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03.照焼きチキン

今日は依頼も無く、非常に良い天気であり、湿度も少なく気温も丁度良い暖かさで正にくつろぐには最適な日であった。

そんな気持ちの良い日であったので、おっちゃんも気分良く窓際に置いた安楽椅子にゆったりと座り込んでサイドテーブルにお茶とお菓子を用意して穏やかに読書と洒落込んでいた。


「あ~平和だ。 こんな日は、何処にも行かずにのんびり日向ぼっこしつつまったりするのが一番だな」


そう言いつつ、お茶をすすりながらページをめくり目で文字を追いつつ穏やかな空気に包まれ、ゆったりとした時間を過ごしていた。


しかし、そんな穏やかな空気も、平穏な日常はお前には勿体無いとでもいう様に、玄関を大声と扉をぶち壊す勢いで開け放つ轟音によって破られた。


「「「「「「おっちゃ~ん! お腹空いた~~~! ご飯食べさせて~~~!」」」」」」


明けの鐘3つ(午前10時)の鐘が鳴り終わりしばらくした頃、突然自宅に甲高い女性達の大声が響き渡る。


『おっちゃ~ん、居ないの~? それとも、まだ寝てるの~?』


何の遠慮も無く、勝手知ったる我が家の様にヅカヅカと室内へ入ってくる女性達。


この女性達は、冒険者としてギルドに登録し、おっちゃんの若手冒険者育成訓練(通称:教導訓練)を受けて徐々に実力を伸ばしてきている冒険者達であった。

現在は、それぞれ個人がDランク上位にまで成長し、パーティーとしてならCランクの依頼を受けても油断しなければ大丈夫なまでになった女性6人だけのパーティー「アルテミス」の面々である。

女性のみのパーティーであり、更にパーティーメンバーは人種以外にも亜人と呼ばれたりする狼人種、豹人種、エルフ種、ドワーフ種といった面子で構成されている。

その所為か、亜人蔑視と男尊女卑の風潮があるこの国では色々な差別を受けたり、セクハラ等の嫌がらせを受けたりし、冒険者としても大変だったが、おっちゃんの偏見の無い指導のお陰で腐る事無く実力を付けていき、現在に至っている。

更に、その教導訓練の際に様々なアドバイスや愚痴や悩みを聞いてくれたおっちゃんを信頼し、おっちゃんの勧めで組んだ今のパーティーを大事にしている。

そして、おっちゃんからも困った事があれば頼れと言われて自宅の合鍵を貰っており、おっちゃんの家に何時でも入れる様になっているのであった。


『おっちゃ~ん、何処~? 麗しのアルテミス御一行様が来てあげたぞ~?』


呼んでも無いのに自分勝手な言葉を言いながらおっちゃんを探すアルテミス一行。


「だ~っ! 五月蝿いぞっ! 人が静かに読書してりゃ邪魔するんじゃねっ~~~!」


折角の穏やかで静かな空気もぶち壊す賑やかで明るい声が家中に響き渡り、おっちゃんの平穏な日常はガラガラと音を立てて崩れ落ちていったのが分かった。


「で? 今日は何の用で来たんだ?」


『お腹空いた。何か頂戴。しかも沢山。出来ればお肉希望』


アルテミス一行は、声を揃えて即答した。


「はぁ~、飯を食べさせるのは構わないが、こんな時間に此処に来るなんてどうしたんだ?」


「普通の依頼を受けていたら有り得ないだろ。お前達今回はどんな依頼受けたんだ?」


長年の経験から、普通の依頼では有り得ないと思い心配になって尋ねてみたおっちゃんだが、予想外の言葉を受け呆れもしたが納得もしてしまった。


『依頼を受けたのは良かったんだけど、依頼者との依頼内容に関する打ち合わせ兼顔合わせに行ったら相変わらずの偏見で依頼中止になっちゃった』


『まったく、女性や亜人が嫌なら最初から依頼書にランク以外にも条件書いとけってんだっ!』


その時の怒りがぶり返してきたのか、全員揃ってプリプリと怒りとも愚痴とも付かない文句が色々出てくる。

余程、依頼者から嫌味を言われたのか、相当鬱憤が溜まっている様だ。


「今も実力を見ずに女性や亜人ってだけで見下してくる輩は多いからな」


「これでも昔よりは大分マシにはなってきているが、まだまだこの風潮は修正されないだろうなぁ」


「英雄と呼ばれる様なSランクの冒険者達の中には女性もいるし、実際冒険者ギルドにも女性登録者が徐々にだが増えてきているから少しずつではあるがマシになってくるんじゃないか?」


