04.エリンギとチーズの肉巻き
誰も見ていないと思ったら、予想外に数件のお気に入り登録があってビックリ。
更には、こんないい加減な作品に感想も戴きありがたい事です。
これからも気が向いた時に適当に更新していくので、よろしくお願い致します。
空が薄曇りの雲に覆われ、シトシトと雨が降る雨季の時期。
蒸し暑くジメジメとした空気と雨が降る中、おっちゃんは自宅の窓辺近くの安楽椅子に座り、送風の魔道具(ようは扇風機)で涼みながら読書をしていた。
「晴耕雨読ってのは、冒険者にとっても同じだよな~」
涼みつつも身体を冷やしすぎると体調を崩してしまうので温かいお茶を飲みつつ、そう呟く。
何と言っても身体が資本となる冒険者稼業、必要であれば無理はすれども無闇に身体を痛めつける趣味も無ければ必要性も感じない。
それに、無理をし続けて短期間に大量の依頼をこなしたり、実力以上の依頼を受けて稼ごうとしていた者達は、殆どが途中で事故や怪我によって命を落としたり冒険者として再起不能になっていたりするのを見ているので余計そう思うおっちゃんであった。
更に、雨季の時期である今は依頼自体も減る傾向にあるし、この時期特有の依頼に関しても高ランクになったおっちゃんが受けなければならない物でもないので大体この時期はまったりと日々を過ごしているのであった。
しかし、そんなおっちゃんの平穏な日々を打ち破る事態が直ぐに襲ってくる。
「おっちゃん助けて~!!!」
突然、大音量の悲鳴と共に1人の若い女性がおっちゃんの自宅に飛び込んできた。
「!?」
すわ大事件かと瞬時に身構え戦闘態勢を整えたおっちゃんであったが、女性の次の言葉で一気に脱力し安楽椅子に沈み込んだのは仕方ない事であろう。
「おっちゃん、おっちゃん! 最近、雨季で良い依頼無いからゴロゴロしてたら太った~! お願い助けてっ!!!」
そんな事を言いつつ飛び込んできた女性は、私の教導訓練を受けた冒険者の1人であるミルという女性冒険者だった。
現在、Cランク冒険者まで育った若手冒険者の中でも1,2を争う有望株の冒険者の1人である。
戦闘スタイルは、片手剣と盾を装備した女性冒険者としては珍しい堅固な防御を主体とし、カウンター攻撃を得意とする前衛の中でも壁役やタンカーと呼ばれる役割が得意な近接型の冒険者である。
ただ、その性格に難が有り、好き嫌いが激しいうえにムラっ気が強く、一旦気に入ったり集中したりした時は凄まじい能力を発揮するのに、少しでも気に入らなかったり嫌な事があると一気に精彩を欠き危なっかしくなるのだ。
お陰で余程親しい間柄以外では固定パーティーが組めず、臨時として様々なパーティーの間を渡り歩く様な生活を送っており、その都度好かれたり嫌われたりして変な人脈を築いていたりもする。
まぁ、様々な冒険者達の間を渡り歩いている所為か、若いのに経験豊富で広い人脈を持ち優秀な情報網を構築しているので良し悪しと言った所だが。
「たかが太った位で大声出して飛び込んでくるなっ! 何が有ったかと驚いただろうがっ!」
「たかがじゃな~いっ! 女にとっては重大事なのよっ!」
「だからダイエットに効く料理作ってっ!」
「あ、美味しくてボリュームもあるんだけど、しっかりと栄養もあるのをねっ!」
「何という横暴な注文。 しかも、ダイエットとボリュームがあるって時点で矛盾してるんだが」
呆れながら答えてみたが、そんな事も意にする事無く平然と答えるミル。
「え? けど、おっちゃんだったら出来るでしょ? 昔、私達教導訓練受けてる人達に色々食べさせてくれた時に栄養とか気を使ってくれてたじゃない」
「実際、おっちゃんのご飯食べて体調良くなった奴等多いし、それ以来食事に気を付けてる奴も多いしさ~」
そこまで言われ信頼されると流石に断る事も出来ず、渋々ながら考えるおっちゃん。
「仕方ない、ちょっと思い付いたのがあるから、それ食わせてやる」
「ただし、ダイエットに効くかどうかは分からんぞ? それなりにボリュームがあって栄養が取れる様な物にはしといてやるがな」
「やった~! 流石おっちゃんっ! 楽しみにしてるね~」
さて、そんなこんなで調理開始である。
・エリンギとチーズの肉巻き・
「まずは材料だな」
「今回は、豚バラ肉のスライスとキノコのエリンギ、後はスライスチーズを使うぞ~」
「何で豚バラ肉とエリンギとチーズ?」
ミルが選んだ材料の理由が分からずに聞いてくる。
