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突発的SS

自称平凡系主人公が異世界で平凡じゃなくなるプロローグ

作者: 藤和葵


 突然ですが、主張します。わたしは平凡なんです。


 ホントに目立った取り柄のない平凡なふっつーの女子高生なんです。

 普通じゃないのは一ヶ月前、何故かぽっかり空いていたマンホールの穴に落っこちてから異世界に来てしまったことでしょうか。

 お父さん、お母さん、生意気な妹よ。そちらでわたしはどんな扱いになっているのだろう。そう考えると心が痛い日々もありますが、現在、ちょっと納得の行かない処遇に嘆く余裕がありません。


 さて、そんなわたしの身の上話に少しお付き合い下さい。

 自他共に認める平凡なわたし。わたしのスペックが平々凡々で、実につまらない不器用な人間なのは悲しくも変え難い事実なのに、どこをどうしてか現在この異世界にて某国の王子様の専属警護の拝命を賜り、日々任務に勤めております。ドウシテコウナッタ!


 自慢じゃないけど運動は苦手だ。体力テストで五十メートル走は十二秒かかる。百メートルじゃない。その半分だ。超、鈍足だ。ドッジボールは自ら外野に回ります。ボールは取れません。投げてもすぐ失墜します。バスケやサッカーでゴールをしたことがありません。

 このへぼさはある意味非凡かとも思いましたが、膝にも股にも神は宿っていないようなのでやっぱり普通に運動が出来ない女の子と主張します。

 勉強だって苦手だ。それこそ留年しちゃう! なんて絶望的なものではないけれど、平均して七十点台。真面目にテスト勉強に取り組んだ結果です。あ、理系脳じゃないようで数学はやや低いです、はい。そのくせ突出した得意科目もない。通知表の先生のコメントは『授業態度が真面目です』と無難なお言葉ばかりでした。

 でも、いかにもよく聞く平凡さではあるよね。




「ノミャ様、殿下がお探しでございます」


 ちょっと中庭で休んでいたらメイドさんに声をかけられた。

 私はすっと閉じていた目を開ける。

 日溜まりの下で仮眠を取ろうと思っていたけど不発になったか。でも目を閉じた分だけすっきりしたかな。


「殿下は何か言ってました?」

「お茶が飲みたいと……」


 舌打ちが出そうになるのを堪えて私は頷く。申し訳なさそうなメイドさんの手前、わたしが不機嫌になれば悪くない彼女を責めて結果になってしまう。

 かなりわたしを探したのか、僅かに肩を上下させる様子を見るに結構駆けずり回ったのかも知れない。本当に申し訳ない。


「わざわざありがとうございます。お姉さんが殿下に叱られないようにすぐ行きますね」


 中庭に設置しているベンチから腰を浮かせ、早足で目的地に向かう。ちらりと肩越しに振り返ればメイドさんは深々と丁寧に頭を下げていた。

 勘弁して下さい。私にそんな価値はないんですよ、メイドのお姉さん!


 あとで知ったのだけど、どうやら王位継承第三位の一国の王子様の護衛役という肩書きは働く女性の羨望の的のようで、わたしみたいな小娘に憧れてくれる方は意外に多い。さっきのメイドのお姉さんみたいなのがいい例だ。

 信じ難いが、輝かしい肩書き補正のおかげかわたしのようなちんくしゃに「宵闇の妖精」などという通り名までついて回っている。

 宵闇とはわたしの長くて真っ直ぐな黒髪から来てるのでしょう。この世界の方々はどのような遺伝子構造になっているのか、この世界の住人は同じ人の形をしているのだけど金髪、褐色、茶色に赤毛、藍色、緑、オレンジ、ピンクなどなど目にも鮮やかな髪や瞳を天然でお持ちだ。それなのに何故か黒髪は珍しいようで、こんな平凡なわたしでも髪色でちやほやされてしまうのだ。

