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01.牛乳豆腐

カーン、カーン、カーン。

澄んだ高い鐘の音が街中に響き渡る。


「あぁ~、明けの鐘が3つって事は午前10時って事か。やっぱり昨日の酒が残ってんなぁ」


おっちゃんは寝起きでボサボサの髪の毛をかきながら体を起こすが、まだ頭が動いておらずベットの上でボ~っとしている。

普段ならもっと早く起きているのだが昨日は若い冒険者達の愚痴に付き合って深夜まで酒を飲んでいたので流石に普段通りには起きれなかった。


「もう若い頃みたいにゃいかんな。昨日の酒がまだ残っていて食欲沸かねぇよ」


ブツブツと文句を言いながらベットから抜け出して身支度を整える。


「もう明けの鐘が3つって事は、今日は朝昼兼用にするか。しっかし、食欲も沸かねぇし何食うとするかなぁ」


この街は、午前6時になると鐘を1つ鳴らし、その後2時間おきに鳴らす鐘の音を増やしていき、正午のみ鐘の音を5つ鳴らし、午後からはまた2時間毎に今度は逆に鐘の音を減らしていく。

更に午前と午後で鐘の音色を変える事で音を聞いただけで時刻が分かる様になっている。

つまり、明けの鐘1つから始まり、2つ、3つ、正午の鐘5つ、宵の鐘3つ、2つ、1つとなり、街の住人は朝6時から夜6時までを常に知る事が出来る様になっているのである。


「ちょっと中途半端な時間だが市場で何か良い物があるか見て回って飯を決めようかね~」


護身用の短剣等を身に着けてから家を出て市場へと向かう。


市場は、朝の賑わいが落ち着き、昼食の煩雑期を外している所為か買い物客もまばらである。

食材や食事を扱っている露店も中途半端な時間帯の所為か余り商品も並んでおらず店主達も暇そうにしている。

そんな倦怠感が漂う様な空気の中おっちゃんはブラブラと並べられている商品を眺めながら進んでいく。


「う~ん、やっぱり時間帯が時間帯の所為か大したもんが無いな。どうも食指が進む様な物が見当たらんなぁ」


と唸りながら進んでいき市場の端辺りに辿り着いた時に、ふとある露店に目が止まった。


【牛の初乳売ります】


「お、珍しい物売ってんなぁ。そういや初乳なんて最近はとんと拝んでいないし買っちまうかな~」


初乳とは、初めて子供を生んだ牝牛の乳で普通の牛乳と比べても非常に濃厚な味わいで、更に子牛の成長には欠かせない栄養が詰まっているので栄養価も高い逸品なのである。


「お~い、看板に出ている牛の初乳は後どの位残ってる?」

「へいっ! 初乳は残り3瓶ありやすっ!」

「じゃあ、それ全部買うわ」

「まいどあり~!」


という事で、牛の初乳を3瓶購入しホクホクとした顔で家へと帰る途中、露店でレモンも数個購入して帰途へと着いた。

そして、帰宅後すぐに台所へと突入して早速牛の初乳を使って調理を始めた。


「さて、それじゃあチャッチャと始めますか」


・牛乳豆腐の作り方・


まずは沸騰させない様に注意しつつ牛の初乳を温めて~っと。

鍋に先程購入した牛の初乳を全て入れて沸騰させない様に80~90℃を保ちつつ温める。


「沸騰させちまうと成分が固まって湯葉みたいに膜になって味も落ちるし牛乳豆腐も作れなくなるから慎重にっと」

「後は、最低でも10分位は加熱しとかないと殺菌出来ずに腹壊して地獄見るからなぁ」

「気にせず飲んでトイレの住人になったあの時をまたしたくねぇしな」


若い頃の失敗を思い出して苦い笑いを浮かべながらつぶやく。

そして、加熱している間にボウルとザルを用意して、ボウルの中にザルを入れ、ザルの上に布巾を敷いておく。


「さ~て、次はレモン汁の用意っと」


先程買ったレモンを数個絞り器で絞ってレモン汁を準備する。

そして、充分加熱した牛の初乳が入った鍋を火から外した後、鍋の中に少しずつレモン汁を加えてゆっくりとかき回していく。


「レモン汁も少なすぎると固まらないし、多すぎると酸っぱいしで加減が難しいのが難点だよなぁ」

「っと、固まってきやがったし、さっさとやるか~」


レモン汁の凝固作用により固まりだした牛の初乳をお玉で掬い取り布巾を敷いたザルの中に入れていく。


「掬い取った残りは勿体無いけど捨てるしかないか~ 動物でも飼ってりゃ飲み水に出来るけど他には使い道思いつかないしなぁ」

「栄養あるのは知ってるけど自分で飲む気にはならんしなぁ」


勿体無い勿体無いと愚痴を言いつつ、凝固した初乳を全て掬い取ってザルに入れ終わったら布巾で軽く包んだ後その上にお皿を置いて更に軽い重しを載せて水切りする。

残った白っぽい液体は、俗に言うホエーという物で、栄養価は高い物の殆ど使われず捨てられる物である。

最近は、最北の土地で豚に飲ませて育てると肉が柔らかくなり脂身も甘くなって美味しくなるとして使われつつある物でその程度しか聞かれない。


「後は1~2時間位放置すりゃ出来上がりっと」


ホクホクした笑顔で言った後、何かに気付いたのか愕然とした顔でつぶやく。


「・・・出来上がりを待っていたら昼飯時間過ぎるじゃん・・・」

「仕方ない昼飯は露店で買って良しとするか。楽しみは夕食に持ち越しだ~!」


トボトボと家を出て昼飯を買いに出ていくおっちゃんの背中は煤けて見えた。


その後、夕食で牛乳豆腐を堪能して満足し良い笑顔のおっちゃんが生まれたのを追記しておく。


「うめぇ~! やっぱり牛乳豆腐は良いなっ!」

「醤油で食べるのも良いが、ハチミツかけてデザートとして食べても美味しいなっ!」

「まぁ、初乳が無けりゃ食べれないのが難点だがカッテージチーズで代用出来るから食べたくなったら次はそっちにするかなっと」


食事を楽しみ、ゆっくりとした時間を堪能しつおっちゃんの一日は和やかに過ぎていく。






~本日の調理~

牛乳豆腐

ふと食べたくなって書いた物ですが、現実では中々食べられない貴重品となってしまっている料理です。

本文にも書きましたが、チーズで代用出来るので食べてみたい人はチーズで試してみると良いかもしれません。

モッツァレラチーズを適度な厚さにスライスして食べても美味しいかと思います。

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