おっちゃんが、そういう様に言い場を取り成す。


「しかし、肉か~ しかも沢山とか、お前達自棄食いするにしてもいい加減にしろよ?」


『自棄食いじゃないですっ! 怒ったりしたらお腹が凄い空いているだけですっ!』


キャンキャンと水を掛けられて怒っている子犬の様に吠えてかかるアルテミスの面々。

これ以上いらぬ藪を突くと盛大にこちらにとばっちりが来るであろう事は容易く想像出来たので、適度にいなしながら話題をすり返る。


「で? 肉が良いって言っても沢山ともなるとそれなりに金も掛かるからなぁ。 豚肉や牛肉は無理だぞ?」


『鶏肉で良いですっ! むしろ、質より量?』


「身も蓋も無いな」


余りにも欲望に忠実な言葉に、ついつい笑いを誘われて苦笑混じりの笑顔となってしまった。


「仕方ないなぁ、作ってやるが少しだけ手伝ってもらうぞ?」


『美味しく食べられるのなら喜んで~!』


アルテミスの面々が諸手を上げて返事をする。


「さ~て、じゃあ調理を始めますか」




・照焼きチキン・




「よ~し、じゃあお前達! とりあえず一っ走りして肉屋に鶏のモモ肉を買ってこい! 量は任せた」


『は~いっ! じゃあ、行ってきま~すっ! あ、おっちゃん肉買うお金頂戴!』


「飯の材料費までタカるんじゃねぇよっ! まぁ、今回は奢ってやるけど、飯を食べたいなら次からは材料買って持ってこいっ!」


『おっちゃん優しい~♪ じゃあ、沢山買ってくるね~♪』


そんな軽口を言い合いつつ、数人が市場へと鶏モモ肉を買いに繰り出して行った。


「さ~て、その間に鶏モモ肉を付け込む漬け汁の準備でもしておきますかねっと」


キッチンへと移動したおっちゃんは、大き目のボウルの中に調味料を入れ始めた。


「醤油にミリン、ハチミツ入れて~っと」


ボウルに醤油を注ぎ入れたら、ミリンとハチミツを加えて甘しょっぱい漬け汁を作っていく。


「更に追加でショウガのすりおろしを加えて臭み取りと風味付け~っとくらぁ」


よく洗ったショウガをおろし金を使ってすりおろして加えていく。

(現実では、チューブのおろしショウガを使って手抜きをしても良いですし、好みでニンニクを加えても美味しいです。)