 所変われば希少値も変動するようです。でも意味もなく伸ばしつつもちゃんとケアしていた御髪を誉められるのは大変嬉しい話です、はい。

 んで、妖精はよく分からないけどそこはちっちゃいからじゃないですか。色んな意味で。


 ともかく、謙虚でも卑屈でもなく見た目も中身も平均値から外れないわたしは、身に余る役職で見知らぬ世界で好待遇を得ているんですが、華やかな肩書きとは裏腹に日々は大変地味でございます。




 さて、殿下がおわす執務室をノックして返事を待って入室する。


「ニャモ、どこに行ってんだ」


 この世界でわたしを拾ってくれた人であり、わたしの主であり、シュエオ王国の女王の孫であり、王位継承第三位であるルーグ・ソル・シュエオ六世様は色違いの両目を細めてわたしを責めた。


「……お言葉ですがグレン様と交代で休憩に入るようおっしゃったのは殿下だと記憶してます」

「そうだったか?」


 我が主はけろりとして嘯く。

 最初は覚えのない責めにオロオロしたものだけど、一日置きに一ヶ月繰り返されればさすがに慣れた。面と向かって悪態はつけないけれど、自分は悪くないという強気は出せる。


「お茶を淹れたら良かったですか?」

「いや、お茶はもういい」


 でしょうね。

 呼ぶだけ呼んで用件を却下するのも毎度の事。最初はお茶も実際に淹れさせられたのだけど、要領が分からず色々ブレンドしたら物凄く渋いものにしてしまい、それ以降全く要求されなくなりました。地味に女の沽券にひびが入ってます。

 こうなると此処からが苦行だ。

 する事がない。

 護衛とは言うけど殿下が外出しなければ屋敷外には出れないし、書類作業となれば終日執務室でこうして部屋の隅でただ突っ立ってるだけだ。それでも護衛ですからね、もしこの場に悪漢が押し寄せて殿下が危機に陥ったら盾となりて闘うのがわたしの仕事。

 しかし繰り返しますがわたしは平凡だ。運動神経においては並以下だ。向かってくる拳を避ける事すら無理とわかっているのに、刃物を持ち出されたら対峙は不可能に決まっている。幸い、そんな危機的状況には未だに遭遇していないけど、護衛役を果たせないのは火を見るより明らかだ。

 同じ護衛でもグレン様のように庶務もこなせればいいのだけど、雑務もね……わたし、こっちの文字が読めないからほとんど役にも立たない。会話に関しては何故か言葉が通じるから困らないのだけど、この役立たず感が胃をキリキリさせる。

 殿下は何をお考えでわたしを護衛にしたのか。


「なんだニャモ、暇なら肩を揉んでもいいぞ」


 許す。と、横柄な態度ですが暇で穀潰しのわたしは喜んで頷いた。


 砕けろ肩!


 悲しいかな、わたしの握力は非力過ぎて悪意を込めた方が殿下には気持ちが良いらしい。


「時にニャモ……此処での生活は慣れたか?」


 ご満悦な呻き声を交えて尋ねる殿下にわたしは「えぇ、まぁ」と生返事。肩揉みにない力を振り絞っているため、そう熱意のある返答は出来ない。

 そして今更ですがわたしの名前はニャモではない。


「殿下、少々よろしいですか」


 ノックもなしに入って来たのは殿下の懐刀のグレン様だ。

 銀色の短髪に、翡翠の両目。整った鼻梁が職務で兜で隠れるのはもったいないと囁かれる美形のグレン様と殿下が並ぶとわたしの目はちかちかする。御馳走様です。

 おっと、美形に惚けている場合ではなかった。観賞用なら好きにキャーキャーしてるところなんだけど、世話になってる身の上としては下手して放り出されちゃかなわない。


「お邪魔なようなのでわたしはこれで……」

「ノミヤもそこにいろ」

「はぁ……」


 空気を読んだつもりが読み違えたらしい。わたしは殿下の肩揉みをやめて壁際に下がり、グレン様のお言葉を待つ。

 ちなみに私の名前は野宮水望ノミヤミナモ

 こちらの世界ではわたしの名前は呼び辛いらしく、ほとんどがわたしの名字をノミャと言い、殿下はミナモをニャモと呼ぶ。

 だからこちらでのわたしはニャモ・ノミャとなんともふにゃふにゃな呼称が定着しているのが複雑だ。ちゃんと呼ぶのはグレン様くらい。

 そのグレン様は殿下に耳打ちで何かを伝え、その後わたしの方をちらりと見た。

 なんでしょう?

