ジェイバー、現る!
ヒーローコメディーものです。見た目イメージは某宇宙刑事チックなものをイメージしていただけると幸いです。ところどころパロディやオマージュが入るかもしれませんので、そういった描写がアウトな人には非推奨です。
「必ィィッィィィ殺ッ!!シャァァァァァァァイニング・カリバァァァァァァ!!」
ソレは、暗雲立ち込める空へと跳躍し、必殺の掛け声と同時に天にかざした光剣を振り下ろした。
光の衝撃波が、恐怖にすくんだ怪人を包み、縦一文字を刻む。直後、怪人は爆散した。
ここは、町はずれにある廃工場地帯であり、派手な爆発があっても、周りへの被害はゼロだ。街に被害が出てはいけない。だからここまで奴らを誘導した甲斐があった。
ソレはそんなことを思いながら、着地した態勢のまま爆発を眺め、終わったことを悟ると構えを解いた。持っていた細身の剣はもはや光を放っていない。闘いが一つ、終わった。
そこへ、わらわらと駆け寄る男女三人組がいた。それぞれがマイク、カメラ、ライトをもっている。
「やりましたー!!またしても、我々は彼に救われたのです!!」
マイクを持った女がソレの横に立ち、一方的にまくしたてる。カメラを持った男がそれを撮影し、ライトの男がカメラに映らないようにしながら、その場を照らした。
「視聴者の皆さん、我々は今!大きな悪意によって脅かされつつあります!しかしっ!しっかぁぁし!!ご安心ください。影ある所に光あり、悪あれば正義をもってこれに立ち向かう!それすなわちヒーロー!!我々を悪から守るヒーローがここにいるのです!!」
カメラがマイク女もとい熊倉エミ子(2X歳・独身)から隣のソレにスライドした。
お茶の間に届けられているであろう画像にはこんな姿がうつされている。
ライトに照らされ淡く輝く、全身を覆う白銀のプロテクト・アーマー。
バイザーの下、すべての悪を見逃さない真っ赤に光る眼。
数か月前突如として現れた世界征服を狙う謎の組織“ブラックショック”。それと時を同じくして現れた謎のヒーロー。
人はソレをこう呼ぶ、“正義の剣・ジャスティスセイバー”通称ジェイバーと!!
「では、ジェイバーさん。今回の怪人は一体何をたくらんでいたのですか?」
「……ノーコメント。それと、あまり周りをウロチョロしないでほしい。戦いづらくなる」
「善処します。ところであなたは一体どこからやってきたのですか?」
「それもノーコメント。……こっちにもいろいろあるんだ。どいてくれ」
「あ、ちょっと、まだ話が……」
「……ジェイ・キャリアー!!カァァム・ヒアァァッ!!!」
右腕を天に向けてポーズを取り、掛け声を発すると流線形シルエットの真っ赤なバイクがすっ飛んできた。
すかさずまたがると、ジェイバーは颯爽と去っていった。
廃工場群にポツンと、三人が取り残される。
「行ってしまいました……。突如現れた謎の組織、そしてそれに立ち向かうヒーロー。彼らは一体、何者なのでしょうか?我々T・T・T(とんでも突撃テレビ)取材班は今後も取材していきたいと思います」
ひとしきりカメラにまくしたてると、熊倉アナとカメラはジェイバーの去っていった方向をしばらくの間ずっと見ていた。
真紅のマシンにまたがったジェイバーは廃工場地帯を抜けて、林道を走っていた。
周囲には人も車もいない。林が延々と続くだけだ。
突然ジェイバーはバイクを電柱横によせ、停車させた。
「……」
バイクから降り、電柱に手をついて急にその場にしゃがみこんだ。
『マスター?またですか?』
バイクに備え付けられたスピーカーから声がでた。喋ったのはバイク自身だ。J・キャリアーは人工知能を搭載したスーパーバイクである。喋ることの他、無人で走る等、そりゃもう色々とできるのだ。
ジェイバーはそんな相棒の言葉が聞こえないのか、その場で呪詛めいた呻き声を上げはじめた。
「マタ、ハズカシイマネヲシテシマッタ。マタ、ハズカシ…」
ブツブツ繰り返し、メタルに輝くスーツ姿のヒーローがしゃがみ込んでまるで酔っ払いが電柱の陰で戻しているような姿に哀愁よりもシュールさだけが際立っている。
『マスター?いいかげん戻ってきてくださーい』
さらにキャリアーが続ける。きっと人間であればやれやれと肩をすくめているところだろう。
「……ネヲシテシマッタ……ブツブツ……なぁ?ほん、っとにコレ、音声入力じゃなきゃだめなの?」
顔を上げ、情けない声でバイクに問いかける。
『それに関してはワタシにもどうしようもありません。仕様の決定権はすべてドクターにありますから』
「……なんでイマドキ、変身ヒーローなんだよ。しかも変身から必殺技から何から何まで音声入力、しかも叫んでポーズつけなきゃダメとかなんだよ。テレビの中だけにしてくれよ。あぁ、恥ずかしいったらありゃしねぇ」
『ハイハイ、文句は帰ってから帰ってから。とにかく今は帰りましょうね。ドクターが待ってますよー』
バイクに諭されてしまった。納得できないが、致し方ない。ジェイバーは再びバイクにまたがる。
「くそぅ、姉貴め……ブツブツ」
白銀のマスクが風を受けながらまだ愚痴っていた。
『やれやれ……都市部に入る前に変身解除しときましょう』
言われるまでもない。こんな恰好で街中なんてゴメンだ。
「……アーマー・オフ。カムフラージュ・オン」
ジェイバーがヤケクソ気味に呟いた。マスク内のマイクがその声を拾う。
瞬間、白銀のスーツが風に解けるように粒子となって宙へ散っていく。
白銀のヒーローに代わって学ラン姿の少年がそこにいた。身長は低くないがさりとて高くもない。
目鼻立ちは整ってはいるが今一つパッとしない。そんな少年がそこにいた。彼こそがジェイバーの正体。白崎タクム花の十七歳だ。
さらに、真紅のマシンにも変化があった。一瞬バイクの車体が蜃気楼のように揺らめく。するとそこには真紅の流線型マシンの姿はなく、緑と白の原チャリ。いわゆるカブだ。
J・キャリアーの機能の一つ、電磁迷彩機能による擬態だ。
「……なぁ、オマエも姉貴に文句言ってもいいんじゃないか?」
タクムがヘルメットをかぶりながらカブに向かって言う。
『……お心使いありがとうございます。ですが、問題ありません。ええ、まったく』
お前も苦労してんだな。と、やるせない気持ちいっぱいのタクムは都市部へとカブを走らせた。
向かう場所はタクムの姉であり、ジェイバー・システムの生みの親である白崎博士の所だ。