「うっし、これで漬け汁は完成っと。 さ~て、あいつ等は何時戻ってくるかなっと」


『おっちゃん買ってきたよ~! 今日のお昼は肉祭りじゃ~!!!』


大量の鶏モモ肉を持ち、ハイテンションで戻ってきたアルテミスの面々。

その表情は、先程までの不満だらけの顔とは打って変わって物凄く良い笑顔になっていた。


「お~し、じゃあ、まずは下ごしらえからだな。 お前等もしっかり手伝えよ~ 手伝わん奴は食わせんからなっ!」


『は~いっ!』


戻ってきたアルテミスの面々と共に鶏モモ肉の下ごしらえを行っていく。


「いいか~? まずは裏返して肉の面をよく見ろよ?」


「そうすると、所々に白い太い筋や黄色いブヨブヨした塊が付いているだろ?」


「この白い筋が残っていると調理した時に筋ばって食感がグニグニする原因になるんだよ」


「で、黄色いブヨブヨしたのが脂肪でな。 これもある程度取っておかないと調理した時に独特の臭みになるんだよ。」


「時々、食堂や居酒屋で出て来る鶏肉料理が何か臭かったりする事あるだろ? あの原因がこういう脂肪の取り残しだわな」


『ふんふん、そういうもんなんだ』


「まぁ、面倒だったり気にならないんだったら別に取らなくても構わんが、取っておいた方が美味しくはなるな~」


と、そんな話をしながら手を動かして下ごしらえを進めていく。


「で、次は皮目の方にフォークで突き刺していくんだ」


「そうすると漬け汁が染み込みやすくなって美味しくなるな」


そう言って、大き目のフォークを使って鶏モモ肉の皮に向けてフォークを何度も場所を変えて突き刺していくおっちゃん。


「ここまでしたら用意しておいた漬け汁の中に鶏モモ肉を入れて全体に漬け汁が絡む様に揉み込みながら漬け込むっと」


「で、本当はこのまま半日から1日は漬け込んで味を染み込ませないといけないんだが、それまでお前達は待てないだろうし、今回は魔法を使って促進させろ~」


『よ~しっ! 全力でやるよっ! 1分で1日分促進させちゃうよっ!」


「・・・食欲に忠実なのは良いけど、たかが漬け込み促進に全力とかどんだけ飢えてんだよ・・・」


物凄い意気込みに若干引いてしまうおっちゃんと、それに気付かず全力で魔法を使う飢えた獣と化した女性陣の温度差でキッチン内が若干カオスと化したが、それでも調理は進んでいく。

(現実では、調理後の片付けが簡単になるので、ビニール袋に漬け汁を作って入れ、その中に鶏モモ肉を漬け込んで、ビニール袋の口を閉じて冷蔵庫に半日~1日漬け込んでおくと良いです。)

(真空パックにする機械を持っている方は、漬け汁と鶏モモ肉を入れて真空パックにすると2~3時間程度で漬け込めるので、時間短縮が出来ます。)


「漬け込んだら取り出して焼きの行程だな」


『焼くのはフライパン? それともオーブン?』


「んにゃ、手間も掛けずに作りたいから使うのはトースターだわな」


『トースターで網焼き?』


「それだと折角の漬け汁の旨味や鶏モモ肉から出る美味しい脂が抜け落ちて味が落ちるから、トースター付属の受け皿を使って作るのがコツだな」


「ただ、そのままだと受け皿が汚れるし、漬け汁や脂でベトベトになって洗うのが大変になるから、アルミホイルで受け皿を包んでおいた方が良いな」


女性陣に説明しながら受け皿をアルミホイルで包み、その上に漬け込んだ鶏モモ肉を皮目を上にして並べていく。


「これでタイマーで15分焼けば完成一歩手前まで出来上がりだな~」


『トースターの設定は?』


「普通にパンを焼く時と同じ様に両面焼きの1000wの設定で良いよ。 下手に設定弄ると逆に焼きムラが出来て失敗するから注意しとけ~」


『は~い』


そして、焼き上がるまでアルテミスの面々とお茶をしつつ、それぞれの近状やパーティーへのアドバイス、国内の最近の情勢等を話し合って時間を潰していった。


「よし、焼き上がったな」


『さぁ、焼き立てを直ぐに食べましょう!』


「待て待て、最後の仕上げがまだだぞ」


『え~? 充分美味しそうに出来てるじゃないですかっ! これ以上何をするんですか?』


「よく見てみ? 焼き上がってはいるけど、表面が乾いてパサパサしているだろ? それに表面が乾いていると、ちょっと美味しそうに見えにくいしな」


『言われてみれば、そんな感じも~』


「だから、最後の一手間をすると更に美味しそうな見た目になるし、実際美味しくもなるんだよ」


と、説明しつつ受け皿毎焼き上がった鶏モモ肉をトースターから取り出す。


「で、最後の一手間ってのは実は簡単でな? 受け皿に漬け汁と鶏モモ肉から出た脂が残っているだろ? これを使うのよ」


「残った漬け汁と脂に焼き上がった鶏モモ肉を絡めると・・・照りが出るんだよ」


「この一手間を加えるだけで見た目も照りが出て美味しそうに見えるし、旨味が詰まった漬け汁と脂が全体に絡むから美味しくもなるんだよ」


「これで照焼きチキンの完成だな」


焼き上がった鶏モモ肉を受け皿に残った漬け汁と脂に絡めながらアルテミスの面々に説明しながら仕上げを行っていく。


「よっし、出来上がったし飯にするぞ~!」


『お~! 匂いだけでもうお腹ペコペコで生殺し状態だったから食べまくるぞ~!』


そして、飢えた雌獣達の肉欲の宴が始まった。

それを見ていたおっちゃんは後にこう呟いた。


「あれは女性の皮を被った獣達だった。 あれに勝てる冒険者は居ない」






~本日の調理~

照焼きチキン

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