 なんとなく雰囲気からわたしの話題をだと感じ取り、瞬きを数回。平然を装っているけど内心は解雇通知かしらと冷や冷やして殿下のお言葉を待つ。


「突然だが率直に言うとニャモ、俺らはこの一ヶ月、ずっとお前の周囲にあらゆる罠を張り続けた」

「は? 罠を?」

「ああ、張った。落とし穴、異物落下装置、痺れ針、あらゆるトラップを張り続けた」


 どやっと自慢気に指折り罠の種類を数える殿下にわたしはおずおすと物申す。


「わたし、そんな罠に覚えはないんですが……」

「そうだろうとも。何しろ罠は全て不発或いは回避されているのだからな」


 んん?

 ますます首を捻るとグレン様が殿下の後を継ぐ。


「実は思うところがあり、秘密裏にノミヤを検証させて貰っていた」

「罠を仕掛けてですか?」

「ああ。無論死なないように加減は施した。ある日は殿下自身が口にする茶葉の一つに毒を盛ってみたが、お前はそれを無効にする配合で回避した」

「ぐ、偶然です」

「それも分かっている。だが、偶然は千回も続かないだろう?」

「千……」


 それって千も罠を仕掛けてたって事か? たった一ヶ月で?


「グレンも途中から躍起になってな、なかなか際どいのを仕掛けてたんだが悉く交わされたと舌打ちしてたぞ」

「グレン様酷いっ」

「大人気なかった……」


 からから笑う殿下を横にグレン様を睨むとさすがに彼もすまなそうに頭を下げた。


「とまぁ、これらを無意識に回避する能力がニャモにはあると確信したわけだが……」


 意味ありげに語尾を小さくした殿下はおもむろに席を立ち、わたしの足元に膝をついてわたしの手を取った。


「‘豊穣の雨’よ、幸運の女神よ……その恩恵を我に与えてくれまいか?」


 そしてそっと手の甲に口付け。


「で! でででで殿下!?」

「実に分かりやすい動揺だな」

「殿下、ノミヤは危機回避能力以外は普通の娘です。お戯れもほどほどに……」

「承知している。なぁ、ニャモ、お前は常日頃自身の存在価値に悩んでいただろう?」


 声に出した事はないのにわたしの気持ちを見抜いていた殿下は怪しげに笑う。


「喜べ。お前に生きる意義、俺に尽くす喜びを与えよう。お前はこれから毎日俺と共に行動し、俺を危機から守るのだ」

「へ!?」


 声を裏返すとグレン様は険しい顔でわたしに詰め寄る。


「殿下は立場上、お命を狙われやすい。私の手が回らないところをノミヤの規格外の幸運で守って貰いたいのだ」

「規格外て……」


 そんな才能があると知ってたら宝くじを買ってたよ。

 へなへなと腰を抜かせてわたしは小さく頷く。

 だって普通に普通な普通の平凡な女子が、イケメン二人に詰め寄られて懇願されて断れるかってーの。

 未だ納得出来ないまま殿下に抱き起こされたわたしは、青い顔で「よろしくお願いします」と頭を下げた。殿下は喜んでわたしの頭を撫でられた。


 

なろう系平凡主人公実は○○チートみたいなのを書いてみたくてぽちぽち作りました。

あらすじ通り、設定を残したかったんです。


チートも無双も好きだけど、次に繋がる展開を考えると壮大な能力は扱いきれないので、幸運値が最高みたいなものになりました。

防御力低くても幸運で回避とか神憑った回避率です。一見万能に見えない部分が侮れて好きだなぁと単なる好みか。

連載版なんて余裕はないのでメモ用SSでなんかごめんなさい。



2013/9/12

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