


「まぁ、牛乳は普通に買えば結構高いんだが、傷みやすいから日が経った物は投売りされて安く買えるぞ。 そのまま飲むのは危ないかもしれないが、火を通せば腐ってなきゃ大丈夫だ」

「そして、ソーセージなんてもんは余程のもんじゃなけりゃ安いぞ? ソーセージなんて基本的にクズ肉で作る物だからな。 香辛料とかを大量に使った物じゃなけりゃ大量に買える筈だ」

「後は、粉チーズだな。 これもチーズを切り分けた際に出る使えない切れ端を削って売り物にした奴だから安く買えるしな」

「ほれ、さっさと買いに行って来い」


そう説明してマックスに食材を買いに行かせる。

金額や量を話さないのは、マックスの出来る範囲での施しであり、強制してやる事では無いからだ。

それに、無理にやらせては続く物でも嫌気が差して続かなくなる。

何事も自分自身が出来る範囲で行えば良いのである。

おっちゃんは、出来る範囲以上の事をする様な分不相応な真似は、自分も周囲も傷付けるだけだと思っている。

出来る事はやる、出来ない事は出来ないと言い、何とか対応出来る様なら周囲と協力して出来る様にすれば良いだけだ。

出来ないのに出来ると言ったり、周りよりも自分の方が上だと思い上がる様なプライドはいらない。

そんな物を誇る者程、無謀な依頼を受けて早々にリタイヤしたり死んだりしているのを見ているからだ。

むしろ、自分1人だけで済むのであれば良い方である。

大概が、そういう奴程、周囲を巻き込んで自滅するのだ。

つい、過去の凄惨な出来事を思い出してしまったが、その記憶を振り払い、これからの事を考えるおっちゃん。


「さて、食材が揃ったらマックスが言っていた孤児院に行くか。 そこでシスター達に作りながら教えれば良いだろう」


そうして、食材を買い込んで戻ってきたマックスと共に孤児院へと向かうおっちゃんであった。


まぁ、突然筋骨隆々の冒険者が孤児院へとやって来た事については、押して知るべし。

敷地内で遊んでいたりした子供達は見た瞬間に阿鼻叫喚の嵐、それを聞きつけ飛び出して来たシスター達も暑苦しいゴリマッチョを見た瞬間に固まってしまい、孤児院は混沌としたのであった。

何とかおっちゃんが場を取り直し、シスターも子供達も落ち着いた所で、今回来た理由を話し、マックスが持ち寄った食材を見せると大喜びする子供達とシスター。

やはり、予想していた通り相当困窮していた様だ。

シスターも子供達もマックスが持ってきた食材を食い入る様に見つめている。

このままオアズケをさせておくのも苦であろうし、早速おっちゃんはシスター達と一緒に調理を始める。

マックスは子供達の相手をさせておく。

最初は、その暑苦しい筋肉の塊に怯えていた子供達だが、食料を持ってきてくれた事と見た目に反して優しい事に気付いた後は遠慮無くマックスに突撃し一緒に遊んでいる。

マックスも、普段はその見た目で怖がられているのもあり、まったく怖がらず自分に笑顔を向けてくれる子供達の姿が嬉しく、そのテカテカした笑顔を更に輝かせて遊んでいる。


その光景をシスター達と一緒に微笑ましそうに見た後、おっちゃんは孤児院の調理場で料理を始めるのであった。




・ソーセージとジャガイモのミルクグラタン・




「さて、それでは調理を始めますが何か質問はありますか?」


おっちゃんは、横に居るシスター達に聞いてみる。


「えっと、今回は何を作るのでしょうか?」


「今回は、マックスが持ってきたジャガイモとソーセージ、牛乳、粉チーズを使ったグラタンを作るつもりです」

「調理が簡単で時間をそれ程掛けずに作れますし、食材は安く揃える事が出来、ボリュームもあって栄養豊富、更に美味しいと良い事尽くめですからね」


そう、シスター達に説明しながらジャガイモの皮を剥いていくおっちゃん。

その説明を聞きつつ、おっちゃんに倣ってジャガイモの皮を剥いていくシスター達。


「牛乳は高いと思っている様ですが、日にちが経った牛乳は買う人も殆ど居なくなるし酪農家の方も処分するのは面倒なので格安で売ってくれるから大丈夫ですよ」

「そのまま飲むのは少々危ないですが、今回の様に火を通して使う分には多少日にちが経っていても問題無いですから安心してください」

「チーズも塊のままでは高いですが、切り分けた際に出る切れ端を削って作った粉チーズは安く買えるので今後も使えると思います」

「ソーセージは、知っての通り香辛料を沢山使う様な高級品では無く、クズ肉を詰めて作った物なら安いですからね」


今後も食材を揃えやすい様に購入する際のコツをシスター達に説明しつつ調理の手は休めずジャガイモの皮をどんどん剥いていく。


「さて、ジャガイモの皮を剥き終わったら、次は大体5mm厚位に切っていきます。 あ、切る際の縦横は気にしなくて良いですよ。 それよりもなるべく厚さを揃える事が大事ですね」