「豚肉はビタミンBが多いから疲れている時やバテている時に良いんだよ。 ついでにバラ肉を使う理由は安いからだな」
「エリンギは単純にキノコの中では癖が少なくて使いやすいからだけど、キノコは食物繊維が多いからお腹の調子を良くしてくれて便秘とかになりにくくなるな」
「後は、チーズは乳製品だから色々な栄養が多く入ってバランスが良く取れるし、少量で味が濃くなるから今回は合わせやすいからだな~」
と説明しつつ、材料を用意していく。
「まず、エリンギは濡れ布巾とかで軽く表面を拭いて綺麗にしてから根元の硬い石突部分を切り取って、縦に裂いておく」
「まぁ、濡れ布巾で拭くのが面倒だったりする時は、普通に水洗いして良いぞ。 それと裂く時に大変な場合は、包丁で軽く切り込みを入れると簡単に裂けるな」
そんな事を言いつつ、手馴れた様子でエリンギを細かく裂いていくおっちゃん。
「で、エリンギを裂いたら次は豚バラ肉の用意だな」
「豚バラ肉のスライスは少しだけ重なる様にして4枚位を長方形になる様に広げるんだ」
「あ、金額を考えないならショウガ焼き用とかの豚ロース肉のスライスとかを使うのも美味しくて良いかもな」
「そっちの方が脂身が少ないからダイエットには良いかもしれん。 ただし、少し値が張るのが欠点だがなぁ」
まな板の上に豚バラ肉のスライスを1枚ずつ並べながらミルに説明していく。
「後は、並べた豚バラ肉の上にスライスチーズを乗せて、その上に裂いたエリンギを適当に乗せたら、端からクルクルと巻いていくだけっと」
「この時に、スライスチーズやエリンギは、中央に乗せずに端に寄せておいた方が巻く時に巻きやすいし、焼いた時にバラけにくくなるから気を付けておくと良いぞ」
そう言って海苔巻きを作る様にクルクルと豚バラ肉でスライスチーズとエリンギを巻いて円筒形の形にしていくおっちゃん。
「で、後はフライパンに油を敷いて熱した所に、巻いた端を下にして肉巻きを置いておくっと」
「此処で大事な事は、並べ終わったら蓋をして蒸し焼きにするのがコツだな」
「スライス肉だから肉には直ぐに火は通るんだけど、エリンギには火が通りにくいからな。 蓋をして蒸し焼きにする事でエリンギにも火が通るからな」
「大体、5分位蓋をして蒸し焼きにすれば良いぞ~」
そして、蓋をして蒸し焼きにして5分位経過後。
「じゃあ、蓋を開けると~ エリンギから水分が出て焼くっていうよりも煮る感じになっているんだよな」
「だから、この出た水分は一旦捨てる」
そう言って肉巻きが落ちない様にフライパンを傾けて出た水分を捨てていくおっちゃん。
「水分を捨てたら、軽く油を足して今度は焼き色を付けていく。 この時に塩、コショウを振って味付けもしていくぞ~」
「後、焼き色を付ける時の注意だけど、フライパンを揺すったりすると逆に焼き色が付かなくなるから、揺すりたくなるだろうけど我慢してじっくりと焼いていくのが綺麗にいくコツだな」
「それと塩、コショウはちょっと多めに振ると美味しくなるぞ。 エリンギは味が無いから、普段通りだと味が薄くなりやすいからな~」
肉巻きの焼き色に注意しつつ全体に焼き色が付く様に肉巻きを回しながら焼いて、ミルにコツを説明していく。
「これで最後に仕上げとして醤油を軽く回し掛けて香りを付けつつ味を整えて完成っと」
焼き上がった肉巻きをお皿に移しつつ完成を告げると、ミルの目付きが途端に変わり食欲で目がギラギラと輝く。
「うぅ~作っている時の匂いで生殺しだったから早く食べたい~!」
「はいはい、じゃあご飯にするからさっさと座れ~」
簡単にミルをあしらいつつ、食卓にご飯やスープを用意しつつ出来上がったエリンギとチーズの肉巻きを並べて食事にする。
「う~エリンギがシャキシャキして歯応えある~ それにチーズが絡んで美味しい~!」
そんな事を言いつつ笑顔で食べているミルを見て、ほっこりと優しい気持ちになるおっちゃん。
まだ独身なのに、もう子持ちの父親か母親の様な気分になっている。
「ほれ、肉巻きだけじゃなくサラダも食え。 ダイエットなんぞしなくても、バランス良く食事してしっかり運動すれば勝手に引き締まるんだから無理するな。 私達冒険者は、身体が資本なんだからな?」
そうして、明るい声を響かせながらシトシトと雨が降る蒸し暑くも穏やかな昼下がりが過ぎていくのであった。
~本日の調理~
エリンギとチーズの肉巻き