「厚みにばらつきがあると火の通り方が変わって面倒になりますし、厚すぎると中まで火が通るのに時間が掛かりますから燃料費も気になりますしね」

「まぁ、薄すぎると今度は食べた時に物足りなく感じるので、次に作る時は今回を参考にして厚さを決めると良いかもしれません」


そう言いつつ、大量のジャガイモをスライスしていく。


「さて、次はソーセージですが、こちらもそのまま使うのでは無く、切って使います」

「ただし、切り方は斜め切りするのがコツになりますね。 輪切りにしたり、縦に切ったりするよりも切り口が広く取れるので、ソーセージの旨味が出やすく、出来上がりが美味しくなります」

「それに斜め切りにした方が嵩が増えるのでボリュームも出やすいですから」


シスター達に説明しつつ、ソーセージも5mm~1cm厚位になる様に斜め切りしていくおっちゃん。

その手際と合理的な説明に感心しながら同じ様に調理をしていくシスター達。

調理場は、和気藹々とした雰囲気を醸し出しながら調理が進んでいく。


対して孤児院の庭では、大人数の子供達に押し潰されそうになっているマックスの姿が。

最初は、笑顔で一緒に遊んでいたが、子供達の無限とも思えるスタミナと、マックスにも慣れ、行動に遠慮が無くなった事で飛び付いてきたりする子供や、やんちゃな子供は殴ったり蹴ったりとやりたい放題しだした。

流石にそれには堪らず逃げるマックスであったが、多勢に無勢、幾ら大人であっても大勢の子供達に掛かれば勝ち目は無いうえに、子供相手に本気を出す事も出来ず、遂には捕まり子供達に押し潰されていた。


力尽き倒れたマックスの上で勝ち誇る笑顔の子供達の姿を調理場の窓から見たおっちゃんは無言でマックスに祈りを捧げ調理に戻った。

そして、それを見ていたシスター達は、お互いの顔を見合わせた後苦笑しあい同じ様に調理を再開したのであった。


「さて、気を取り直して続きを行いましょうか」

「次にフライパンに油を少量敷き、温まったら準備したソーセージを入れて炒めていきます」


話しつつ、大きなフライパンにソーセージを入れて軽く混ぜながら炒めていくおっちゃん。


「斜め切りしたソーセージを炒めて脂が出てきたら、次はスライスしておいたジャガイモを加えて同じ様に炒めていきます」

「ソーセージから出た脂や旨味をジャガイモに吸わせる感じですね」

「この時に注意する事は、焦がさない事ですね。 後から煮込むので今の段階で完全に火を通す必要は無いです」

「むしろ、中火位でじっくりと炒めてソーセージから旨味を出して、それをジャガイモに吸わせる事が大事ですね」


シスター達にコツや注意点を説明しながら調理を進めていく。


「全体にある程度火が通ったら牛乳を加えます」

「牛乳は多めに入れて良いですよ。 ある程度煮詰めるので、完成した時は入れた時よりも2/3か半分位まで減りますから」

「よく牛乳は沸騰させては駄目だと言われますけど、余り気にしなくて良いですよ? そういうのを気にするのはプロの料理人だけで充分。 それで変わる味なんて普通の人間には分からないですからね~」


そんな冗談を交えつつ牛乳をフライパンに注ぎ入れながら説明をするおっちゃん。


「で、次にコンソメの素と塩、コショウを入れて味を整えていきます。 この時、注意する事は少し味を薄めにしておく事です」

「煮込む事で味が濃くなりますしね」

「そして、ジャガイモに火が通るまで煮ていきます」


「他に何か注意する点はありますか?」


「ん~とりあえずは無いですねぇ。 今回の料理は簡単に作りやすくがモットーですからね。 それに孤児院の仕事で忙しいでしょうし、時間が掛かる様な変に凝った物は向かないでしょ?」


「っと、忘れる所でした。 牛乳が温まったら、粉チーズをたっぷりと入れて全体に混ぜ合わせます」

「粉チーズを入れる事で味が濃厚になり、更にジャガイモから出るトロミと合わさって小麦粉とバターを使わなくてもホワイトソースっぽくなります」

「これで、この後は焦げ付かない様に弱火から中火でコトコトと牛乳が最初入れた時より2/3から半分位になるまで煮込めば完成です」


そうして、ソーセージとジャガイモのミルクグラタンが完成し、大皿に移して食堂へと移動した。

その頃には外で遊んでいた子供達やマックスも匂いに釣られて庭から調理場の窓の下や入り口に集まり、どんな物が出来上がるのかワクワクしながら楽しみに待っていた。

そして、シスター達が運ぶ料理と一緒に食堂へと移動し、食前の祈りをした後騒がしい食事が始まった。


「これ、俺のだぞっ!」

「美味しい~♪ もっと頂戴っ!」

「おいっ! 俺の皿から取るなよっ! 自分の食えよっ!」


騒がしいを通り越して五月蝿い位の騒々しさで子供達が料理を奪い合って食べている。

その子供達の中に混じって、料理を奪い合って食べているマックスの姿に違和感が感じられないのは、先程までの子供達と遊んだお陰でお互い遠慮が無くなったからもあるだろうが、マックス自身子供っぽさが残っているからだろう。


「何かすみません、子供達に混じって私が連れてきたデカい子供が迷惑掛けて」


少々恥ずかしくなったおっちゃんがシスター達に軽く謝ると、シスター達も苦笑しつつ気にするなと手を振った。


「此処を出て仕事に就いた子達も時々顔を出してくれますが、その子達が戻ってきた時も似た様な感じになるので気にしないで下さい」

「むしろ、偏見無く子供達と一緒に遊んだりしてくれる方が、こちらも嬉しいですし」


「それにしても、これなら作るのも簡単ですし、みんながこんなに美味しそうに食べてくれて嬉しくなります」

「材料費も安く済むので、これなら今後も時々作ってあげる事が出来そうですし」


シスター達も嬉しそうに話しながら食事している。

子供達やシスター達が喜んで食べているのを見ながら、おっちゃんはシスター達に料理に関してのコツや応用方法を更に追加していく。


「この料理はちょっとした特徴があって、普通の肉を使うよりもソーセージやベーコン等を使った方が美味しく出来上がるんですよ」

「ソーセージやベーコンが持っている塩気や燻製にした時の香り、後は混ぜてある香辛料等が出て旨味になるから、普通の肉で作ると味にパンチが出なくてちょっと美味しくなくなるんですよ」

「前に自分で作ってみて微妙な感じだったんで、ちょっと贅沢をしようと思って普通の肉を使ったりするのは止めた方が良いですよ」


おっちゃんは自分の失敗談も込みで話していく。


「後、こればかりでは子供達も飽きると思いますから、ちょっとした手軽な応用も教えておきます」

「今回の作り方に、更にカレー粉を混ぜるだけで味が一気に変わって、また違った美味しさになりますよ」

「ベースが牛乳だからカレー粉を入れても辛くなりすぎないですから小さな子供でも食べる事が出来るから大丈夫ですしね」

「更にちょっとした贅沢として、普通のチーズを上から掛けてトースター等で表面を焼いても美味しいですし、卵をそのまま割り入れて蓋をして蒸し焼きにすると、トロッとした半熟卵が混ざって美味しくなりますよ」

「後は、パンやご飯の上に乗せても美味しいですし、パスタと混ぜても良いと思いますね」

「他にも塩鮭なんかも合いますね」


色々実例を言いながらシスター達に応用を教えていく。

それを真剣に聞きながらシスター達も他の応用を思いついてはおっちゃんと話し合っていく。


おっちゃんやシスター達の横で、子供達とマックスは、楽しそうに料理の奪い合いをしながら色々喋っていた。

その姿は、まるで仲が良い家族の様にも見え、この場が孤児院だとは思えない程暖かな団欒の雰囲気が出ているのが嬉しくなり、おっちゃんも笑顔になっていた。


そんな楽しい時間は思ったよりも早く過ぎ去り、おっちゃんとマックスが帰ろうとすると、仲良くなった子供達が泣いて嫌がった。

それをシスター達が宥めながら、お礼を言ってくる。

その姿に感じ入ったマックスが、また来ると約束し子供達に手を振って孤児院を出ていく。


「また来る為に身体を大事にしないとな」


おっちゃんは、それを見ながらマックスに話しかける。


「時々居るんだよ。 お前みたいに約束した相手の為に頑張ろうとして失敗する奴が」

「良い所を見せたかったり、派手な冒険譚を聞かせたかったり、結婚等をする為に稼ぎたくて無理する奴が」

「約束は力にもなるが、それを守る為に焦りを生み己を追い詰める毒にもなる諸刃の剣だ」

「お前もCランク冒険者だから、無理な依頼等は危険だという事は理解しているだろうが、約束をした時はどうしても普段と勝手が違ってくる」

「だから、あの子達との約束を守る為にも更に堅実に依頼をこなして五体満足で会いに行け」


マックスに釘を刺しながら冒険者ギルドへと帰っていく2人。

マックスが次も笑顔で子供達と会える事を思いながら。






~本日の調理~

ソーセージとジャガイモのミルクグラタン

食材を準備してしまえば、フライパン1つで出来るので思ったよりも簡単だと思います。

牛乳を生クリームに変えると更に濃厚になります。

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